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中国 指導事例5号 – 集積回路配置図設計保護範囲の確定

2022年 3月29日
浅村特許事務所


中国 指導事例5号 – 集積回路配置図設計保護範囲の確定


 

   

浅村特許事務所
中国弁護士   鄭 欣佳

 

集積回路配置図設計保護範囲を確定する際に、複製品・設計図か見本か、どちらに基づいて判断することについて、国家知識産権局の見解を示します。

 

一.  背景  

 「集積回路配置設計保護条例」(以下、「条例」といいます)の第8条には、「配置設計専有権は、国務院知的財産権行政部門の登録を経て発生する。登録を得ていない配置設計は、この条例の保護を受けることができない」という規定があります。 

 また、条例の第16条及び「集積回路配置図設計保護条例実施細則」の第14条には、「配置設計の登録出願をするときに、配置設計の複製品または設計図を提出しなければならず、複製又は図面の電子媒体を同時に提出することができ、電子媒体による提出する場合には当該配置図設計のすべての情報が含まれていなければならない」という規定、及び「配置設計が既に商業利用に用いられている場合には、当該配置設計の集積回路見本を提出しなければならない」、という規定があります。

 上記の規定によると、配置設計専有権の保護する権利は2つの形で表されています。
 
 一つは複製品または設計図であり、もう一つは見本です。そして、いずれの形であっても、配置設計は同一になるはずです。
 しかし、配置設計の登録出願をするときに提出した複製品または設計図が見本と異なる場合、どちらの形に基づいて専有権の保護範囲を判断するのかが問題となります。
 今回は、かかる問題を正面から取り上げている事例となります。

 

二.分析

 条例第16条の規定により、商業利用に用いられているかどうかにかかわらず、複製品または設計図の提出は登録の要件になっています。商業利用に用いられている場合のみ、見本の提出が必要となります。この規定からすると、配置設計を主に表現するのは複製品または設計図となります。また、配置設計専有権は登録により発生し、公衆に対し法的な効力を有します。公衆は登録された複製品または設計図を確認することにより、保護される配置設計の複製または商業利用を避けることができますが、見本の場合には、見本の外観のみ確認をすることができ、専門的な手段を使わないと内部の配置設計を知ることができないため、配置設計を保護する目的を達成できません。

 公示・公信力の観点から見ると、見本よりも複製品または設計図に基づいて専有権の保護範囲を判断することが適切といえます。

 集積回路技術の発展により、従来の複製品や設計図では、集積回路の内部レイアウト設計の全容を明確かつ完全に示すことはできなくなっています。登録手続きにおける、より複雑な集積回路のレイアウト設計については、レイアウト設計の詳細の全てを明確かつ完全に示す複製品または設計図の提出を申請者に要求することは、あまりにも酷であり、かつコストがかかると思われます。登録された、複製品または設計図が反映された配置設計の詳細が明確ではなく、侵害の判断が難しい場合には、見本が複製品または設計図と一致していれば、見本に示された配置設計を補助的に用いることにより、複製品または設計図の詳細を明らかにすることができます。

 従って、集積回路配置図設計の専有権の保護範囲を確認する際には、複製品または設計図が見本より優先されるものとします。複製品または設計図の詳細が明確でなく、複製品または設計図のみに依拠して保護の範囲を定めることができない場合には、見本が示す配置設計が複製品または設計図と同一であれば、見本を参照することができます。

 

三.独創性及び保護範囲の認定

 条例の4条には、「配置設計は、保護を受けるため、独創性を有さなければならない」という規定があります。また、条例の30条には、「①保護を受ける配置設計の全部又はその中の独創性を有する任意の部分を複製する行為、②保護を受ける配置設計、当該配置設計を含む集積回路又は当該集積回路を含む物品を商業目的で輸入し、販売し、又はその他の方式で提供する行為は権利侵害行為である」という規定があります。

 これにより、配置設計の保護範囲は、独創性を有するエリアを基準としていることが分かります。中国では、配置設計の専有権について登録出願制度を採用しており、出願人が提出した資料が形式的要件を満たしていれば、登録がされます。現行法令では、登録出願時に配置設計の独創性を宣言する必要はありません。そのため、公衆は独創性の宣言により専有権の保護範囲を明確にすることができず、紛争が起きやすくなっています。

 紛争解決手段として、権利者が国務院知的財産権行政部門に判断を提起する際に、請求書により独創性を有するエリアを宣言することができます。当該行政部門は配置設計の表した形と組み合わせて、権利者が主張した専有権保護範囲を確定し、権利侵害の成否を判断します。
 なお、配置設計に対する保護は、思想、処理過程、操作方法及び数学概念等には及びません。