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日本 2024年 4月 1日に施行される知財一括法 概要

2024年 3月26日
浅村特許事務所 知財情報


日本 2024年 4月 1日に施行される知財一括法 概要


 

 

 不正競争防止法等の一部を改正する法律(知財一括法)において、2024年 4月 1日に施行されるものを纏めました。

 

 

 2024年 4月 1日 施行

  特許法等 出願審査請求手数料減免制度の見直し 【特許法195条の2等】
  
  商標法  コンセント制度の導入 【商標法4条4項】
       他人の氏名を含む商標の登録要件の緩和 【商標法第4条1項8号】
  
  不競法  デジタル空間における模倣行為の防止 【不競法2条1項3号】
       営業秘密・限定提供データの保護強化 【不競法2条】
       損害賠償額算定規定の拡充 【不競法5条】
       使用等の推定規定の拡充 【不競法5条の2】
       国際的な営業秘密侵害事案に関する訴えの管轄権の強化 【不競法19条の2等】
       外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充 【不競法21条等】
       法人両罰の有無による罰則規定の整備、及び罰則の構成要件に該当する行為を行った時期を明確にする趣旨の規定の改訂

特許法

  1.出願審査請求手数料減免制度の見直し 【特許法195条の2但書、195条の2の2但書】

  令和元年に施行した中小企業向け等の特許に関する手数料の減免制度ですが、
中小企業等から大企業の平均的な出願審査請求件数を上回る減免申請が多数されている現状がありました。
かかる減免申請は、資力等の制約がある者の発明奨励・産業発達促進という制度趣旨にはそぐわす、 不当に手数料が減免されることによって支援制度の恩恵を受けるのは、制度の公平性を欠く状況にありました。  

 そのため、経済的に特に困難であると認められる者以外の者に対し、出願審査請求における手数料減免請求の件数に一定の限度を設けました(特許法195条の2但書)。  

 なお、高い新産業創出能力が期待されるスタートアップ、小規模事業者、福島特措法認定中小や、企業とは性質が異なる大学・研究機関等に対しては、上限を設けないことが想定されています(特許法195条の2の2但書)。

(引用:特許庁総務部総務課制度審議室 不正競争防止法等の一部を改正する法律【知財一括法】の概要)

 

商標法

  1.コンセント制度(併存合意制度)の導入 【商標法第4条④】

 「コンセント制度」とは、他人の先行登録商標と同一又は類似の商標が出願された場合であっても、当該先行登録商標の権利者による同意があれば両商標の併存登録を認める制度のことをいいます。

 出所混同防止の観点から、他人の登録商標に類似する商標は商標登録を受けることができません(商標法4条①11)。  

 コンセント制度は、米国、欧州、 台湾、シンガポール等、既に多くの国・地域で導入され、グローバルなコンセント契約が締結されることがある一方、我が国では導入がされていなかったため、海外ユーザーによる日本での商標登録の際の障壁となることがありました。

 そのため、他人の先行登録商標と同一又は類似の商標が出願された場合であっても、当該先行登録商標の権利者による同意があれば両商標の併存登録を認める制度を導入しました(商標法4条4項)。

 ただし、先行登録商標の権利者による同意があっても、なお出所混同のおそれがある場合には登録を認めない留保型コンセント制度とし、出所混同のおそれの有無を審査するとともに、登録後においては、混同防止表示の請求(商標法24条の4①1)や不正使用取消審判の請求(商標法52条の2)を可能にすることで、需要者の利益保護を図ることとしました。

 なお、上記により登録された商標について、不正の目的でなくその登録商標を使用する行為等は不正競争として扱わなくしたことで(不競法19条①3)、周知・著名性を獲得した商標権者が一方の商標権者に対し不正競争防止法に基づく差止請求等を行うことができないよう、不正競争防止法においても配慮がされています。

 また、類似する商標が併存することにより営業上の利益が侵害され、侵害されるおそれがあるため、商標権者は、相手側に対し混同防止表示を付すよう、請求をすることができます(不競法19条②2)。

 詳細は、日本 商標 コンセント制度の導入 をご参照ください。

 

2. 他人の氏名を含む商標の登録要件の緩和 【商標法第4条①8】

 従来、他人の人格的利益を保護する観点から、構成中に他人の氏名等を含む商標は、当該他人の承諾がない限り商標登録を受けることができませんでした(改正前商標法4条①8)。

しかし、

 ① 本規定が他人の人格的利益を過度に保護し過ぎている印象がある等の学識経験者からの指摘

 ② ファッション業界を中心に、ブランド戦略上、氏名商標は必要不可欠である等のニーズ

 ③ 米国、欧州、中国及び韓国等の諸外国において、他人の氏名を含む商標に関する制度として他人の氏名の知名度を要件とする制度が導入されていることから、登録商標の使用をする商品役務の分野において、需要者の間に広く認識されている他人の氏名を含む商標の場合の登録要件を緩和したものです(商標法4条①8)。

 

【商標法第418号】
第4条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
8 他人の肖像、若しくは他人の氏名(商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名に限る。)若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)、又は他人の氏名を含む商標であって、政令で定める要件に該当しないもの


 なお、「他人の氏名」には一定の知名度の要件を課し、具体的にはこの要件は政令で定められます(商標法4条①8)。

「出願人側の事情を考慮する要件(「政令要件」)」を課したのは、
一定の知名度を有していない「他人の氏名」を含む商標登録出願について、一律に商標法4条①8号の対象外としてしまうと、出願に係る商標に含まれる氏名とは無関係な者が濫用的に出願する可能性を懸念したためです。

 この2要件を満たす場合には、商標法4条①8の適用はありません(他人の承諾なしに他の登録要件を満たせば商標登録を受けることができます)。

「他人の氏名」とは、他人による商標登録により人格権侵害が生じる蓋然性が高い、商標の使用をする商品又は役務の分野の需要者の間に広く知られている氏名、とする。


 ① 一定の知名度要件(氏名に一定の知名度を有する他人が存在しないか)
   氏名に一定の知名度を有する他人が存在しない場合は、承諾不要。

 ② 政令要件 (出願人側の事情を考慮する要件を満たしているか)
   以下の2つの要件を満たすこと。

  1)商標に含まれる他人の氏名と商標登録出願人との間に「相当の関係性」があること

  2)商標登録出願人が商標登録を受けることに「不正の目的」がないこと

改正後の4条1項8号審査の流れ

引用・編集:特許庁 第33条商標審査ワーキンググループ資料1

 

なお、改正商標法第8条1項8号の規定は、施行日(2024年4月1日)以後にした出願について適用されます。


不正競争防止法

1.デジタル空間における模倣行為の防止 【不競法2条①3 19条①6】

従来
改正前の不競法2条1項3号のいわゆるデッドコピー防止規定は、有体物の商品形態の模倣行為を防止することを前提として規定されていました。

問題点
しかし、メタバースやSNS等のデジタル空間上での商品形態の経済取引が活発となり、精巧なデジタル空間上の形態模倣行為が多くなりました。

改正内容
そのため、かかる現状を踏まえ、デジタル空間上の商品を保護すべく、
このデジタル空間上の形態模倣行為も不正競争行為の対象とし、差止請求権等が行使できるように改正がされました。      
具体的には、他人の商品の形態を模倣した商品を「電気通信回線を通じて提供する」行為も「不正競争」とし、不競法2条①3に追加しました。

【不競法2条1項3号】
この法律において「不正競争」とは、他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を 譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為をいう。

 出典・編集:令和5年 経済産業省知的財産 政策室 不正競争防止法の改正に伴う 逐条解説等の改訂方針(案)について

※画像提供:chloma  chloma – official web store chloma 2021年秋冬コレクション- FASHIONSNAP  Fashion Tech News (zozo.com)
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① リアルの商品の形態をリアル空間で模倣して提供する行為
  に加え、新たに以下の行為もデッドコピーの対象となりました。

② リアルの商品の形態をデジタル空間上で模倣して提供する行為

③ デジタルの商品の形態をリアル空間で模倣して提供する行為

④ デジタルの商品の形態をデジタル空間上で模倣して提供する行為

 

 

2.営業秘密・限定提供データの保護強化 【不競法2条⑦】

従来
3次元高精度地図データなどのビッグデータ(限定提供データ)を他社に共有するサービスにおいて、 従来は、他社と共有するビッグデータは秘密管理されるものではないと想定し、秘密管理がされていないビッグデータのみを保護対象としていました。

改正内容
しかし近年、自社で秘密管理しているビッグデータであっても他者に提供するという企業実務があることから、
ビッグデータを秘密管理している場合も含めて「限定提供データ」とするため、保護範囲の拡充を行いました。
したがって、ビッグデータを秘密管理している場合でも侵害行為の差止請求等の民事的措置が可能となります。

【不競法2条7項】
「限定提供データ」とは、業として特定の者に提供する情報として電磁的方法により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(営業秘密を除く。)をいう。

 

 

3.使用許諾相当額の増額賠償請求の導入

(1)損害賠償算定規定の拡充1 【不競法5条①】

従来
営業秘密等の損害額(逸失利益)は、侵害行為と損害との因果関係が明らかでない場合が多く、立証が困難でした。
そのため、改正前は、損害額を原則「侵害品の販売数量×被侵害者(営業秘密保有者)の1個当たりの利益」と推定して算定することで、立証負担を軽減していました。

問題点
しかしながら、被侵害者の生産・販売能力超過分の損害額の請求は、認められていませんでした。

改正内容
そのため、適切な損害回復を図るべく、超過分は侵害者に使用許諾(ライセンス)したとみなし、 使用許諾料相当額として損害賠償額を増額できる規定を特許法等にならい追加しました。
これにより損害賠償訴訟において、被侵害者である生産能力等が限られる中小企業であっても、 生産能力を超える損害分を使用許諾料(ライセンス料)相当額として増額請求をすることを可能となりました。
また、「物を譲渡」する場合に限定されていた対象を、デジタル化に伴うビジネス多様化を踏まえ、 「データや役務を提供」する場合にも拡充しています。

引用:令和5年11月 不正競争防止法の改正に伴う 逐条解説等の改訂方針(案)について

 

(2)損害賠償算定規定の拡充2 【不競法5条④】

従来
不正競争によって営業上の利益を侵害された者が、侵害者にその「使用」 に対して使用許諾料相当額を損害額として請求することが可能でした。

問題点
しかしながら、

① 侵害者は被侵害者の許諾をせずに営業秘密等を使用等しており、被侵害者にとっては許諾するかどうかの判断機会が失われている

② 通常、ライセンス契約を締結するにあたり、ライセンス料の支払条件等ライセンシーは様々な制約を受ける が、侵害者は何ら制約なく侵害行為を行っていた。

改正内容
そのため、これらの事情を使用許諾料相当額の増額要因として考慮されるべきとして、
裁判所が、使用許諾料相当額の認定するにあたり、不正競争があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨の規定を、 特許法102条4項の規定にならい追加しました。


4.使用等の推定規定の拡充【不競法5条の2②③】

従来
原告(営業秘密保有者)から不正取得した営業秘密(生産方法等)を被告(侵害者)が 実際に使用しているかを原告が立証することは困難でした。 そこで、「被告が営業秘密を不正取得」し、かつ、その営業秘密を使用すれば生産できる製品を生産している場合には、 被告がその営業秘密を使用したと推定する規定が設けられています(不競法5条の2①)。

問題点
しかし、推定規定の適用対象となる被告は、産業スパイ等の悪質性の高い者に限定されていました。

改正内容
そのため、オープンイノベーション・雇用の流動化を踏まえ、推定規定の適用対象(「被告が「営業秘密」を不正取得」したとする対象を、 元々アクセス権限のある者 (元従業員)や不正な経緯を知らずに転得したがその経緯を事後的に知った者であって、 同様に悪質性が高いと認められる場合に限り拡充する改正を行いました(不競法5条の2②③)。

引用:令和5年11月 不正競争防止法の改正に伴う 逐条解説等の改訂方針(案)について

 

5.国際的な営業秘密侵害事案に関する訴えの管轄権の強化【不競法19条の2、19条の3】

従来処
日本国内で事業を行う企業の営業秘密が侵害された場合、刑事(懲役・罰金)では海外での侵害行為も処罰可能(国外犯処罰)でした。

問題点
一方、民事(差止・損害賠償)では、日本国内の裁判所で日本の法律 (不正競争防止法)に基づき裁判を受けられるのか、事案によっては不明確でした。
すなわち、国際裁判管轄は「民事訴訟法」・準拠法(事案に適用される法律)は、
「法の適用に関する通則法」に基づき裁判所が「侵害の結果が発生した地」をどのように判断するか次第でした。
そのため、判断によっては、国際裁判管轄・準拠法が日本・日本法ではない可能性がありました。

改正内容
日本の裁判所で日本の不正競争防止法に基づき民事訴訟を提起することできることを明確にするための規定を設けました(不競法19条の2)。 ただし、当該営業秘密が専ら日本国外において事業の用に供されるものである場合は、 従来と同様に、「民事訴訟法」・「法の適用に関する通則法」に基づき裁判所にて判断がなされます(不競法19条の3但書)。

引用:令和5年11月 不正競争防止法の改正に伴う 逐条解説等の改訂方針(案)について

 

6.外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充【不競法18条①、21条④⑩⑪、22条①1】

 OECD外国公務員贈賄防止条約をより高い水準で的確に実施するため、
自然人及び法人に対する法定刑を引き上げるとともに、日本企業の外国人従業員(従業員の国籍は問わず)による海外での単独贈賄行為も処罰対象とする改正が行われました(両罰規定により、法人の処罰対象も拡大)。

 (1)自然人及び法人に対する法定刑を引き上げ 【不競法21条④、22条①1】

 自然人: 3,000万円以下の罰金、10年以下の懲役。      
 法人 :  10億円以下の罰金へ増額。

引用:令和5年11月 経済産業省知的財産政策室 外国公務員贈賄に関する ワーキンググループにおける審議経過

 なお、控訴の時効は、5年から7年となります。 今回、5年以下の懲役から10年以下の懲役に懲役刑が引上げられたことから、適用される刑事訴訟法条文も250条②5から250条②4に変更になり、 その結果、控訴時効も変更になりました。

 

(2)日本企業の従業員による海外での単独贈賄行為処罰対象の拡充 【不競法21条⑪】  

 従来、従業員が日本人の場合だけが対象でしたが、外国国籍の従業員による海外での贈賄行為についても、処罰が可能になりました。

引用・編集:令和5年11月 経済産業省知的財産政策室 外国公務員贈賄に関するワーキンググループにおける審議経過

 

 

7.法人両罰の有無による罰則規定の整備、及び罰則の構成要件に該当する行為を行った時期を明確にする趣旨の規定の改訂

  不正競争防止法において、法人両罰の有無による罰則規定の整理、及び罰則の構成要件に該当する行為を行った時期を明確にする趣旨の規定の改正を行いました。