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日本 「海外からの模倣品流入規制強化」「国際商標登録出願の個別手数料二段階納付の廃止」等の施行期日の決定

2022年 7月19日
浅村特許事務所 知財情報


日本 「海外からの模倣品流入規制強化」「国際商標登録出願の個別手数料二段階納付の廃止」等の施行期日の決定


 

 

「特許法等の一部を改正する法律案」は、第204回通常国会において、2021年 5月14日に可決・成立し、2021年 5月21日に法律第42号として公布されました。

 

かかる「特許法等の一部を改正する法律」において未決定であった規定の施行期日が、決定しましたのでお知らせします。

この度施行期日が決定したのは、以下の1~4の項目です。これで、全ての「特許法等の一部を改正する法律」の施行期日が決定されました。
また、予納に関する情報を更新しました。

1.海外からの模倣品流入への規制強化(意匠法、商標法)(施行日 2022年10月 1日)

外国にある者が、郵送等により、商品等を国内に持ち込む行為を商標法及び意匠法における「輸入」行為に含むものと規定することにより、当該行為が事業者により権原なく行われた場合に規制対象となることを明確化しました。

2.特許権等の回復要件の緩和 (施行日 2023年 4月 1日)

手続期間の徒過により消滅した特許権等についての回復要件を、「正当な理由があること」から「故意によるものではないこと」に緩和しました。
また、権利の回復規定の適用を受けようとする者から、回復手数料を徴収することとしました。

3.国際意匠・商標の登録出願に係る登録査定の謄本送達の見直し(意匠法、商標法)
  (意匠法 施行日 2021年10月 1日)(商標法 施行日 2023年 4月 1日)

WIPOの国際事務局に対し、海外出願人宛ての登録査定の謄本と、設定登録予定日を記載した保護を付与する旨の声明を、電子データで一本化して通知をすることにしました。

4.国際商標登録出願に係る個別手数料の二段階納付から一括納付への変更(商標法)(施行日 2023年 4月 1日)

マドリッド議定書に基づく国際商標登録出願の個別手数料について、二段階納付を廃止し、一括納付を可能としました。

5.予納の見直し

(1)特許印紙による予納制度の廃止 (2021年10月 1日)

なお、経過措置として特許印紙による予納は、2021年10月 1日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日までの間はなおその効力を有します。
この特許印紙による予納の廃止時期は、目安として2023年度前半が想定されています。

(2)銀行振り込みによる予納(現金納付) 開始 (2021年10月 1日)

(3)特許庁窓口でのクレジットカード払い 開始 (2022年 4月 1日)

(4)インターネット出願ソフトを利用した予納(電子現金による予納)開始 (2023年 1月)

 詳しくは、経済産業省のウェブサイト
 「特許法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令」及び「特許法等関係手数料令の一部を改正する政令」が閣議決定されました (METI/経済産業省)を、ご確認下さい。

 

特許法等の一部を改正する法律

1.海外からの模倣品流入への規制強化(意匠法、商標法)

 (施行日 2022年10月 1日)

 模倣品の海外から日本国内に持ち込む場合において、国内に輸入事業者や販売事業者を有する場合には、当該事業者による模倣品の「輸入」が産業財産権の侵害となるため、税関で模倣品を侵害物品として没収等をすることが可能です。
 しかしながら最近は、国内の事業者無しに、すなわち海外の事業者が国内の者に対して、少量の模倣品を郵送等によって直接販売や送付する取引が急増しています。この場合、「輸入」の主体は国内の個人ですので、「業として」の実施の定義・使用の定義要件を満たさない場合には産業財産権の侵害とならず、税関で模倣品を没収等することができません。
 特に意匠権、商標権に関して、近年、このような模倣品の個人使用目的の輸入が急増しており、模倣品の国内への流入増加に歯止めをかけることができない状況です。
 そのため、海外の事業者が国内の者に模倣品を直接送付する場合について、日本国内に到達する時点以降を捉えて、新たに意匠権侵害行為、商標権侵害行為と位置づけるための改正を行うこととしたものです。

(1)意匠の実施の定義の見直し

 意匠の実施の定義に定める「輸入」する行為には、外国の者が外国から日本国内に他人をして(郵送業者等の自分以外の他人によって)持ち込ませる行為が含まれるものとする(意2条②1)。

(2)商標の使用の定義の見直し

 商標の使用の定義に定める「輸入」する行為には、外国の者が外国から日本国内に他人をして(郵送業者等の自分以外の他人によって)持ち込ませる行為が含まれるものとする(商2条⑦)。

 

(産業構造審議会 第15回知的財産分科会より引用)

 

2.特許権等の回復要件の緩和

 (施行日 2023年 4月 1日)

 手続の回復について、現在は「正当な理由」を厳格に解して運用されています。この運用は、相当な注意基準を採用する国において60%以上の認容率であるのに対し、日本は10~20%程度と突出して低く、各国主要国の産業財産制度と比べて厳格すぎるとの指摘がありました。また、各国で権利化を図る場合、我が国のみ十分な権利の保護がなされない事態も想定されます。

 そのため、認容率の向上、申請者の負担軽減、及び回復申請の予見性向上のため、現行の「相当な注意」を求める法制から、「期間徒過が故意でないと認められる場合には、権利を回復できる」とする法制に改正するものです。

権利回復制度の日米欧の比較

(産業構造審議会 第15回知的財産分科会より引用)

日本において権利を回復するために徴収される手数料

 

対象となる手続きは、以下の通りです。

(1)外国語書面出願の翻訳文(特許法)

 外国語書面出願において、外国語書面、外国語要約書面の翻訳文を所定の期間内に提出することができなかったことについて、故意でないと認められる場合には、一定の期間に限り翻訳文を提出できる(特36条の2⑥)。

(2)外国語でされた国際特許出願の翻訳文(特許法、実用新案法)

 外国語でされた国際特許出願において、明細書等の翻訳文、図面及び要約の翻訳文を所定の期間内に提出することができなかったことについて、故意でないと認められる場合には、一定の期間に限り翻訳文を提出できる(特184条の4④、実48条の4④)。

(3)特許出願等に基づく優先権主張、パリ条約の例による優先権主張(特許法、実用新案法、意匠法)

 優先権主張を伴う特許出願において、優先期間内に特許出願をすることができなかったことについて、故意でないと認められる場合には、一定の期間に限り特許出願等に基づく優先権主張、パリ条約の例による優先権主張することができる(特41条①1,特43条の2①、特43条の3③、実8条①1、実11条①で準用する特43条の2①、特43条の3③、意15条①で準用する特43条の2①、特43条の3③)。

(4)出願審査の請求(特許法)

 特許出願審査請求において、その請求期間内に請求をすることができなかったことについて、故意でないと認められる場合には、一定の期間に限り当該請求をすることができる(特48条の3⑤)。

(5)特許料等の追納による特許権の回復(特許法、実用新案法、意匠法)

 特許料等の追納において、所定期間内に当該追納をすることができなかったことについて、故意でないと認められる場合には、一定の期間に限り当該追納をすることができる(特112条の2①、実33条の2①、意44条の2①)

【特許料の追納に係る権利回復の例】


(産業構造審議会 第15回知的財産分科会より引用)

(6)商標権等の回復要件の緩和(商標法)

 ① 商標権の回復

商標権の存続期間の満了前6月から満了の日までの期間内に商標権の存続期間の更新ができなかったことについて、故意でないと認められる場合には、一定期間内に限りその申請をすることができる。(商21条①)。

 ② 後期分割登録料等の追納による商標権の回復

商標権の満了前5年を経過後6か月以内に後期分割登録料及び割増登録料を追納することができなかったことについて、故意でないと認められる場合には、一定の期間内に限り後期分割登録料及び割増登録料を追納することができる(商41条の3①)。

 ③ 防護標章登録に基づく権利の存続期間の更新登録出願

防護標章登録に基づく権利の存続期間の満了前6月から満了日までの間に更新登録の出願をできなかったことについて、故意でないと認められる場合には、一定の期間内に限り更新登録の出願をすることができる(商65条の3③)。

 ④ 書換登録の申請

書換登録の申請期間内にその申請ができなかったことについて、故意でないと認められる場合には、一定の期間内に限り書換登録の申請をすることができる(商附則3条③)。

(7)在外者の特許管理人の特例(特許法、実用新案法)

 国際特許出願における特許管理人の選任の届出において、所定期間内に届出をすることができなかったことについて、故意でないと認められる場合には、一定の期間に限り当該届出をすることができる(特184条の11⑥、実48条の15②で準用する特184条の11⑥)。

表 権利の回復制度の対象手続一覧

(産業構造審議会 特許制度小委員会:ウィズコロナ/ポストコロナ時代における特許制度の在り方(案)より抜粋)

 

3.国際意匠・商標の登録出願に係る登録査定の謄本送達の見直し(意匠法、商標法)

 (意匠法 施行日 202110 1日)
 (商標法 施行日 2023年  4月 1日)

 従来、特許庁は海外出願人に対し、

 ① 国内法に基づき、海外出願人宛ての登録査定の謄本を国際郵便で送達し、また、

 ② ハーグ協定(意匠)もしくはマドリッド協定議定書(商標)に基づき、設定登録予定日を記載した保護を付与する旨の声明を設定登録前にWIPO国際事務局に電子データで通知し、登録査定謄本の送達の完了を待って、権利を付与していました。

 しかしながら、新型コロナウイルス感染症の世界的流行という緊急事態により、一部の国について国際郵便の引受が停止され、意匠又は商標の国際登録出願の登録査定の謄本を国際郵便での送達(①)ができない事例が発生しました。また、設定登録には国内法上、登録査定の謄本送達が不可欠としているため、送達が遅れると権利を付与できず、その結果、海外出願人に不利益が生じました。

 そのため、WIPOの国際事務局に対し、海外出願人宛ての登録査定の謄本と、設定登録予定日を記載した保護を付与する旨の声明を、電子データで一本化して通知することができることとしました。
かかる法改正により、外国出願人の利便性の向上につなげるものです。

 国際意匠登録出願の査定の方式について、特許庁長官が意匠登録をすべき旨の査定に記載されている事項を、意匠の国際登録に関するハーグ協定のジュネーブ改正協定に定める国際事務局を経由して国際登録の名義人に通知することで、意匠登録をすべき旨の査定の謄本の送達に代えることができる(意60条の12の2①)。

 国際商標登録出願の査定の方式について、特許庁長官が商標登録をすべき旨の査定に記載されている事項を、標章の国際出願に関するマドリッド協定の議定書に定める国際事務局を経由して国際登録の名義人に通知することで、商標登録をすべき旨の査定の謄本の送達に代えることができる(商68条の18の2①)。

 

【改正前】

【改正後】

(産業構造審議会 第15回知的財産分科会より引用)

 

4.国際商標登録出願に係る個別手数料の二段階納付から一括納付への変更(商標法)

 (施行日 2023年 4月1日)

 
 標章の国際登録に関するマドリッド協定議定書(以下「議定書」という。)上、国際登録を受けるにあたっては、下記の①を原則としますが、②を宣言することもできます。

①「基本手数料」、指定区分数に応じた「追加手数料」、及び指定国数に応じた「付加手数料」を徴収する(議定書第8条(2))。

②「基本手数料」及び「個別手数料」の受領を宣言することができ(議定書第 8 条(7))、また、「個別手数料」は、「出願時」及び「締約国の法令に従って定められる後の日付」の二段階に分けて徴収することができる(議定書に基づく規則第34規則(3)(a))。
日本は、②の「個別手数料」の受領を宣言し、これをWIPO国際事務局への出願時及び日本での設定登録時の二段階に分けて徴収する二段階納付を採用しています(商標法第68条の30②)。


日本は二段階納付を採用していることにより、以下の課題が生じています。

(a)日本国内の商標権設定登録時に、二度目の納付手続が必要であるため、海外の出願人にとって追加的な手続負担となっている。

(b)個別手数料について、議定書の締約国では国際標準の一括納付を採る国が多く、海外の出願人が慣れない二段階目の納付手続をし損なうことがあり、その結果、出願がみなし取下げとなる事例が多数発生している。

(c)WIPO国際事務局において、二段階納付のための事務負担が生じている。


 以上の課題を解決するため、国際商標登録出願に係る個別手数料の納付方法について、二段階納付から一括納付(国際標準に合わせ、拒絶査定の場合も個別手数料の返還請求制度は設けない一括納付)に変更することになりました。

 国際商標登録出願の個別手数料を、国際登録前に国際事務局にまとめて納付しなければならない(商68条の19①、商68条の30各号、商68条の35)。

【改正前】

【改正後】

(産業構造審議会 第15回知的財産分科会より引用)

 

5.予納の見直し

(1)特許印紙による予納制度の廃止 202110 1日)予納に関するお知らせ | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp) 

なお、経過措置として特許印紙による予納は、2021年10月 1日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日までの間はなおその効力を有します。
したがって、それまでは特許印紙による予納の利用が可能です。
この特許印紙による予納の廃止時期は、目安として2023年度前半が想定されています。
なお、特許印紙による予納の廃止後も、予納制度自体は存続しますので、既に入金済の予納残高、特許印紙による予納の廃止前に入金した残高及び予納台帳は継続して利用が可能です。
また、特許印紙を貼付しての出願等の手続(手数料の納付)についても、引き続き可能です。

(2)銀行振り込みによる予納(現金納付)開始  202110 1日)銀行振込による予納について | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)

(3)窓口でのクレジットカード払い 開始       2022年  4 1日)
    特許庁窓口におけるクレジットカード納付 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)

(4)インターネット出願ソフトを利用した予納(電子現金による予納)開始 (2023年 1月を予定)
    予納に関するお知らせ | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp) 

インターネット出願ソフトを利用した予納(電子現金による予納)が開始されます。これにより、入金から予納書提出まで、オンラインで手続が完結します。

特許印紙による予納制度については、物理的な印紙の取扱いに係るユーザーや特許庁双方の負担軽減の観点から廃止されます。
なお、料金の支払い手段は、口座振替、口座振込、クレジットカード等での支払が可能です。特に、特許印紙による予納制度と口座振替制度は、口座残高から申請に基づいて自動で引き落とされる点について機能としては同等ですので、特許印紙による予納を用いていたユーザーは、今後は口座振替による予納手段を用いる機会が多くなると予想されます。

特許料等又は手数料の予納は特許印紙ではなく、現金をもってしなければならない(工業所有権に関する手続等の特例に関する法律第14条①②、第15条各項、16条)。