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中国 「商標権侵害判断基準」の理解及び適用Ⅰ

2022年 9月20日
浅村特許事務所


中国 「商標権侵害判断基準」の理解及び適用Ⅰ


 

   

浅村特許事務所
中国弁護士   鄭 欣佳

 

中国知識産権局が公表した「商標権侵害判断基準」の逐条解説から重要な内容をいくつかピックアップして紹介します。
ボリュームが多いため、二回に分けます。
今回は第一回目です。

 

「商標権侵害判断基準」の理解及び適用Ⅰ  

 2022年 8月12日、中国知識産権局は「商標権侵害判断基準」の逐条解説――「商標権侵害判断基準」の理解及び適用――を公表しました。具体事例・判例等を用いて、商標権侵害判断基準」の各条文を解説しています。    
 今回は、逐条解説のなかから重要な内容をいくつかピックアップして、ご紹介いたします。
 

 

第3条 商標の使用について

 商標権侵害になるか否かを判断する際に、商標法上の「商標の使用」に該当するかについて、通常は判断をしなければなりません。商標の使用とは、商標を商品、商品の包装、容器、サービスを提供する場所、取引書類、もしくは広告宣伝、展示及び他のビジネス活動に使用し、商品の出所を識別する行為です。    
 この条文を解説する判例として、「虾香稻米」商標事件をご紹介します。
 「虾香稻米」(日本語ː蝦香米)は虾乡公司の登録商標ですが、洪森公司が自社のお米の包装に使用しました。虾乡公司は洪森公司の行為が自社の商標権を侵害しているとして、工商局に行政摘発しました。
 国家知識産権局が審理した結果、洪森公司は商品の出所を識別するために、お米に  あるいは  商標を使用していることが確認できました。包装に標記している「厳選した種籾、米蝦、米鴨の共同飼育、エコー栽培」という商品の説明を併せて考えると、洪森公司の使用した「虾香稻米」は米の栽培方法、味等の特徴に対する説明であり、いわゆる商品の説明、もしくは宣伝用語です。関連する公衆はそれを商標として認知しないと思われ、それの使用は商標法上の「商標の使用」に該当せず、商標権侵害ではないと判断されまた。商標法第59条第1項①の規定が適用されています。



(洪森公司が使用した包装)

 

第5条 役務商標の使用

 商標が役務に使用される場合、通常は下記の形態となりますː

(1)役務を提供する場所において、パンフレット、従業員の服装、メニュー、価格表、名刺、クーポン、文房具、封筒等;

(2)役務に関連する書類において、領収書、請求書、送金書類、役務に関する契約書、メンテナンス証明書等;  
商品商標と異なり、役務商標は直接に役務に付すことができないため、物を通して現さなければなりません。役務の提供と同時に、商品販売も行う場合、商標の使用対象の見極めをしなければなりません。   

 例えば、スターバックスがカフェサービスを提供するとき、従業員の服装、コーヒー用具にスターバックスの商標を使用する態様は、スターバックス商品商標の使用ではなく、役務商標の使用として認められます。一方、販売用のコーヒーコップに使われるスターバックス商標は商品商標として認められます。

 

第6条 宣伝、展示等において商標の使用

 宣伝、展示等において商標の使用は、テレビ、出版物のような昔からの使い方以外に、SMS、SNS、アプリ、QRコード等のような新しい使い方も考えられます。

 もっとも、キーワード検索において、他人の登録商標と同一又は類似の文字を使用し、キーワードセクションのみならず、検索結果ページのリンクのタイトルにも文字が目立つように表示される場合には、商標権を侵害する可能性があります。

 詳しくは、下記の事例をご参照ください。

     指導事例1号ː他社登録商標をネット検索のキーワードとして利用することが商標侵害になるか

 

第9条 同一商品・役務の認定

 同一商品と認定する場合には、「類似商標及び役務区分表」(以下、「区分表」と言います)において商品名が同一の場合の他、機能、用途、主要原材料、製造部門、対象者、販売ルート等が共通、もしくはほぼ共通である場合も含みます。

 同一役務と認定する場合には、「類似商標及び役務区分表」において役務名が同一である場合の他、役務を提供する目的、内容、方式、提供者、対象者、場所等が共通、もしくはほぼ共通である場合も含みます。

 ネット販売のような新たな取引方式が現れるなど、各業界の変化が進んでいる中、同一商品・役務であることを認定するためには、商品分類の原則、基準及び商品の性質、取引の特徴等から総合的に判断をしなければなりません。

 この条文を解説する判例として、「鲍师傅」事件をご紹介します。

  は、鲍才胜公司の登録商標です。指定商品は30類の菓子、ケーキ、パン、クッキー、プリン、マーホアル、月餅、シュー皮ケーキ、フルーツパン、ぼた饼、デザートです。京西贡雨小吃店、佳文佳乐公司は商標「 」をタラせんべい、ミルクレーズン菓子、胚芽薄焼きクッキー巻き、ローズ花餅に使用しました。使用した商品は商標権者の指定商品と全く同じではありませんでしたが、両者の原材料、用途、対象者、販売ルート等が同一であったため、同一商品と認定されました。

 

第10条 類似商品・役務の認定

 類似商品とは、機能、用途、主要原材料、製造部門、対象者、販売ルート等においてある程度共通している商品をいいます。

 類似役務とは、役務を提供する目的、内容、方式、提供者、対象者、場所等においてある程度共通している役務をいいます。

 例えば、お酢ドリンクは、お酢を入れた飲み物です。機能、用途、主要原材料、製造部門、対象者、販売ルート等においてお酢とは共通性がないため、お酢の類似商品ではなく、ノンアルコール飲料の類似商品です。また、料理酒は、香料及び調味料を入れた料理用アルコール液体です。調味料とは類似商品となりますが、酒類とは類似商品となりません。

 手袋の例で考えると、区分表には第9類の防刃手袋、第10類の医療用手袋、第11類の電熱手袋、第17類の絶縁手袋、第21類の家事手袋、第25類の手袋(服装)及び第28類のスポーツ手袋があります。類似商品か否かを認定する際には、機能、用途、主要原材料、製造部門、対象者、販売ルート等を総合的に考慮しなければなりません。

 

第11条 同一商品・役務及び類似商品・役務の比較対象

 同一商品・役務及び類似商品・役務を判断する際に、権利者の指定商品・指定役務と権利侵害の疑いがある商品・役務の間で対比を行わなければなりません。

 この条文を解説する判例として、インスタントビーフン分類事件をご紹介します。

 正龙公司は、商標「白象」、指定商品「インスタントラーメン」を登録しました。白家公司は、指定商品「ビーフン」、商標は「白象」と類似する商標「白家」を登録しました。しかし、白家公司は実際にはインスタントビーフンを登録した商標「白象」に使用していました。正龙公司は、白家公司がインスタントビーフンを商標「白象」と類似する商標「白象」に使用することは、商標権侵害であると主張しました。

 区分表により、正龙公司の指定商品インスタントラーメンの類型群コードは3009であり、白家公司の指定商品ビーフンの類型群コードは3012です。両者は食べ方、顧客層、販売ルートが異なるため、類似商品ではありません。しかし、白家公司は指定商品の範囲を超えて登録商標を使用していました。この場合、権利侵害の判断として、白家公司の指定商品ビーフンではなく、実際に商標を使用していたインスタントビーフンと正龙公司の指定商品インスタントラーメンが類似の商品であるか否かを判断しなければなりません。国家工商総局は、食べ方、顧客層、販売ルートを検討した結果、インスタントラーメンとインスタントビーフンは類似商品であると認定しました。従って、白家公司の使用行為は商標権侵害となります。

 

第12条 区分表の使用

 同一商品・役務、類似商品・役務の認定は、区分表を参照しなければなりません。

 区分表にない商品は、機能、用途、主要原材料、製造部門、対象者、販売ルート等を考慮したうえ、関連公衆の一般的な認識に基づいて判断しなければなりません。

 区分表にない役務は、役務を提供する目的、内容、方式、提供者、対象者、場所等を考慮したうえ、関連公衆の一般的な認識に基づいて判断しなければなりません。

 同一商品・役務、類似商品・役務の判断は、原則、商標権者が保護を求めるときの区分表により行います。ただし、案件発生時の区分表、または査定時の区分表は、ある商品・役務が同一もしくは類似ではないと規定し、保護を求めるときの区分表は当該商品・役務が同一もしくは類似であると規定する場合には、案件発生時の区分表を参照しなければなりません。

 

第14条 同一商標の判断

商標の種類により、同一商標の認定は下記のように分けられましたː

(一) 文字商標が下記いずれかの状況を有するとき

  1.文字の構成と配列の順序が同じである場合;

  2.登録商標の文字のフォント、大文字・小文字、水平・垂直方向の配置を変更し、登録商標とほぼ違いがない場合;

  3.登録商標の文字、アルファベット、数字等の間隔を変更し、登録商標とほぼ違いがない場合;

  4.登録商標の色を変更し、登録商標の識別性に影響を与えない場合;

  5.登録商標に、一般名称、図形、型番等特徴に欠けるものを追加し、登録商標の特徴に影響を与えない場合;

(二)図形商標は、構成要素、表現方式等においてほぼ違いがない場合;

(三)文字と図形商標の組合せ商標の文字構成、図形外観及びその配置において同様であり、全体的に視覚的な違いがない場合;

(四)立体商標における顕著な立体標識及び顕著な平面要素が同様、もしくはほぼ違いがない場合;

(五)色彩組合せ商標の色彩及び色彩の配置が同様、もしくはほぼ違いがない場合;

(六)音商標の聴感と全体的な音楽のイメージが同様、もしくはほぼ違いがない場合;

(七)その他視覚的効果または聴覚的認識において登録商標とほぼ違いがない場合。

 例えば、「 」と「 」(文字フォントの変更)、「 」と「 」(アルファベット大文字、小文字の変更)、「 」と「 」(文字水平・垂直方向配置の変更)、「HUAWEI」と「H U A W E I」(アルファベット間隔の変更)、「 」と「 」(図形商標の構成要素)は、同一商標として認定されます。

 文字商標の同一認定において、登録商標に商品の普通名称、型番など識別力を欠く内容のみを付加し、登録商標の識別力に影響を及ぼさないものは、同一商標と判断されます。例えば、「 」と「 」(太阳能:太陽エネルギー)は同一商標です。

 この条文を説明する判例として、「 」商標事件をご紹介します。中哲慕尚公司は指定商品「服装等」、登録商標「 」を有します。案件当事者は服装及び服装の包装に商標「GXG FASHION」を使用していました。そのため、商標「GXG」と商標「GXG FASHION」が同一商標か否かについて判断をしなければなりません。

 両商標の文字構成は異なりますが、実際に使用する際、当事者は「GXG」文字を強調し、「FASHION」文字を小文字にして「GXG」の下の行に配置していました。その結果、「GXG」は当該商標の顕著な部分となり、「FASHION」は顕著ではない部分となりました。さらに「FASHION」の意味は流行であり、商標として服装などに使用された場合、識別力がない部分となる旨判断されました。そのため、両商標は同一商標と判断されました。


注釈ː

中国商標法第59条第1項

登録商標に、この 商品の通用名称、図形、規格、若しくは商品の品質、主要原材料、機能、用途、重量、数量及びその他の特徴を直接に表すものを含むとき、又は地名を含むときは、登録商標専用権者は、他人の正当な使用を禁止する権利を有しない。