2022年 1月27日
浅村特許事務所
中国 指導事例4号 – 特許分割出願における補償金請求権の起算日
浅村特許事務所
中国弁護士 鄭 欣佳
分割出願の場合、補償金請求権の起算日について、国家知識産権局の解釈です。
一. 背景
日本では、特許法第65 条 1 項において、補償金請求権を認めています。出願公開があつた後に特許出願に係る発明の内容を記載した書面を提示して警告をしたときは、その警告後特許権の設定の登録前に業としてその発明を実施した者に対し、その発明が特許発明である場合にその実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の補償金の支払を請求することができます。
日本と同じく、中国でも出願公開されてから査定されるまでにおける特許実施行為に対し補償金請求権が認められています。この請求権は「臨時保護」とも呼ばれています。
専利法第13条には、特許出願の公開後、出願人はその発明を実施した単位①又は個人に適当額の費用を支払うよう要求することができるという規定があります。更に、専利法実施細則第85条には、特許業務を管理する部門は当事者の請求に応じて、特許出願が公開された後、特許権付与前に、発明を使用したが適切な費用の未払いで発生した紛争について調停を行うことができ、また、調停を求める請求は、特許権が付与された後に提出しなければならないという規定があります。
上記規定により、臨時保護は特許出願の公開日から始まり、特許付与の公告日に終了するものとします。特許出願の公開日は通常明確ですが、分割出願の場合には、基礎となる原出願の公開日とその後の分割出願の公開日は異なる日である場合が多いため、分割出願の臨時保護起算日をいずれの日にするかの判断を行わなければなりません。
分割出願の公開日にするか若しくは原出願の公開日にするかについては、専利法に明確な規定はありません。
二.分割出願における臨時保護起算日の判断及びその理由
結論から言うと、分割出願の臨時保護起算日は、原出願の公開日若しくは分割出願の公開日のいずれか早い日、となります。
起算日の判断について、2つの観点がありました。
一つは、分割出願の公開日を臨時保護の起算日とすべき観点です。その主な理由は、分割出願は原出願と別の単独な出願であり、その公開手続きは原出願と分離されているため、分割出願の公開日は通常、原出願より遅くなります。原出願の公開日を分割出願の臨時保護起算日とすると、分割出願の臨時保護期間は延長されてしまい、公益を害するおそれがあります。
もう一つは、今回の事例により認められた原出願の公開日若しくは分割出願の公開日のいずれか早い日とする観点です。その理由は以下の通りです。
専利法実施細則の第43条には、分割出願の内容は、原出願に記載された範囲を超えてはならないという規定があります。すなわち、分割出願には特許の内容を加えることはできません。従って、原出願が公開されると、分割出願に記載された保護を求める内容も公開がされたことになります。その公開された内容は特許制度により保護されるべきです。
臨時保護は公開された特許が第三者に実施された際の救済措置です。既に公開された特許を臨時保護期間内に第三者が実施することを認め、適切な保護措置を講じなければ、特許権者の権利が侵害され、特許制度の「公開により保護される」趣旨にも反します。
従って、特許権者の権利と公益のバランスを図るため、臨時保護起算日は原出願の公開日若しくは分割出願の公開日のいずれか早い日、としました。
三.その他の説明
臨時保護に関する特許の紛争は特許権侵害と異なります。臨時保護期間中に発明を実施することは権利侵害として認められないため、特許権者は適切な費用(補償金)を請求することができますが、日本と同じく、差止請求権を有しません。
また、臨時保護における費用の支払いに関する紛争について、特許権者が特許業務を管理する部門に調停を求める場合、特許権付与後にしなければなりません。特許権付与前に提出された調停請求は立件されません。
注釈:
①「単位」は中国の最も基本的な社会組織です。企業法人のほか、国家機関、団体、学校、病院なども例として挙げられます。