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中国 最高人民法院による登録申請された医薬品に関連する専利権紛争民事事件の審理における法律適用の若干問題に関する規定

2021年 8月19日
浅村特許事務所


中国 最高人民法院によるパテントリンケージ弁法に関する法釈


   浅村特許事務所 中国弁護士
鄭 欣佳 訳

2021年7月5日に、中国最高人民法院による登録申請された医薬品に関連する専利権紛争民事事件の審理における法律適用の若干問題に関する規定が公布されました。
その日本語訳です。

 

最高人民法院による
登録申請された医薬品に関連する専利権紛争民事事件の審理における
法律適用の若干問題に関する規定法釈〔2021〕13号

(2021年5月24日 最高人民法院審判委員会
第1839回会議で可決され、2021年7月5日より施行する)


2021年 8月19日

 登録申請された医薬品に関する専利権をめぐる紛争民事事件を適切に審理するために、中華人民共和国専利法、中華人民共和国民事訴訟法等の関連法令に基づき、知的財産権裁判の実情と結びつけ、本規定を制定する

 第一条 北京知識産権法院は、専利法第七十六条に基づき当事者が提起した専利権の保護範囲に含まれるか否かを確認する紛争の第一審事件を管轄する。

 第二条 専利法第七十六条にいう関連専利とは、医薬品上市許可審査および医薬品上市許可申請段階における専利権をめぐる紛争の解決に関する国務院関連行政部門の具体的なパテントリンケージ弁法(以下、「パテントリンケージ弁法」という)が適用される専利のことをいう。
 専利法第七十六条にいう利害関係者とは、前項の専利の被許諾者および当該医薬品上市許可保有者をいう。

 第三条 専利権者または利害関係者が特許法第七十六条に基づいて訴訟を提起する場合、民事訴訟法第百十九条(三)項の規定に基づき、以下の資料を提出しなければならない。

 一)国務院関連行政部門がパテントリンケージ弁法に基づいて設置したプラットフォームに登録された専利名称、専利番号、関連請求項等を含む関連専利情報;

 (二)国務院の関連行政部門がパテントリンケージ弁法に基づいて設置したプラットフォーム公示されている医薬品名、医薬品種類、登録分類及び登録申請した医薬品と関連する上市医薬品との対応関係等、登録申請医薬品に関連する情報;

 (三)医薬品上市許可申請者がパテントリンケージ弁法に基づいて行った4種類の声明及びその根拠。
  医薬品上市許可申請者は、一審の答弁期間内に、国家医薬品審査評価機構に申告した、関連する専利権の保護範囲に含まれるか否かの判断に対応する必要な技術情報の写しを人民法院に提出しなければならない。

 第四条 専利権者または利害関係者が、パテントリンケージ弁法に定められた期間内に人民法院に訴訟を提起しない場合、医薬品上市許可申請者は、人民法院に訴訟を提起し、登録申請された医薬品が関連専利権の保護範囲に含まれないことの確認を求めることができる。

 第五条 当事者が、国務院専利行政部門がすでに専利法第七十六条の行政裁決を受理していることを理由に、専利法第七十六条の訴訟を受理すべきではないかと主張するか、もしくは訴訟の中止を申立てた場合、人民法院はこれを支持しない。

 第六条 当事者が専利法第七十六条に基づいて訴訟を提起した後に、国務院専利行政部門がすでに関連専利権の無効宣告請求を受理したことを理由に、訴訟の中止を申立てた場合、人民法院は原則として当該申請を支持しない。

 第七条 医薬品上市許可申請者が、専利法第六十七条及び第七十五条(二)項に規定する事情を主張した場合、人民法院は、事実関係を確認した上、登録申請された医薬品の関連技術方案が当該特許権の保護範囲に含まれないことを確認する判決を下すことができる。

 第八条 当事者は、訴訟中に取得した商業秘密やその他機密保持が必要な商業情報について守秘義務を負う。許可なく開示したり、当該訴訟活動以外で使用したり、他人に使用させたりした場合、法律に基づいて民事責任を負う。民事訴訟法第百十一条に該当する場合、人民法院は法律に基づいて処理しなければならない。

 第九条 医薬品上市許可申請者が、人民法院に提出した登録申請された医薬品に関する技術方案が、国家医薬品審査評価機構に申告した技術情報と明らかに一致せず、人民法院の審理を妨害する場合、人民法院は民事訴訟法第百人十一条の規定に基づいて当該案件を処理する。

 第十条 専利権者または利害関係者が専利法第七十六条の訴訟において行為保全を申立て、医薬品上市許可申請者が当該専利権の有効期間内に専利法第十一条に定める行為の実施を禁止することを請求した場合、人民法院は専利法および民事訴訟法の関連規定に従って当該要求を処理する。医薬品上市許可申請の行為または審査承認の行為を禁止することを請求した場合、人民法院はこれを支持しない。

 第十一条 同一専利権と登録申請医薬品に対する専利権侵害または専利権非侵害の確認訴訟において、当事者は特許法第七十六条という訴訟の有効判決に基づいて、係訴医薬品の技術方案が当該専利権の保護範囲に含まれるか否かを判断すると主張する場合、人民法院は原則としてそれを支持する。ただし、侵害被疑医薬品の技術方案が、登録申請された医薬品の技術方案と一致しなく、または新たに主張された事由が成立した場合は除がれる。

 第十二条 専利権者または利害関係者が、自ら主張する専利権が無効になること、または登録申請された医薬品に関する技術方案が専利権の保護範囲に含まれないことを知るべきであるにもかかわらず、専利法第七十六条という訴訟を提起、または行政裁決を請求した場合、医薬品上市許可申請者は北京知識産権法院に損害賠償請求訴訟を提起することができる。

 第十三条 人民法院が法律に基づき、国務院関連行政部門がパテントリンケージ弁法に基づいて設置したプラットフォームに当事者が掲載した連絡先担当者、連絡先住所、電子メール等に対して行った送達は、有効な送達とみなされる。当事者が送達先確認書を人民法院に提出した後、人民法院は確認書に記載された送達先にも送達することができる。

 第十四条 本規定は、2021年7月5日より施行する。当院が以前に発表した関連司法解釈が本規定と一致しない場合、本規定に準ずる。

 


注釈:

① 専利法第七十六条 

 薬品発売承認審査において、薬品発売許可申請者と関連専利権者又は利害関係者は、登録出願された薬品に係る専利権について紛争が生じた場合、関連当事者は人民法院に提訴し、登録出願された薬品の関連技術方案が他人の薬品専利権の保護範囲に含まれているかどうかを判決するよう請求することができる。国務院薬品監督管理部門は規定された期限 内に、人民法院による発効した判決により、関連薬品の発売許可を一時中止するかどうかの決定を下すことができる 。
 薬品発売許可申請者と関連専利権者又は利害関係者は、登録出願された薬品に係る専利権紛争について、国務院専利行政部門に行政裁決を請求することもできる。
 国務院薬品監督管理部門は国務院専利行政部門と共同して、薬品発売の承認と薬品発売許可申請段階の専利権紛争解決の具体的な係合弁法を制定し、国務院に報告して承認を得てから施行する 。

② 民事訴訟法第百十九条(三)項

 訴訟の提起は、次の各号に掲げる要件に適合しなければならない。
 ……
(三) 具体的な訴訟上の請求並びに事実及び理由があること。
 ……

③ 専利法第六十七条

 専利侵権紛争において、被疑侵害者が、その実施する技術又はデザインが既存技術、あるいは既存デザインに属することを証明する証拠を有している場合、専利権侵害を構成しない 。

④ 専利法第七十五条(二)項

 以下の状況のいずれかがある場合は専利権侵害とは見なさない
 ……
(二)専利出願日以前に同様の製品を製造した場合、又は同様の方法を使用するか、あるいは既に製造と使用の必要準備を終えており、かつ元の範囲内だけで引き続き製造、使用する場合 。
 ……

⑤ 民事訴訟法百十一条

 訴訟参加人又はその他の者に次の各号に掲げる行為のいずれかがある場合には、人民法院は、情状の軽重に応じて過料又は拘留に処することができる。犯罪を構成する場合には、法により刑事責任を追及する。
 一 重要な証拠を偽造し、又は隠滅し、人民法院による事件の審理を妨害する行為

 二 暴力、脅迫若しくは買収の方法により、証人が証言するのを阻止し、又は他人を指図し、買収し、若しくは脅迫して偽証をさせる行為

 三 既に封印され、若しくは差し押えられている財産若しくは既に点検され、且つその保管を命じられている財産を隠匿し、移転し、換価し、若しくは毀損し、又は既に凍結されている財産を移転する行為

 四 司法職員、訴訟参加人、証人、通訳・翻訳者、鑑定人、検証人又は執行協力者に対し、侮辱、誹謗、誣告、殴打又は攻撃・報復をする行為

 五 暴力、脅迫その他の方法により司法職員による職務の執行を妨害する行為

 六 既に法的効力が生じた人民法院の判決又は裁定の履行を拒絶する行為

 2 人民法院は、前項に定める行為のいずれかをある単位について、当該単位の主たる責任者又は直接責任者に対し過料又は拘留に処することができる。犯罪を構成する場合には、法により刑事責任を追及する。

⑥ 専利法第十一条

 発明及び実用新案の専利権が付与された後、本法に別途規定がある場合を除き、いかなる単位又は個人も、専利権者の許諾を受けずにその専利を実施してはならない。即ち生産経営を目的として、その専利製品を製造、使用、販売の申出、販売、輸入してはならず、その専利方法を使用してはならず、当該専利方法により直接得られた製品を使用、販売の申出、販売、輸入してはならない。
 意匠専利権が付与された後、いかなる単位又は個人も、専利権者の許諾を受けずにその専利を実施してはならない。即ち生産経営を目的として、その意匠専利製品を製造、販売の申出、販売、輸入してはならない。