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オーストラリア 医薬品に係る特許権の存続期間延長申請の時期的要件に関する判決

浅村特許事務所 知財情報 
 2015年1月18日


オーストラリア 医薬品に係る特許権の存続期間延長申請の時期的要件に関する判決


 

 

【要約】

特許権の存続期間内に延長申請手続きを行っていたものの、オーストラリア治療用品登録簿(ARTG)における最初の登録日から6か月以内の期限を徒過した事案において、特許庁長官は、第223(2)の期間徒過の救済規定に基づき延長申請期間を延長する権限があるとし、同規定の過誤又は遺漏の所為に当たるとして申請期間の延長を認めた。

 

1.事案の概要

Lundbeck社は、オーストラリア特許No.623144(以下、144特許と略称する)の特許権者であり、本件特許は、抗うつ薬の活性物質であるエスシタロプラムに関する。エスシタロプラムは、ラセミ体であるシタロプラムの光学異性体であり、シタロプラムを含む抗うつ薬(CIPRAMIL®)及びエスシタロプラムを含む抗うつ薬(LEXAPRO®)について、それぞれ、1997年12月9日及び2003年9月16日にオーストラリア治療用品登録簿(ARTG)に登録がなされていた。

オーストラリア特許法は、特許権の存続期間の延長制度を設けており、同法第71条(2)には、その延長申請をするための時期的要件に関し、標準特許の存続期間の延長申請を、特許権の存続期間内(第1の要件)、且つ次の(a)、(b)、及び(c)いずれかの日のうち最も遅い日から6か月以内(第2の要件)に行わなければならない旨規定する。

(a) 特許が付与された日

(b) 第70条(3)に規定される医薬物質のいずれかを含んでいるか、又はそれのみによって構成される商品のオーストラリア治療用品登録簿(ARTG)における最初の登録日

(c) 本条の施行日

Lundbeck社は、144特許の存続期間満了前で、LEXAPRO®のARTGへの登録日である2003年9月16日から6月以内の2003年12月22日に144特許の存続期間の延長申請を行った。この申請に関し、オーストラリア連邦裁判所(Federal Court of Australia)は、2003年9月16日が最初の登録日ではないとして、LEXAPRO®の登録に基づく延長申請は、上記第1の要件は満たすが、上記第2の要件を満たさないとした。但し、本申請の期間徒過は、真正な特許法の誤解によるものであり、期間徒過の救済に関する第223条(2)に規定する過誤又は遺漏の所為に該当するとして、CIPRAMIL®の登録に基づく延長申請について申請期間の延長を認めた。

Alphapharm社らは、144特許の元々の存続期間満了日である出願から20年経過した時点でエスシタロプラムを活性成分とする後発医薬品を販売していたため、上記オーストラリア連邦裁判所の判決に対してオーストラリア連邦高等裁判所(High Court of Australia)に控訴した。

2.オーストラリア連邦高等裁判所判決

当該裁判所は、第71条(2)の規定に第223条(2)の救済規定が適用されるかを検討した。その際当該裁判所は、第223条(2)の救済から除外される規定を定める規則22.11(4)(b)を参照し、同規則に「71(2)によって要求される標準特許の存続期間中に、当該特許の存続期間の延長を求める、法律第70条(1)に基づく申請をすること」と規定されていることを指摘した。

この点に関し、Alphapharm社らは、同規則に拠れば申請期間に関する上記2つの要件の何れも救済規定から除外されると主張した。

これに対して、当該裁判所の多数意見は、特許権の存続期間の延長制度、第223条及び規則22.11(4)(b)の立法経緯を検討し、第1の要件については特許権の存続期間が満了した後にも延長申請がなされる可能性がある場合の公衆に対する不確実さを回避する必要性があるとする一方で、第2の要件については、期間徒過の救済から排除しなければならない合理的理由を示唆するものはないとの見解を示した。その結果、規則22.11(4)(b)によって除外されるのは第71条(2)の規定の第1の要件だけであり、第2の要件については除外されないとしてオーストラリア連邦裁判所の判決を是認し、Alphapharm社らの訴えを棄却した。

 

第70条 特許期間延長の申請

(3) これらの医薬物質の少なくとも1について,次の条件の両方が満たされていなければならない。

(a) 当該物質を含んでいる,又はそれによって構成されている商品が,オーストラリア治療用品登録簿に記載されていなければならないこと

(b) 当該物質に関し,特許日から規制上の最初の承認日までの期間が少なくとも5年なければならないこと

 

第71条 申請の様式及び時期

申請時期

(2) 標準特許存続期間の延長申請は,該当する特許の存続期間中であって,次のうち最も遅い日から6月以内にしなければならない。

(a) 特許が付与された日

(b) 第70条(3)に規定した医薬物質を含んでいるか,又はそれによって構成されている商品のオーストラリア治療用品登録簿への最初の登録日

(c) 本条の施行日

 

第223条 期間の延長

(2) 次の理由,すなわち,

(a) 関係人又はその代理人若しくは特許弁護士による過誤若しくは遺漏,又は

(b) 関係人が制御することができない状況により,

一定の期間内に実行することが要求されている関連する行為が,その期間内に実行されないか又は実行することができない場合において,関係人が規則に定めた手続に従って申請したときは,局長は,当該行為を実行するための期間を延長することができる。

規則22.11 期間延長

(4) 法律第223条(11)における「関連する行為」についての定義に関しては,次の各行為が所定の行為である。

(b) 法律第71条(2)によって要求されている通り,標準特許の存続期間中に,当該特許の存続期間の延長を求める,法律第70条(1)に基づく申請をすること

 

High Court of Australia:

http://www.austlii.edu.au/au/cases/cth/HCA/2014/42.html?_sm_au_=iVVq65WTG6RSkkHG

 


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