住所:東京都千代田区大手町1-5-1 大手町ファーストスクエア ウエストタワー17F
TEL:03-6840-1536(代表)

中国 指導事例3号 – 建材付き請負建設工事における商標権侵害

2021年12月14日
浅村特許事務所


中国 指導事例3号 – 建材付き請負建設工事における商標権侵害


 

   

浅村特許事務所
中国弁護士   鄭 欣佳 訳

 

中国国家知識産権局

2021年4月6日公布

 建設工事において、請負人が商標権侵害品を使用した場合、商標権の侵害になるでしょうか。
 中国行政庁の判断を事例で説明いたします。

 

一.  背景  

 建材付き請負建設工事においては、請負業者はコストを抑えるために、登録商標の専用権を侵害する建材を購入・使用することがしばしば見受けられます。

 このような行為は工事の質を低下させ、安全リスクを増加させるうえ、商標権者の登録商標専用権を侵害し、公平な競争秩序に悪影響を与え、社会的危険性があります。また、当該行為の隠蔽性が高く、法律関係も複雑であるため、権利侵害の成立を判断する難易度が高くなります。

 今回の事件は、建材付き請負建設工事における権利侵害品の購入・使用が「中華人民共和国商標法」(以下、「商標法」といいます。)第57条第3項に規定されている“登録商標専用権を侵害する商品を販売する”行為に当たることを明確にしました。

 

二.事件を理解するポイント及びその説明

 中国の現行商標法及び関連法律、司法解釈では、商標法第57条第3項の“販売”について、明確に定義をしていません。そのため、商標専用権侵害行為の境界線を明らかにすることは、類似の事件を検討する上でポイントとなります。

 建材付き請負工事における請負人の登録商標専用権侵害行為について、実務上以下に掲げる誤った認識がありました。

  1.販売”は商品の販売に限り、工事請負のようなサー ビス提供は“販売”に該当しないという認識

  2.請負人が購入した侵害品は工事に使用しており、注文者に転売していないため、その購入は“消費”と解釈されるべきという認識

  3.請負人が侵害品という事実を知らなかった上での購入は、侵害行為にはならないという認識

 上記の認識は、以下の理由により立法目的に反するものです。

  1.“販売”は、“製造以外の営利行為”と理解されるべきです。商標法第57条第3項の“販売”は、第57条第1項、第2項に規定される“使用”に対応するものであり、そのため“製造”以外の営利行為のすべてを含むものです。したがって、加工・請負行為は当然に“販売”に該当します。

  2.請負人の侵害品を購入することは、“消費”には該当しません。建材付き請負工事を行う場合、請負人は建材を購入した後に、購入した建材を使用し工事も行います。請負人が購入した侵害品を使用する行為は一般消費者の行為とは異なり、営利の目的があります。工事完了後に受領した代金には侵害品の対価も含まれ、侵害品の所有権は工事の成果とともに引き渡されます。したがって、注文者と請負人は売買関係であり、請負人の行為は“販売”に該当します。

  3.請負人が購入した製品が侵害品であることを知らなかったかどうかは、その行為の性質に影響しません。商標法の規定により、侵害品であることを知らずに侵害品を販売した場合であって、販売行為を免除することができるのは、販売停止以外の行政責任のみであり、その行為が商標権の侵害行為であるということには変わりありません。

 纏めると、建材付き請負工事を施工する場合において、製品の使用が“侵害品を販売すること”に該当するか否かを判断する際には、下記の要素を検討することになります。

  1.被疑侵害者と注文者との委託方式が、建材付きの請負方式であること

  2.侵害品が請負人と注文者との間で流通しているときには、商標の識別機能は阻害されないこと

  3.請負人の行為は、注文者及び関連する公衆に侵害品出所の混同を生じさせること

 

三.本事件の詳細

 本事件において、当事者「武漢科順聯合防水工事有限公司」は、建材付きの方式により「武漢光谷新天地プロジェクト防水工事」の一部を請負い、工事に使用された建材を労務とともに成果として注文者に引き渡し、工事代金を受領しました。受領した工事代金には侵害品の対価が含まれるため、当事者が工事施工中に侵害品である建材を購入、使用する行為は営利目的があり、販売行為に該当します。
 また、侵害品が請負人と注文者との間に流通しているとき、被疑侵害商標「CKS科順」は鮮明で見やすく、商標の識別機能は阻害されていません。
 最後に、当事者の行為は、注文者及び関連する公衆に混同を生じさせます。
 従って、当事者の行為は商標法第57条第3項に規定されている“登録商標専用権を侵害する商品を販売する”に該当します。


 事件審理中、当事者は“侵害品である事実を知らなかった”ことを理由にし、行政責任の免除を主張しました。
 商標法第60条第2項の規定により、販売者は3つの要件、すなわち“侵害品である事実を知らなかったこと”、“侵害品を合法的に取得したこと”、“提供者について説明できること”を満たさなければ、責任が免除されません。
 本事件おいて、当事者はかつて被疑侵害商標「CKS科順」の代理店であり、当該商標について高い判断力を持ち、CKS科順の防水材の購入ルート、コスト、販売価格を十分理解していたはずです。工事の前期、当事者は正規ルートによりCKS科順の製品を購入して工事に使用していましたが、後期により多くの利益を得るため、非正規ルートによってCKS科順の防水材を購入しました。当事者は購入時に合理的な検査を行わず、試験成績表、合格証明書を確認せず、請求書類の取得も行わなかったのですから、当事者は主観的な悪意を持って権利侵害をしたことは明らかです。したがって、“販売時に、侵害品である事実を知らなかったこと”の要件には該当しません。
 また、当事者が提供者の連絡先を提示しましたが、当該提供者は侵害品を提供した事実を否認しました。当事者は他の証拠を提出することができなかったため、“提供者について説明できること”の要件も満たしていません。
 従って当事者には、販売者責任免除条項を適用することはできません。

 管轄行政庁は商標法及び関連する法律により違法金額が2.28万人民元(約41万円)と認定しました。しかし、当事者は調査している最中に、既に差し押さえられた侵害品を勝手にほかの場所に持ち運んだり、入れ替えたりするなど、証拠隠滅を図っていました。
 そのため管轄行政庁は、より厳しい処罰を与え、20万人民元(約358万円)の罰金を科しています。

 


注釈:

① 建材付き請負建設工事:
  請負人は工事を施工するだけではなく、建材の購入も担当する工事請負の仕方です。中国語で“包工包料”と言います。
  日本では請負人が建材を購入して、施工するのは一般的ですが、中国では注文者自ら建材を購入して、施工のみを請負人に依頼するケースもあります。
  近年、建材価格の透明性が向上したゆえ、建材付き請負建設工事を選ぶ注文者も多くなってきました。
② 免責条項の要件は“侵害品であることを知らなかった”以外、“合法的に製品を取得した”と、“提供者を説明できる”の2つがあります。
③ 同要件で民事責任も免除することができます。