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日本 2024年 4月に改正された不正競争防止法とは

2024年 4月 4日
浅村特許事務所 知財情報


日本 2024年 4月に改正された不正競争防止法とは


 

 

 不正競争防止法等の一部を改正する法律(知財一括法)において、2024年 4月 1日に施行された不正競争防止法につき概要を説明します。

 

   
  デジタル空間における模倣行為の防止 【不競法2条1項3号】
  営業秘密・限定提供データの保護強化 【不競法2条】
  損害賠償額算定規定の拡充 【不競法5条】
  使用等の推定規定の拡充 【不競法5条の2】
  国際的な営業秘密侵害事案に関する訴えの管轄権の強化 【不競法19条の2等】
  外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充 【不競法21条等】
  法人両罰の有無による罰則規定の整備、及び罰則の構成要件に該当する行為を行った時期を明確にする趣旨の規定の改訂

 

 

1.デジタル空間における模倣行為の防止 【不競法2条①3 19条①6】

従来
改正前の不競法2条1項3号のいわゆるデッドコピー防止規定は、有体物の商品形態の模倣行為を防止することを前提として規定されていました。

問題点
しかし、メタバースやSNS等のデジタル空間上での商品形態の経済取引が活発となり、精巧なデジタル空間上の形態模倣行為が多くなりました。

改正内容
そのため、かかる現状を踏まえ、デジタル空間上の商品を保護すべく、
このデジタル空間上の形態模倣行為も不正競争行為の対象とし、差止請求権等が行使できるように改正がされました。      
具体的には、他人の商品の形態を模倣した商品を「電気通信回線を通じて提供する」行為も「不正競争」とし、不競法2条①3に追加しました。

【不競法2条1項3号】
この法律において「不正競争」とは、他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を 譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為をいう。

 出典・編集:令和5年 経済産業省知的財産 政策室 不正競争防止法の改正に伴う 逐条解説等の改訂方針(案)について

※画像提供:chloma  chloma – official web store chloma 2021年秋冬コレクション- FASHIONSNAP  Fashion Tech News (zozo.com)
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① リアルの商品の形態をリアル空間で模倣して提供する行為
  に加え、新たに以下の行為もデッドコピーの対象となりました。

② リアルの商品の形態をデジタル空間上で模倣して提供する行為

③ デジタルの商品の形態をリアル空間で模倣して提供する行為

④ デジタルの商品の形態をデジタル空間上で模倣して提供する行為

 

 

2.営業秘密・限定提供データの保護強化 【不競法2条⑦】

従来
3次元高精度地図データなどのビッグデータ(限定提供データ)を他社に共有するサービスにおいて、 従来は、他社と共有するビッグデータは秘密管理されるものではないと想定し、秘密管理がされていないビッグデータのみを保護対象としていました。

改正内容
しかし近年、自社で秘密管理しているビッグデータであっても他者に提供するという企業実務があることから、
ビッグデータを秘密管理している場合も含めて「限定提供データ」とするため、保護範囲の拡充を行いました。
したがって、ビッグデータを秘密管理している場合でも侵害行為の差止請求等の民事的措置が可能となります。

【不競法2条7項】
「限定提供データ」とは、業として特定の者に提供する情報として電磁的方法により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(営業秘密を除く。)をいう。

 

 

3.使用許諾相当額の増額賠償請求の導入

(1)損害賠償算定規定の拡充1 【不競法5条①】

従来
営業秘密等の損害額(逸失利益)は、侵害行為と損害との因果関係が明らかでない場合が多く、立証が困難でした。
そのため、改正前は、損害額を原則「侵害品の販売数量×被侵害者(営業秘密保有者)の1個当たりの利益」と推定して算定することで、立証負担を軽減していました。

問題点
しかしながら、被侵害者の生産・販売能力超過分の損害額の請求は、認められていませんでした。

改正内容
そのため、適切な損害回復を図るべく、超過分は侵害者に使用許諾(ライセンス)したとみなし、 使用許諾料相当額として損害賠償額を増額できる規定を特許法等にならい追加しました。
これにより損害賠償訴訟において、被侵害者である生産能力等が限られる中小企業であっても、 生産能力を超える損害分を使用許諾料(ライセンス料)相当額として増額請求をすることを可能となりました。
また、「物を譲渡」する場合に限定されていた対象を、デジタル化に伴うビジネス多様化を踏まえ、 「データや役務を提供」する場合にも拡充しています。

引用:令和5年11月 不正競争防止法の改正に伴う 逐条解説等の改訂方針(案)について

 

(2)損害賠償算定規定の拡充2 【不競法5条④】

従来
不正競争によって営業上の利益を侵害された者が、侵害者にその「使用」 に対して使用許諾料相当額を損害額として請求することが可能でした。

問題点
しかしながら、

① 侵害者は被侵害者の許諾をせずに営業秘密等を使用等しており、被侵害者にとっては許諾するかどうかの判断機会が失われている

② 通常、ライセンス契約を締結するにあたり、ライセンス料の支払条件等ライセンシーは様々な制約を受ける が、侵害者は何ら制約なく侵害行為を行っていた。

改正内容
そのため、これらの事情を使用許諾料相当額の増額要因として考慮されるべきとして、
裁判所が、使用許諾料相当額の認定するにあたり、不正競争があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨の規定を、 特許法102条4項の規定にならい追加しました。


4.使用等の推定規定の拡充【不競法5条の2②③】

従来
原告(営業秘密保有者)から不正取得した営業秘密(生産方法等)を被告(侵害者)が 実際に使用しているかを原告が立証することは困難でした。 そこで、「被告が営業秘密を不正取得」し、かつ、その営業秘密を使用すれば生産できる製品を生産している場合には、 被告がその営業秘密を使用したと推定する規定が設けられています(不競法5条の2①)。

問題点
しかし、推定規定の適用対象となる被告は、産業スパイ等の悪質性の高い者に限定されていました。

改正内容
そのため、オープンイノベーション・雇用の流動化を踏まえ、推定規定の適用対象(「被告が「営業秘密」を不正取得」したとする対象を、 元々アクセス権限のある者 (元従業員)や不正な経緯を知らずに転得したがその経緯を事後的に知った者であって、 同様に悪質性が高いと認められる場合に限り拡充する改正を行いました(不競法5条の2②③)。

引用:令和5年11月 不正競争防止法の改正に伴う 逐条解説等の改訂方針(案)について

 

5.国際的な営業秘密侵害事案に関する訴えの管轄権の強化【不競法19条の2、19条の3】

従来
日本国内で事業を行う企業の営業秘密が侵害された場合、刑事(懲役・罰金)では海外での侵害行為も処罰可能(国外犯処罰)でした。

問題点
一方、民事(差止・損害賠償)では、日本国内の裁判所で日本の法律 (不正競争防止法)に基づき裁判を受けられるのか、事案によっては不明確でした。
すなわち、国際裁判管轄は「民事訴訟法」・準拠法(事案に適用される法律)は、
「法の適用に関する通則法」に基づき裁判所が「侵害の結果が発生した地」をどのように判断するか次第でした。
そのため、判断によっては、国際裁判管轄・準拠法が日本・日本法ではない可能性がありました。

改正内容
日本の裁判所で日本の不正競争防止法に基づき民事訴訟を提起することできることを明確にするための規定を設けました(不競法19条の2)。 ただし、当該営業秘密が専ら日本国外において事業の用に供されるものである場合は、 従来と同様に、「民事訴訟法」・「法の適用に関する通則法」に基づき裁判所にて判断がなされます(不競法19条の3但書)。

引用:令和5年11月 不正競争防止法の改正に伴う 逐条解説等の改訂方針(案)について

 

6.外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充【不競法18条①、21条④⑩⑪、22条①1】

 OECD外国公務員贈賄防止条約をより高い水準で的確に実施するため、
自然人及び法人に対する法定刑を引き上げるとともに、日本企業の外国人従業員(従業員の国籍は問わず)による海外での単独贈賄行為も処罰対象とする改正が行われました(両罰規定により、法人の処罰対象も拡大)。

 (1)自然人及び法人に対する法定刑を引き上げ 【不競法21条④、22条①1】

 自然人: 3,000万円以下の罰金、10年以下の懲役。      
 法人 :  10億円以下の罰金へ増額。

引用:令和5年11月 経済産業省知的財産政策室 外国公務員贈賄に関する ワーキンググループにおける審議経過

 なお、控訴の時効は、5年から7年となります。 今回、5年以下の懲役から10年以下の懲役に懲役刑が引上げられたことから、適用される刑事訴訟法条文も250条②5から250条②4に変更になり、 その結果、控訴時効も変更になりました。

 

(2)日本企業の従業員による海外での単独贈賄行為処罰対象の拡充 【不競法21条⑪】  

 従来、従業員が日本人の場合だけが対象でしたが、外国国籍の従業員による海外での贈賄行為についても、処罰が可能になりました。

引用・編集:令和5年11月 経済産業省知的財産政策室 外国公務員贈賄に関するワーキンググループにおける審議経過

 

 

7.法人両罰の有無による罰則規定の整備、及び罰則の構成要件に該当する行為を行った時期を明確にする趣旨の規定の改訂

  不正競争防止法において、法人両罰の有無による罰則規定の整理、及び罰則の構成要件に該当する行為を行った時期を明確にする趣旨の規定の改正を行いました。

 

2024年 4月 1日に施行された知財一括法概要については、こちらをご覧ください。