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イギリス イギリス高等法院、マーカッシュ形式のクレームの妥当性を判示

浅村特許事務所 知財情報 
 (2017年7月30日発行)


イギリス イギリス高等法院、マーカッシュ形式のクレームの妥当性を判示


 



最近のSandoz vs Searle判決では、イギリス高等法院は、マーカッシュ形式でクレームされる一般式でその医薬品化合物がカバーされている、欧州特許(UK 0810209)に基づく抗HIV医薬ダルナビル(Prezista(R))についての補充的保護証明書(Supplementary Protection Certificate : SPC) を有効であると支持しました。これはSPCを提出する出願人にとっては朗報であり、この問題において必要不可欠な明確性を提供するものです。

 

 欧州連合SPC規則の第3条(a)は、SPC保護の基準のひとつに、製品が「有効な基本特許により保護されていること」を要求しています。しかしながら、近年の欧州連合の裁判所(Court of Justice : 以下CJ)の決定は、製品が特許によって保護されるために必要とされる要件について、かなりの不確実性を引き起こすものでした。

 

 合意が出ている唯一の問題は、製品化合物が基本特許のクレームの中に単に入ることでは不十分であるということです。より多くの要件が必要とされますが、CJはいくつかの参考文献にもかかわらず、「それ以上」の要件が何であるかを判示していません。しかし、以下の二つの判例により、二つの見解が出現しています。第一の判例は、欧州特許法のクレームの文言の中で製品が「特定(specified)」または「特定(identified)」されなければならない(Medeva事件) (i) とし、第二の判例は、製品は基本特許の「進歩性を具現化」しなければならない(Actavis vs Sanofi事件) (ii) とする判例です。

 

 今回のケースでは、ダルナビルの一般式は基本特許のマーカッシュ形式で記載された請求項1に含まれるということが当事者間の共通の根拠でした。しかしながら、特定の化合物であるダルナビルは基本特許のどこにも開示されておらず、クレームされているものでもありませんでした。この観点では、請求人のSandoz及びHexalは、ダルナビルは基本特許のクレームにspecifiedもidentifiedもされておらず、欧州連合SPC規則の第3条(a)によれば、当該特許は製品を「保護」していないため、SPCは無効であると訴えています。それに対し、被請求人であるSearle及びJanssenは、第3条(a)はいくつかの観点から不明確であるものの、当該特許により当該製品が「保護」されていないとの条文解釈には当たらないと反論しています。

 

 判決では、Arnold裁判官は、被請求人の主張が有効であると認め、基本特許により「保護されている」製品を規定しました。Arnold裁判官が適用した判例は、活性成分は構造式によってクレーム中で特定されている必要はなく、クレームが非明示的ながら必然的にかつ具体的に活性成分に関連していることを条件に、活性成分が機能的記載によりカバーされていれば十分である、と判示した先のCJ判決(Lilly v HGS) (iii) です。また、Arnold裁判官は、ダルナビルが特許の進歩性を具現化しているとも明示しました。

 

 この判決は、ダルナビルに加えて多数の化合物がカバーされたマーカッシュクレームは無関係であると判断しました。この点は当該特許の有効性に疑問を呈しますが、しかし請求人は本件特許の有効性については争っていませんでした。Arnold裁判官はまた、特定の化合物であるダルナビルが、特許の優先日から数年間にわたり発見されなかったことや、特許の所有者以外の者により別個に開発されていたことは関係ないと判断しました。

 

 本判決は研究を基礎とする医薬品製造会社にとって朗報です。

 

 医薬品化学の分野では、研究サイクルの早い段階で一般的な構造活性相関が発見されるので、広範なマーカッシュ形式により活性化合物をクレームする特許が導かれることが一般的です。しかし、特に薬理効果が高く、薬事法等の規制上の承認を受ける化合物である、その一般式に含まれる特定の化合物は、数年後に同定されないこともありえます。特定の化合物が開示されていなくても、広範な特許がSPCを支持する可能性があることが確認されたことで、長年不確実であったSPC保護の要件において、歓迎すべき明快さを与えるものです。

 

判決の全文はこちら(英文):

 [2017] EWHC 987 (Pat)

 Sandoz Limited & Hexal AG v G.D. Searle LLC & Janssen Sciences Ireland UC:

 http://dycip.com/ewhc987

 


注釈:

本記事は現地代理人ニュースレターの翻訳です

元記事:D Young & CO 2017/6/6 http://www.dyoung.com/article-specificspc

 

(i)  欧州連合司法裁判所,医薬品特許の保護期間延長に関する判決

 (JETROデュッセルドルフ事務所 2011/11/26)

 https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/europe/ip/pdf/20111126.pdf

 

(ii)  欧州連合司法裁判所,特許権の存続期間延長の要件の解釈について3件の予備的判決を下す

 (JETROデュッセルドルフ事務所 2014/1/14)

 https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/europe/ip/pdf/20140114.pdf

 

(iii)  英国最高裁判所,遺伝子特許の産業上の利用可能性に関する判決

 (JETROデュッセルドルフ事務所 2011/11/3)

 https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/europe/ip/pdf/20111103.pdf

 

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