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欧州 欧州統一特許裁判所協定(UPCA)とは

2022年12月27日
 浅村特許事務所 知財情報


欧州 欧州統一裁判所協定(UPCA)とは


 

  


2023年 6月 1日に発効する、欧州統一特許裁判所協定(UPCA)について纏めました。
ドイツが2023年 2月17日にUPCAの批准書を寄託し、EU加盟国の批准手続きが完了したため、UPCAは2023年 6月 1日に発効されることが正式に決定しました。

浅村特許事務所ウェブサイトの各国知財制度(ヨーロッパ)EPOにも掲載しています。

 

1.統一特許裁判所協定UPCA Unified Patent Court Agreement)制度

統一特許裁判所協定(UPCA)制度とは、欧州単一効特許(Unitary Patent:UP)と統一特許裁判所(Unified Patent Court :UPC)を組み合わせた制度のことをいいます。

単一効特許では、欧州特許条約(EPC)に基づく出願を行うことによって欧州特許庁(EPO)により付与された欧州特許について、統一特許裁判所協定を批准した国(統一特許裁判所協定が発効された際の17カ国:参加国)の登録、年金納付が一本化され、単一の権利となります。従って、権利の効果は参加国全てに及びます(単一効)。また、無効訴訟・侵害訴訟も統一特許裁判所に統一され、特許権は全て統一特許裁判所の判断に委ねられます。

なお、統一特許裁判所協定の移行期間中は、現行の従来型欧州特許制度(Classical European Patent)を利用するか、統一特許裁判所協定制度を利用するかのいずれかを選択できる、暫定措置が設けられています。

2.統一特許裁判所協定の参加国

(1)統一特許裁判所協定の発効時における参加国 (UPCA in Force)17カ国
欧州連合(EU)加盟27ヶ国EPO – Member states of the European Patent Organisation中、以下の17カ国となります。
オーストリア、ベルギー、ブルガリア、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、 ドイツ、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルグ、マルタ、オランダ、ポルトガル、 スロベニア、スウェーデン

(2)統一特許裁判所協定に署名しているが未批准国(UPCA Signatory States)7カ国
統一特許裁判所協定の発効以降に参加を予定している国
キプロス、チェコ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、ルーマニア、スロバキア

(3)統一特許裁判所協定非参加国

 ➀ EU加盟国であるが統一特許裁判所協定の非参加国 (Other EU Member States) 3ヶ国
  スペイン、ポーランド、クロアチア(なお、クロアチアは、統一特許裁判所協定に参加を検討中です。)

 ➁ EU非加盟国(欧州特許条約(EPC)加盟国)
イギリス、スイス、アルバニア、マケドニア(旧ユーゴスラビア)、アイスランド、リヒテンシュタイン、モナコ、ノルウェー、サンマリノ、セルビア、トルコ

参加国は、統一特許裁判所協定制度か従来型欧州特許制度の選択が可能です。ただし、後述する「オプトアウト期間」に限られます。

(2)と(3)の国は、従来型欧州特許制度のみを利用することができるため、各国で権利を取得するため欧州特許有効化手続きであるバリデーション(Validation)を行う必要があります。

 

出典 : The Unified Patent Court | Unified Patent Court (unified-patent-court.org)

 

3.統一特許裁判所協定 運用開始までのスケジュール

    2023年 3月 1日~2023年 5月31日 サンライズ期間(Sunrise Period)

 協定発行の3ヶ月前から協定開始までの期間をいいます。
なお当初、サンライズ期間の開始時期は2023年 1月 1日を予定していましたが、ケースマネージメントシステム(CMS)へのアクセス及びサンライズ認証機能の強化のため、開始時期が2か月延期され、2023年 3月 1日となりました。
そのため、サンライズ期間の終了時期も同様に延期され、2023年 5月31日となります。

 2023年 6月 1日 統一特許裁判所協定(UPCA)発効

 単一効特許及び統一特許裁判所の運用が開始されます。

 2023年 6月 1日~2030年 5月31日 統一特許裁判所協定(UPCA)移行期間

 統一特許裁判所協定発効後7年、期間が延長された場合は当該協定発効後最長14年。
 従って、移行期間が延長された場合は、最長2037年5月31日までとなります。
 発効後5年後に延長期間の見直しが行われます。

 2023年 3月 1日~2030年 4月30日 or 2037年 4月30日 オプトアウト期間

 サンライズ期間の開始から移行期間の終了1カ月前までの間、統一特許裁判所の専属管轄から除外することができ、これをオプトアウト(Opt Out)といいます(以下、この期間を、「オプトアウト期間」といいます)。
なお、サンライズ期間に申請が受理されたオプトアウトは、統一特許裁判所協定発効日に登録されたものと見なされます。

 

 

4.単一効特許の取得方法

(1)単一効特許の適用を受けるためには

  単一効特許の登録時に、参加国であることが必要です。
  単一効特許が登録された後に参加国になった国には、単一効特許の効力は及びません。 

(2)手続 

  ➀ 欧州特許庁(EPO)に出願
  ➁ 審査を経て特許査定を受けるまでの手続きは従来と同じ
  ③ オプトアウト期間の手続き

  (ⅰ) 単一効特許登録を行う手続きを選択した場合

1) 単一効請求(Request for Unitary Effect)
特許付与通知の公表(European Patent Bulletinへの特許登録公告日)から1か月以内に、出願人は欧州特許庁に対し、書面による単一効請求を行わなければなりません。
この1か月の期間の延長は認められません。
単一効請求は、単一効登録又は単一効請求の拒絶が確定するまで取下げる(withdraw)ことができます。
なお、単一効特許と従来の欧州特許の二重登録は、認められていません。

   2) 翻訳文提出

     明細書全文の翻訳文が必要です。
     翻訳文は、単一効請求と同時に提出しなければなりません。
     手続言語によって提出する翻訳言語は以下となります。

     (a) 英語の場合

      欧州連合(EU)のいずれかの公用語の翻訳文

     (b)フランス語又はドイツ語の場合

      英語の翻訳文

      この翻訳文は情報提供のみを目的としており、法的拘束力はありません。
      翻訳文の機械翻訳は認められていません。
      なお、移行期間経過後は、手続言語がいずれであっても、翻訳文の提出の必要は無くなる予定です。
      機械翻訳が用いられることが予定されているためです。

  (ⅱ) オプトアウトを選択した場合

(a)手続き期間

オプトアウト期間。
但し、当該期間中であっても、統一特許裁判所に訴訟が提起されてしまうと、その後にオプトアウトをすることできません。

(b) 申請者

特許権者又は特許出願人。なお、統一特許裁判所での訴訟代理資格を有する弁護士・欧州特許弁理士が代理人として手続きをすることが可能です。
また、当該弁理士以外が申請をする場合は、委任状が必要になります。
特許権者等が共有の場合、すべての共有者の同意が必要となります。

(c) オプトアウト申請

UPCケースマネージメントシステム(Case Management System :CMS)を用いて、オンラインで申請します。
対象となる特許または特許出願番号、およびその特許権者または特許出願人を入力します。

  (d)オプトアウト申請費用

    無料です。但し、現地代理人及び日本の代理人手数料が発生します。

     (e) 効果

     オプトアウトは、登録簿に登録した時点で有効になります。
    一度登録されたオプトアウトは移行期間終了後も、当該特許の存続期間中は持続されます。
    一度オプトアウトした特許を再度統一特許裁判所の専属管轄制度に移行させるオプトインも可能です。
    その際にはオプトアウトの取下げ申請を行います。
    ただし、その特許が国内の裁判所で係争中となっている場合、取下げ申請は認められません。
    また、一度オプトアウトを取下げた後は、再度オプトアウトすることは認められていません。

 ④ オプトアウト期間後

  単一効特許登録又は単一効請求の拒絶のみとなります。

 ⑤ 費用

 (ⅰ)維持年金(renewal fee)

   単一効特許は、維持のための年金の支払いも統一(参加国で一本化)されます。
   なお維持年金は、従来型欧州特許の4か国(英国、フランス、ドイツ、オランダ)合計額に相当する額となります。

   (ⅱ) 特許出願、中間処理費用

   従来型欧州特許登録を行う場合と同じです。

 

 

5.暫定的措置

 https://www.epo.org/law-practice/unitary/unitary-patent/transitional-arrangements-for-early-uptake.html

 EPO – Notice from the European Patent Office dated 11 November 2022 concerning the forthcoming introduction of the Unitary Patent and the possibility of requesting a delay in issuing the decision to grant a European patent in response to a communication under Rule 71(3) EPC 参照

単一効特許の早期取得促進のため、Rule 71(3)EPCの通知が発行された欧州特許出願に適用される二つの暫定的な経過措置が設けられています。

(1)暫定的な措置が設けられている理由

 欧州特許庁(EPO)は、欧州特許の付与ができると決定すると、Rule 71(3)EPCに基づきその根拠となる書面を出願人に通知します(特許予告通知書)。出願人は、権利付与と公開のための手数料を支払い、10日+4ヶ月以内に、訴訟の言語以外の欧州特許庁の2つの公用語による請求項の翻訳文を提出するよう求められます。ただし、この期間は延長できません。
 出願人がこの期間内に手数料を支払い、翻訳文を提出する応答手続きを進めると、出願人が権利付与を意図した文章を承認したものとみなされます。

 したがってこの応答手続きを安易に進めると、統一特許裁判所協定の発効前に特許付与が決定される可能性があり、この場合、出願人は単一効特許を選択する機会が無くなってしまいます。
 そのため、以下の暫定的な措置が取られています。

(2)早期の単一効特許請求(early request for unitary effect)

 早期の単一効特許請求とは、この早期の単一効特許請求を行うと、単一効特許制度の発行予定である2023年6月1日に直ちに単一効特許が登録になる措置です。

 統一特許裁判所協定が発効したのちに単一効特許の請求の受付を開始すると、単一効特許の請求が集中し、登録処理が遅延する可能性を未然に防ぐために設けられた措置です。

 ➀ 適用条件

   1) 2023年1月1日~2023年5月31日(統一特許裁判所協定の発効前まで)

   2) Rule 71(3)EPCの通知が発行されていること 

ただし、特許付与の言及の公告が統一特許裁判所協定発効前になることを避けるため、
Rule 71(3)EPCに対する応答は、特許付与の言及の公告が統一特許裁判所協定発効後になるようにしなければなりません。

(3)欧州特許付与の決定発行延期請求
   (request for a delay in issuing the decision to grant a European patent)

 欧州特許付与の決定発行延期請求とは、欧州特許付与の言及の公告を、統一特許裁判所協定の発効直後にすることができる措置のことをいいます。

 統一特許裁判所協定の発効前に許可が認められた出願について、Rule 71(3)EPCに基づく通知への応答手続を進めると、統一特許裁判所協定の発効前に特許付与決定(公告)がされる可能性があります。この場合、出願人は単一効特許を選択する機会がありません。

 このため、単一効特許を選択する機会を得るために、欧州特許出願の出願人が欧州特許庁からRule 71(3)EPCに基づく通知(許可予告通知書)を受領した後であって、特許付与を意図する文書を承認する旨を応答する前に、欧州特許庁に対し特許付与決定の発行の延期請求、いわゆる特許査定遅延請求の申請を行うことができます。

 この申請により、統一特許裁判所協定の発効後に特許付与の言及の公告がされるよう特許付与決定が遅延されるため、単一効特許の選択の機会を得ることができます。

 ① 適用要件

  1)2023年1月1日~2023年5月31日(統一特許裁判所協定の発効日前まで)

  2)欧州特許出願におけるRule 71(3)EPCの通知が発行されていること

  3)Rule 71(3)EPCの通知において、特許付与のために出願人に提示された通知書の承認に対し応答をしていないこと

 ② Rule 71(3)EPCの通知に対する応答期間内に2023年1月1日となった場合

  単一効特許の選択の機会を得るためには、Rule 71(3)EPCの承認の応答とともに遅延の申請を行う必要があります。

 ③手続き

  欧州特許付与の決定発行延期請求の申請は、欧州特許庁(EPO)が提供する専用の請求書(様式2025)(the EPO(Form 2025))を使用して行わなければならず、この様式は欧州特許庁のウェブサイトで順次公開される予定です。

6.統一特許裁判所(Unified Patent Court:UPC)

 統一特許裁判所とは、統一特許裁判所協定に基づき、単一効特許、従来型欧州特許、及び、これらの特許・特許出願の対象となる製品について発行される補充的保護証明書(Supplementary Protection Certificate: SPC)に関連する訴訟に関する、特許の取消手続き及び侵害訴訟手続きを管轄する(手続きを統一的に扱う)ために設立された、新しい国際裁判所です。
 その管轄は、全ての参加国に及びます。
 全ての参加国に対して単一の侵害訴訟を提起します。

(1)統一特許裁判所の構成

 ① 第一審裁判所(a decentralised Court of First Instance)

   中央部 本部:パリ、支部:ミュンヘン、3箇所目は未定
   複数の地方部(いずれの参加国も設置可能)
   
複数の地域部(参加国2カ国以上で設置可能)

 ② 控訴裁判所(a common Court of Appeal)

   ルクセンブルク

 ③ 救済及び仲裁センター(patent mediation and arbitration centre)

   リスボンとリュブリャナ

 ④ 判事研修センター

   ブダペスト

(2)統一特許裁判所の判決時期

  訴訟の提起から約1年以内に第一審の判決が出されます。

(3)統一特許裁判所の専属管轄となることによるメリット、デメリット

 ① メリット

単一効特許に関わる全ての訴訟が統一特許裁判所の専属管轄となります。同じ案件を複数の参加国で訴訟する必要がないため、一貫性が保たれ、手続きや訴訟費用の軽減を図ることができます。

 ② デメリット

   権利無効(取消)と判断された場合、全ての参加国の権利が取り消されます。
   これをセントラルアタック(Central Attack)といいます。

   なお、統一特許裁判所は、国内特許についての裁判管轄権は有しません。
   即ち、参加国国内に直接出願され、特許されたものについては、統一特許裁判所の裁判管轄外となります。

(4)例外

  統一特許裁判所は、欧州特許(既に欧州特許となっている場合を含む)の裁判管轄を有します。

  しかし、オプトアウト期間であれば、欧州特許を統一特許裁判所の専属管轄から除外するオプトアウトを選択すること
  ができます。ただし、オプトアウト期間の経過後は、オプトアウトすることはできません。

 ➀オプトアウトを選択しない場合

 (ⅰ)オプトアウト期間中

    統一特許裁判所と各国裁判所の併存管轄となります。
    なお、この裁判所の選択は、出訴する者がすることができ、そこで選択された裁判所が裁判管轄権を有するため、
    第三者からの先の提訴により望まない管轄で裁判が行われるリスクがあることには、注意が必要です。

 (ⅱ)オプトアウト期間後

    当該移行期間終了までにオプトアウト手続をしていない全ての従来型欧州特許が、統一特許裁判所の専属管轄となります。

 ② オプトアウトを選択した場合

  統一特許裁判所に対してすでに訴訟が提起されていない限り、各国裁判所の専属管轄となります。

 ③ 一旦行ったオプトアウトの撤回

  各国裁判所に訴訟が提起されていない限り、オプトアウトはいつでも撤回(withdraw)することができ(Opt-in-back)ます。
  オプトアウトが撤回されない限り、移行期間の経過後も各国裁判所の専属管轄となります。
  但し、オプトアウトの撤回後、再度のオプトアウトを行うことはできません。

  欧州特許庁に係属中の出願中の従来型欧州特許についても、オプトアウト期間であれば、オプトアウトの手続が可能です。
  この場合、特許査定後にオプトアウトが自動的に適用されます。

  (ⅰ)オプトアウト期間にオプトアウトを撤回した場合

     統一特許裁判所と各国裁判所の併存管轄に戻ります。

  (ⅱ)オプトアウト期間後にオプトアウトを撤回した場合

     統一特許裁判所の専属管轄になります。

単一効特許と従来型欧州特許に関する訴訟の裁判管轄

 

7.単一効特許及びオプトアウトの要否判断で考慮すべき事項

(1)移行国が多く特許無効(取消)訴訟が提起されるリスクが高いかどうか。
   リスクが高いと予想される場合は、オプトアウト手続を行い、セントラルアタックを回避すべきです。

(2)統一特許裁判所の質は未知数である一方、単一の侵害訴訟で対応することが可能であるため、移行国が多いほど訴訟コストを抑えられるというメリットがあります。

(3)オプトアウトの現地代理人費用は1件あたり約200ユーロ弱の見込みです。因みに、ケースごとに海外の個々の代理人事務所に依頼するのではなく、まとめて一か所に申請することでコストを抑えられる可能性があります。但し、タイムチャージで費用請求する事務所も存在するため、事前にコストを確認する必要があります。

(4)オプトアウト期間の経過後は、オプトアウトができなくなるため、オプトアウト期間終了までにオプトアウト手続をしたケース以外の特許訴訟裁判管轄は統一特許裁判所となります。そのため、移行期間経過後であって統一特許裁判所管轄を希望しない場合には、出願の時点で欧州特許庁(EPC)出願ではなく、各国国内出願を選択することを検討すべきです。

(5)現在欧州特許庁に係属中又は今後係属する欧州特許出願は、オプトアウト期間内であれば、Rule 71(3)EPCに基づく通知(許可予告通知書)への応答時に、統一特許裁判所参加国について単一効特許か従来型欧州特許を選択することになります。

    その選択にあたっては、単一効特許を選択すると、裁判管轄が例外なく統一特許裁判所になるため、統一特許裁判所の管轄から外す(=裁判管轄を各国裁判所の専属管轄とする)ためのオプトアウト手続の要否も考慮して検討すべきです。

    なお、単一効特許の維持年金は、欧州特許が最もよく登録される4か国(英国、フランス、ドイツ、オランダ)の維持年金の総額に相当するように設定されていますので、維持年金の観点からは、参加国の中で登録を望む国の数が4か国以上の場合には、単一効特許による登録を検討する価値があります。

    但し、既に登録済みの従来型欧州特許は、単一効特許にすることはできませんので、維持年金は変わりません。

(6)近くRule71(3)EPCに基づく通知(許可予告通知書)への応答予定があるケース等であって、単一効特許登録を希望する場合

    欧州特許を付与する決定の発行の延期請求(request for a delay in issuing the decision to grant a European patent)、いわゆる特許査定遅延申請により特許査定の時期を遅らせることとなります。

(7)オプトアウトの要否判断において実施権者(ライセンシー)がいる場合

   当該実施権者の意向も考慮する必要があります。オプトアウト手続をすることができる資格は特許権者にあるため、例えば、ドイツとフランスで特許を取得している場合であって、ドイツ国内の独占的実施権者と、フランス国内の独占的実施権者とが存在する場合、何らかの事情により、片方の実施権者が統一特許裁判所管轄での裁判を望まない(=自国の裁判所での裁判を希望する)一方で、もう片方の実施権者が統一特許裁判所管轄での裁判を望む場合も想定され、特許権者の判断によっては、いずれか一方の実施権者の意向と反することになるからです。

   そのため、特に複数人の実施権者が存在する場合は、全実施権者との間での事前に協議し、オプトアウト手続の要否について合意を取り付けておくことが必要です。

(8)単一効特許を選択した場合でも、「権利が重要」な欧州特許出願については、念のため、セントラルアタックを想定して分割出願をし、分割出願に基づく権利の方をオプトアウトすることによって、国内裁判所での裁判管轄を確実に確保しておくことも検討すべきです。

(9) オプトアウトをするか否かは、セントラルアタックのリスク回避を最重要事項とするかどうか否かによると言えます。セントラルアタックのリスク回避を重視するのであれば、オプトアウトの検討を行う必要があります。

(10)移行期間において、オプトアウトは統一特許裁判所で訴訟が提起されていない場合にのみすることが可能なため、確実にオプトアウトできるのはサンライズ期間のみとなります。したがって、オプトアウトを希望する場合であって、欧州特許の訴訟リスクが高いと想定されるケースでは、サンライズ期間にオプトアウトを行うことを検討する必要があります。

(11) 更新料を削減するため、特許期間満了前に一部更新を行わないとする選択肢はありません。

(12)統一特許裁判所の運用が実際に開始して機能が安定するまでは、統一特許裁判所の専属管轄から外すということも考慮に値します。

 

免責事項

本記載は、浅村特許事務所が現時点で収集した一般的な情報または欧州代理人の見解をお知らせするもので、今後変更になる可能性があります(変更の場合には速やかにお知らせいたします)。

具体的な案件についての弊所見解をご希望の場合には、別途お問い合わせください。

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