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中国 「商標権侵害判断基準」の理解及び適用Ⅲ

2023年 2月17日
浅村特許事務所


中国 「商標権侵害判断基準」の理解及び適用Ⅲ


 

   

浅村特許事務所
中国弁護士   鄭 欣佳

 

中国知識産権局が公表した「商標権侵害判断基準」の逐条解説から重要な内容をいくつかピックアップして紹介します。
今回は第三回目です。

 

「商標権侵害判断基準」の理解及び適用Ⅲ  

 2022年 8月12日、中国知識産権局は「商標権侵害判断基準」の逐条解説――「商標権侵害判断基準」の理解及び適用――を公表しました。具体事例・判例等を用いて、商標権侵害判断基準」の各条文を解説しています。    
 今回は、第二回に続き、逐条解説の中から重要な内容をいくつかピックアップして、ご紹介いたします。
 

 

第22条 変更(組み合わせ)された登録商標の使用

 「登録商標を変更、又は複数の登録商標を組み合わせて使用し、同一の商品又は役務において他人の登録商標と同一であること」、この場合は、商標法第57条第1項に規定する商標権侵害に該当します。

 登録商標を変更、又は複数の登録商標を組み合わせて使用し、同一又は類似の商品・役務においての他人の登録商標と類似し、混同されやすい場合は、商標法第57条第2項に規定する商標権侵害に該当します。

 この条文は、登録商標の変更又は登録商標の組合せの使用に関する法律の適用を規定しています。

 登録商標に軽微な変更を加え、登録商標のマークを引き続き表示する場合、又は登録商標であることを表示する場合は、商標法第49条第1項により、登録商標を変更する法律違反行為となります。登録商標に大幅な変更を加えた変更後の商標は、公衆に新しい商標であると信じさせる可能性が高いため、登録商標のマークを引き続き表示し、又は登録商標であることを表示する場合は、商標法第52条により、登録されていない商標を登録商標と偽って使用する行為に該当し、法律違反となります。
  
 登録商標を改変して使用することは、登録商標のマークや登録商標の表示の有無にかかわらず、使用した商標が他人の登録商標の使用を独占する権利の範囲に属するならば、商標権侵害となります。  


 一つの例を挙げます。   

 公牛集团股有限公司は第9類、電気スイッチ、プラグ、ソケット、その他接触器電気コネクタにおいて、 及び  商標を登録しました。上海公牛鸿业贸易有限公司は第9類、電気スイッチ、プラグ、ソケット、その他接触器電気コネクタにおいて、 商標を登録し、第9類、電気スイッチ、ソケット、プラグなどの接続電気的接続において、 商標を登録しました。
  
 その後、上海公牛鸿业贸易有限公司の社名、及び 標章が表記されている電気スイッチ7900個、ソケット183個が権利者、公牛集团股有限公司の通報により発見されました。それらの商品は権利者が製造、ライセンスした商品ではありませんでした。管轄行政庁は、電気スイッチ及びソケットにおいて使用されている 標章は、登録商標 及び の類似商標となり、権利者の商標権を侵害していると判断し、侵害者に侵害の停止を命じ、侵害品を没収、5万元の罰金を科しました。これは、組み合わせた登録商標の使用が他人の商標権を侵害する典型例です。

 

第23条 登録商標と同一・類似する字号の使用

 「他人の登録商標と同一企業名称の字号を同一商品又は役務において目立つように使用すること」、この場合は、商標法第57条第1項に規定する商標権侵害に該当します。
   
 他人の登録商標と類似し、混同されやすい企業名称の字号を同一・類似の商品又は役務において目立つように使用する場合、商標法第57条第2項に規定する商標権侵害に該当します。

 この条文は、企業名称の中の字号を目立つように使用することが既に登録された商標権の侵害となることについて規定しています。
   
 商標は、異なる商品・サービスの出所を識別するための標識です。それに対し、企業名称は、異なる市場主体を識別するための標識であり、その中の字号は、異なる企業を識別するための主要な標識です。商標と企業名称は、それぞれ違う法律よって規制されています。

 字号のフォント、サイズ、色彩を変更することで、フォントサイズの使い方を変更し、目立つように字号を使用することは、商標法における商標の使用に該当することとなり、他人の商標権を侵害する可能性があります。   


一つの例を挙げます。
   

 権利者庆丰包子铺は「慶豐」商標及び「老庆丰+laoqingfeng」商標の所有者です。庆丰餐饮公司は「庆丰」を字号にして飲食店を設立し、その公式ウェブサイト、店頭、メニュー、広告に「庆丰」又は「庆丰餐饮」のロゴを使用していました。その使用は権利者に商標権侵害及び不正競争だと指摘されました。庆丰餐饮公司は、法人が代表の名前(注:代表の名前は「徐庆丰」。)を字号として登録する権利有し、登録した企業名称を使用する権利も有すると主張し、権利者庆丰包子铺が所有する登録商標が著名商標ではなく、自社が使用している標章は権利者の商標と同一ではなく、類似もしていないと反論しました。 
  
 最高人民法院は、庆丰餐饮公司が自社サイトにおいて、「庆丰へようこそ」、「庆丰文化」、「庆丰イベント」、「庆丰ニュース」等のセクションを設置、営業所に「庆丰従業員一同心よりお待ちしております」というバナーを掛けているため、関連する公衆が「庆丰」文字を商品・サービスを識別する標章として認識し、庆丰餐饮公司の「庆丰」標章に対する使用は商標としての使用となっています。「慶豐」商標は1998年、「老庆丰+laoqingfeng」商標は2003に登録され、いずれも2009年に設立された庆丰餐饮公司により早く登録されました。2007年、2008年2年間、権利者計453万元の宣伝広告費を使い、登録された商標は高い知名度を得ることができました。

 
権利者は飲食サービスにおいて「慶豐」商標を登録し、インスタントラーメン、菓子、餡入れ饅頭等の商品において「老庆丰+laoqingfeng」商標を登録しており、全国にわたって高い知名度を有します。「慶豐」と「庆丰」とは漢字の繫体字及び簡体字の対応関係であり、称呼は同一です。庆丰餐饮公司は「庆丰」文字を両登録商標に類似する飲食サービスに使用し、関連する公衆に商品・サービスの出所を誤認させる可能性があります。

 
庆丰餐饮公司の代表徐庆丰は、かつて北京の飲食店で働いたことがあるため、権利者庆丰包子铺の知名度及び影響力を知っているはずです。それにもかかわらず、庆丰餐饮公司は自社サイト、営業所において庆丰包子铺の登録商標と同一、又は類似する商標を目立つように使用しており、庆丰包子铺の登録商標に便乗する悪意があります。
   
 また、国民は氏名権を有し、合理的氏名を使用することができます。ただし、氏名を商標もしくは企業字号としてビジネス上に使用するとき、信義則に違反してはなりません。他人の登録商標が高い知名度と影響力を持っていることを知りながら、同じ商標・サービスに他人の登録商標と同一又は類似する商標もしくは字号を目立つように使用することは、他人の知名商標に便乗する悪意があり、氏名に対する合理的な使用ではないとの、最高人民法院の判断が示されています。

 

第24条 色を指定しない商標の使用

 色を指定しない登録商標は、自由に色を付けることができます。ただし、「便乗の目的で色を付け、同一又は類似の商品・役務において他人の登録商標と類似し、混同を生ずるおそれがある」場合は、商標法第57条第2項により商標権侵害となります。 
  
 登録商標の知名度が高く、侵害者とされる者が登録商標の所有者と同じ業界又はより大きな関係を持つ業界において、正当な理由なく登録商標と同一又は類似の標章を使用する場合、侵害者は便乗の意図があるとみなされます。
 
  
 この条文は、他人の登録商標に便乗する目的で色を付ける行為が商標権侵害に該当すると規定し、便乗意図の判断基準も明らかにしています。
 
  
 実務上、色を指定した登録商標は、出願時に指定した色でしか登録商標として使用できません。色を指定しない登録商標は、どの色にも使用できます。また、便乗を目的とし、色を指定する権利侵害の形について、本基準は、例外を定めています。
 
  
 便乗の意図を認定するには、以下に示す3つの要件を同時に満たさなければなりません。

 1.便乗された登録商標の知名度が高いこと

 2.侵害の被疑者は登録商標の権利者が同業種又は関連性の高い業種であること 「関連性が高い」というのは、両者が商標を使用する商品・サービスの消費者、生産者、事業者のグループが大きく重なっていることを指します。

 3.正当な理由がないのに、登録商標と同一又は類似する標章を使用すること 「正当な理由」とは、侵害被疑者が正当な理由で登録商標に含まれる商品の一般名称、図形、モデル番号等使用することを指します。

 

  一つの例を挙げます。

 権利者トミーヒルフィガーライセンス有限公司は第25類、衣類、ベルト(衣類用)において、 商標を登録し、色を白、赤、青に指定しました。侵害被疑者は衣類等において 商標を登録しましたが、色を指定しませんでした。しかし,実際に商標に使用する際に、被疑者は、権利者の登録商標と同じ色の組合せ標章を同じ商品に 使用しました。権利者は、当事者がその登録商標を侵害したと考えました。

 本件において、権利者の登録商標は四角形の図形で、被疑者の登録商標は六角形の図形であり、類似商標には該当しないものでした。しかし、被疑者は、実際の使用において、その登録商標に権利者の登録商標と同一の色を付し、実質的に同一の配列及び組合せで使用したため、権利者の登録商標と視覚的に類似するものと判断されました。  

 両者を同じ商品に使用することにより、混同を生ずるおそれがあるとして、商標権を侵害するものとなりました。

 

注釈ː


 ① 「字号」は、企業や店の広く知られた略称を指します。例えば、「华为」(日本語:ファーウェイ)という日本でも有名な通信メーカーがあります。この「华为」は、「华为技术有限公司」という企業名の一部ですが、この会社を代表する企業名の核心的な部分で、「字号」といいます。

 ② 市場主体とは、中国において営利を目的として経営活動に従事する自然人、会社、非会社企業法人、パートナーシップ企業及び外国会社の分支機構(支店・駐在員事務所)等を言います。

 ③ 餐饮とは、飲食を言います。