2024年 3月 1日
浅村特許事務所 知財情報
日本 商標 コンセント制度の導入
不正競争防止法等の一部を改正する法律(知財一括法)が可決・成立し、令和 5年 6月14日法律第51号として公布されました。この法律にて、商標法における「コンセント制度」が導入されます。
コンセント制度の導入は、2024年 4月 1日となります。
経過措置
・コンセント制度は、2024年 4月 1日以降の商標登録出願について適用されます。
したがって、2024年 3月31日までにした商標登録出願については、2024年 4月 1日以後に審査係属中であっても、コンセント制度の適用を受けることはできません。
・2024年 3月31日までに商標登録出願をした場合であって、2024年 4月 1日以降にその出願を原出願として分割出願を行った場合、出願日が遡及するため(10条②)、その分割出願はコンセント制度の適用を受けることはできません。
・2024年 3月31日までにした第一国出願を基礎として2024年 4月 1日以降にパリ条約等による優先権主張をした場合、コンセント制度の適用を受けることができます。
・日本国を指定する国際商標登録出願(マドリッド協定議定書に基づく商標の国際登録出願)において、商標登録出願日とみなされた日(国際登録日又は事後指定の日)(68条の9①)が
2024年 4月 1日以降のものについて、コンセント制度の適用を受けることができます。
以下、導入されるコンセント制度について、説明します。
1.「コンセント制度」とは
コンセント制度とは、他人の先行登録商標と同一又は類似の商標が出願された場合であっても、当該先行登録商標の権利者による同意があれば両商標の併存登録を認める制度(併存合意制度)です。
2.コンセント制度の導入理由
従来、コンセント制度を導入すると同一・類似商標が併存することよって出所混同のおそれがあるとして、導入は行われませんでした。そのため、コンセント制度に代わる対応として、商標登録出願を引例対象の商標権者に譲渡し、登録後に商標権を譲渡移転する契約(アサインバック契約)をする必要がありました。しかし、アサインバックは商標権者との交渉等の手続きが煩雑となり、時間的・費用的負担が生ずるという問題がありました。
一方、海外においては既に多くの国・地域でコンセント制度が導入され*¹、複数国間でコンセント契約が締結されることがあり、そのため海外ユーザーによる日本での商標登録の際に障壁となることがありました。
かかる問題を解消すべく、他人の先行登録商標と同一又は類似の商標が出願された場合であっても、当該先行登録商標の権利者による同意があれば両商標の併存登録を認めるコンセント制度を導入しました。
ただし、先行登録商標の権利者による同意があっても、なお出所混同のおそれがある場合には登録を認めないとする「留保型コンセント制度」として導入を行います。
審査においては、出所混同のおそれがないことを確認し、登録後においては、混同防止表示の請求(商標法24条の4①1)や不正使用取消審判の請求(商標法52条の2)を可能にすることで、需要者の利益保護を図っています。
なお、アサインバック契約により、2024年4月1日時点で併存登録されている商標については、2024年4月1日から混同防止表示請求及び不正使用取消審判の規定が適用されます。
*¹ コンセント制度を導入する国
米国(留保型)、EU(相対的拒絶理由の審査は行わない)、中国(留保型)、台湾(留保型)、 シンガポール(留保型)、ニュージーランド(完全型)
留保型コンセント制度:商標権者の同意及び出所混同のおそれがない場合に限り、登録を認める制度
完全型コンセント制度:他人の先願登録商標と類似する商標が出願された際に、その商標権者の同意があれば、
更なる審査を経ずに登録を認める制度
3.コンセント制度概要
(1)審査段階
商標法4条①11に該当する商標であっても、先行商標権者の承諾があり、かつ、先行登録商標と出願商標(以下、「両商標」という)との間で出所混同を生ずるおそれがない場合、4条①11の規定は適用されません(4条④)。
① 4条①11を理由とする拒絶理由通知書
審査官は、出願人Aの出願商標と先行商標権者Bの登録商標とが類似であると判断した場合、出願人Aに対して4条①11に該当する旨の拒絶理由を通知する。
② 当事者による合意
両商標の登録を認めるとの出願人Aと先行商標登録権者B間での、コンセントの合意。
③ 書面の提出
出願人Aから特許庁に対し、当事者間の合意に基づき、先行商標権者Bの承諾書及び商標の使用状況等が記載された書面を提出する。
その際、4条①11に該当しない旨の主張をした上で、4条④に該当する旨の主張をすることも可能です。
④ 登録査定・拒絶査定
1)審査官は、提出書面の内容を考慮した上で、両商標の出所混同のおそれの有無を審査する。
2)審査官は、出所混同のおそれがないと判断した場合には、4条①11の適用を除外する。
3)コンセント制度の適用が認められた商標については、他の拒絶理由に該当しない場合に登録査定となる。
4条④を適用し、コンセント制度により登録査定をする場合は、その旨が分かるような記載がされる予定です。
4)コンセント制度の適用が認められない商標については、4条①11を理由とした拒絶査定となる。
なお、このような場合であっても、原則として直ちに拒絶をすることなく、追加資料の提出等を求めるものとされています。
(2) 登録後
コンセント制度による併存登録後に混同防止表示の請求、不正使用取消審判の請求を可能とします。
① 出所混同防止表示請求 (24条の4①1、2)
一方の権利者による商標の使用の結果、他方の権利者の業務上の利益が害されるおそれ(登録商標の出所表示機能の毀損を含む)がある場合には、混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求することができます。
② 不正使用取消審判の請求(52条の2①)
当事者AかBのいずれかが、不正競争の目的で、いずれか一方の商標と出所混同を生じさせる使用をした結果、現実に出所混同が生じている場合には、何人も不正使用取消審判の請求ができます。
なお、設定登録前に行われたアサインバックについても、混同防止表示の請求や、不正使用取消審判の請求をすることが可能です(24条の4①3及び52条の2①)。
4.審査内容
商標法4条④は、先行登録商標の権利者の承諾である「他人の承諾」と「混同を生ずるおそれがない」ことを要求するため、コンセント制度導入に伴い、新たに追加された条文です。
商標法第4条第4項(先願に係る他人の登録商標の例外)
商標法第4条1項11号に該当する商標であっても、その商標登録出願人が、商標登録を受けることについて同号の他人の承諾を得ており、かつ、 当該商標の使用をする商品又は役務と同号の他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品又は役務との間で混同を生ずるおそれがないものについては、 同号の規定は、適用しない。
(1)他人の承諾
査定時において、先行登録商標権利者の有効な承諾があるかを判断する。
登録後においても、先行登録商標と出願商標との間における出所混同の防止を担保する必要がある。
(2)実際の使用状況の如何にかかわらず、4条④の適用が認められない場合
同一若しくはきわめて酷似した商標が同一の商品等に使用された場合には、当事者間でいかなる合意をしたとしても混同を生ずるおそれがきわめて高いといえるので、この商標は4条④の適用から除外される方向です。
なお、引用商標と同一の商標(縮尺のみ異なるものを含む。)であって、同一の指定商品等について使用するものは、原則として混同を生ずるおそれが高いものと判断します。
(3)「混同を生ずるおそれがない」ことの判断の時点
登録査定後に混同を生ずる方向での事情変更があったときには、混同を生ずるおそれのある登録商標が併存し、需要者の保護に反します。
そのため、「混同を生ずるおそれがない」ことの判断の時点は、「査定時及び将来にわたって」とされました。
(4)「混同」は、「狭義の混同のおそれ」のみならず「広義の混同のおそれ」があるかも判断する
現に使用され、使用が予定されている商品又は役務(以下、「商品等」という)が、他人の業務に係るものであると誤認するかを判断するため、「狭義の混同」及び「広義の混同」を生ずるおそれがあるかを判断します。
① 狭義の混同
他人の登録商標に係る商標権者等の業務に係る商品等であると誤認し、その商品等の需要者が商品等の出所について混同するおそれがある場合
② 広義の混同
その他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者(以下、「商標権者等」という)と経済的又は組織的に何等かの関係(資本関係、グループ会社関係等)がある者の業務に係る商品等であると誤認し、その商品等の需要者が商品等の出所について混同するおそれがある場合
(5)「混同を生ずるおそれ」の判断方法
商標法4条①15でも「混同を生ずるおそれ」があるかを判断しますが、4条④もこれと同様であるため、種々の具体的な事情を総合勘案して混同を生ずるおそれがないかを判断します。
この「総合勘案」するにあたり、原則として考慮する事項は、以下の①~⑧が挙げられます。
① 出願商標と先行登録商標との類似性の程度
② 両商標の周知度
③ 両商標が造語よりなるものであるか、又は構成上顕著な特徴を有するものであるか
④ 両商標がハウスマークであるか
⑤ 企業における多角経営の可能性
⑥ 商品間、役務間又は商品と役務間の関連性
⑦ 商品等の需要者の共通性
⑧両商標の使用態様その他取引の実情
出願人から具体的な商標の使用態様その他取引の実情を明らかにする証拠の提出がある場合は、その内容が考慮されます。
「両商標の使用態様その他取引の実情」の具体的事項
1) 使用する商標の構成
(例)a) 商標の構成要素である図形と文字を常に同じ位置関係で使用していること
b) 常に特定の色や書体を使用していること
2)商標の使用方法
(例)a) 商品の包装の特定の位置にのみ使用していること
b) 常に社名・社章等の他の標章を併用していること
c) 常に打消し表示(特定の他者の業務に係る商品等であることを否定する表示)を付加していること
3)使用する商品等
(例)a) 一方は引用商標を指定商品「コンピュータプログラム」の中で商品「ゲーム 用コンピュータプログラム」にのみ使用し、他方は出願商標を商品「医療用コンピュータプログラム」にのみ使用していること
b) 一方は一定金額以上の高価格帯の商品にのみ使用し、他方は一定金額以下の低価格帯の商品にのみ使用していること
4)販売・提供方法
(例)一方は小売店等で不特定多数に販売し、他方は個別営業による受注生産のみを行っていること
5)販売・提供の時季
(例) 一方は春季のみ販売し、他方は秋季のみ販売していること
6)販売・提供地域
(例)一方は北海道の店舗でのみ販売し、他方は沖縄県の店舗でのみ販売していること
7)混同を防止するために当事者間でとることとされた措置
(例)両商標に混同を生ずるおそれを認めたときは、相手方にその旨を通知し、協議の上、混同の防止又は解消のための措置をとること
(6)将来の混同を生ずるおそれを否定する方向に考慮できる事情
将来の混同のおそれを否定する方向に考慮することができる事情は、上記(4)の事情のうち、「将来にわたって変動しないと認められる事情」となります。
例えば、下記のような場合は、「将来にわたって変動しないと認められる事情」として考慮されます。
① 将来にわたって変更しないことが合意されている場合
両商標に関する具体的な事情を将来にわたって変更しない旨の当事者間における合意(例えば、常に社名を併用すること等、上記(5)のような具体的な事情を変更しない旨の合意)又はその要約が記載された書類が、出願人から提出された場合。
② 将来にわたって変動しないことが証拠から認められる場合
上記の合意に基づく場合のほか、両商標に関する具体的な事情が、提出された証拠等により、将来にわたって変動しないと認められる合理的な理由がある場合。
5.書面の提出(4条④)
先行商標権者の合意書面及び商標の使用状況等が記載された書面を提出します。
(1)合意書面
① 合意書
当事者双方がコンセントの内容を承諾
・合意したことが明らかにするための書面
・先行登録商標の権利者による出願商標の登録に対する承諾
・現在の両商標の使用状況についての相互の確認
・将来にわたってその事情(現在の使用状況)を変更しない旨の当事者間の取り決め
② 意見書
どのような意味で当該合意が混同を生ずるおそれを低減させるのかを明らかにするための、合理的な説明を記載します。
(合意書、意見書の記載例は、審査便覧で定める予定です。)
(2)両商標の具体的な使用状況が確認できる書面の提出
両商標の具体的な使用状況が確認できる書面(「両商標の使用態様その他取引の実情」の具体的事項等)を提出します。
具体的には、
① 商標の構成
例:図形と文字を常に一体で使用していること、色や書体を固定していること等
② 商標の使用方法
例:双方の商標にハウスマークや打消し表示を付加していること、商品の梱包の特定の位置にのみ使用していること等
③ 使用する商品等
④ 販売・提供方法
例:対面のみで販売していること、個別営業による受注生産のみで販売していること等
⑤ 販売・提供の時季
⑥ 販売・提供地域等
が挙げられますが、①~⑥のすべてが必要となるものではなく、商標・商品等に合わせ、適宜選択することで足りると考えられています。
6.公示について
(1)商標公報及び国際商標公報
コンセント制度を適用して登録された商標であることが確認できる予定です。
(2)J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)
①コンセント制度を適用して登録された商標の検索が可能となる予定です。
②コンセント制度に係る提出書類の照会
原則、コンセント制度に係る提出書類の照会をすることが可能です。
なお、意見書等の一部が表示されないようにした場合や手続補足書等により提出した場合は、当該部分又は当該書類は照会することができません。
7.不正競争防止法(不競法)の対応
コンセント制度を利用し登録された商標について、不正の目的でなくその登録商標を使用する行為等は、不正競争として扱いません(不競法19条①3)。
また、周知・著名性を獲得した商標権者が一方の商標権者に対し不競法に基づく差止請求、損害賠償請求等を行うことができないよう、不正競争防止法においても配慮がされています(不競法19条①3)。
さらに、類似する商標が併存することにより営業上の利益が侵害され、若しくは侵害されるおそれがあるため、商標権者は相手側に対し、混同防止表示を付すよう請求をすることができます(不競法19条②2)。