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EPO EPC第53条(b)の特許性の例外に係る審決

浅村特許事務所 知財情報 
 2014年11月28日


EPO EPC第53条(b)の特許性の例外に係る審決


 

 

 

 

【要約】

EPO審判部は、EPC第53条(b)の特許性の例外(本質的に生物学的方法)の解釈、拡大審判部の審決(G2/07(ブロッコリ事件)及びG1/08(トマト事件))、更に、EPC第53条(b)の立法経緯を考慮して、三倍体種無しスイカ果物の生産方法に係るクレーム、及び三倍体種無しスイカ果物の生産方法におけるスイカ植物の使用に係るクレームが、特許性の例外に含まれるとして本出願を拒絶した審査部の決定を取消し、審査部に差し戻した(T1729/06)。

 

EPO審判部は、その審決において、三倍体種無しスイカ果物の生産方法に係るクレーム、及び三倍体種無しスイカ果物の生産方法におけるスイカ植物の使用に係るクレームは、「植物生産のための本質的に生物学的方法」であるとして特許性の例外に含まれる、とした審査部の決定を取消した。

スイスを中心としてアグリビジネスを展開しているSyngenta Participations社は、種無しスイカ果物の生産方法にかかる欧州特許出願をした。その審査において、EPO審査部は、クレームされた主題は、EPC第53条(b)に基づいて特許性の例外とされる植物生産のための本質的に生物学的方法であるとして、当該出願を拒絶した。

その後、審判部による審理の結果、当該決定は取り消され、更に審査に付すため、審査部に差し戻された(審決T1729/06(2014年9月17日))。

本審判部における審理において、[1] EPC第53条(b)における「植物生産のための本質的に生物学的方法」という特許性の例外の解釈を中心に、先行する拡大審判部の2つの審決(G2/07(ブロッコリ事件)及びG1/08(トマト事件))、及び[2] EPC第53条(b)の立法経緯が検討された。

[1] 前記特許性の例外の解釈及び前記拡大審判部の審決に関連する審理

G2/07及びG1/08においては、下記のように結論付けられた(両審決の頭注1より)。

『植物の全ゲノムを有性交配する工程、及びその後、植物を選択する工程を含むか又はこれらの工程のみからなる植物生産のための非微生物学的方法は、基本的に、EPC第53条(b)の意味における「本質的に生物学的」であるとして特許性の例外とされる。』

しかし、本審決(T1729/06)において、審判部は、「拡大審判部は、これらの審決(G2/07及びG1/08)において、植物発明に関して、EPC第53条(b)における方法に対して特許性の例外が適用される主題について、包括的且つ網羅的な定義を与えていない。」と強調した。

従って、本審判部の審理において、Syngenta社によりクレームされた主題の特許性について審決がなされる前に、EPC第53条(b)の更なる解釈が必要であるとした。当該出願は、三倍体種無しスイカ果物を生産する方法、及び三倍体種無しスイカ果物の生産方法における二倍体スイカ植物の使用に係るクレームを有していた。実際の生産方法は、三倍体及び二倍体のスイカ植物の植付け及び栽培、二倍体花粉による三倍体雌花の受粉、及び三倍体植物における種無しスイカ果物の育成を含んでいた。

Syngenta社によりクレームされた使用及び方法は、存在する三倍体スイカ植物を利用して三倍体種無しスイカ果物の生産を目指すものであって、減数分裂の結果として生産される植物の遺伝子構造を作り出すことではなかったとして、本審判部は、クレームされた使用及び方法は、G2/07及びG1/08の審決に係る「植物生産のための本質的に生物学的方法」ではないため、特許性の例外には含まれない、と結論付けた。

更に、本審判部は、クレームされた使用及び方法から得られた果物は、EPC規則26(2)に基づく「生物学的材料」であるので、EPCの下で、明確に且つ先験的に、特許を受けることができる発明の例外とはならないことを確認した。

[2] 前記立法経緯に関連する審理

第53条(b)の対象及び目的並びに法案作成の経緯に関する文書を考慮した結果、本審判部は、立法者は、園芸方法又は農業方法などの全種類の発明を特許性から排除する意図はなかったので、Syngenta社によりクレームされた使用及び方法は、特許性を有すると思われると結論付けた。植物品種を保護する権利は、特許による保護ではなく、UPOV条約の対象であるので、立法者の意図するところは、植物品種の生産のための従来からの繁殖方法を特許から排除することにあったとして、審判部は、クレームされた使用及び方法が第53条(b)(特許性の例外)に含まれることを意図するとの示唆はないと認定した。

 

特許性の例外とされる本質的に生物学的方法に関して、現在、拡大審判部に係属しているG2/12及びG2/13の審決(「トマトII」事件及び「ブロッコリII」事件)が待たれる。

 

T 1729/06:http://www.epo.org/law-practice/case-law-appeals/recent/t061729eu1.html

 

Article 53
Exceptions to patentability

European patents shall not be granted in respect of:

(b) plant or animal varieties or essentially biological processes for the production of plants or animals; this provision shall not apply to microbiological processes or the products thereof;

Rule 26
General and definitions

—       

(2) “Biotechnological inventions” are inventions which concern a product consisting of or containing biological material or a process by means of which biological material is produced, processed or used.

 

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