2026年 9月 9日
弁理士法人 浅村特許事務所
中国 特定の生理指標による医薬品用途特許の進歩性判断

浅村特許事務所
中国弁護士 鄭 欣佳
新たな適応症の存否により医薬用途発明の新規性・進歩性を判断する基準を示す記事です。
特定の生理指標による医薬品用途特許の進歩性判断
今回紹介するのは「転移期前立腺癌の治療剤を製造するため、デガレリクスの使用」という医薬品用途特許に関する無効審判の案件です。
特許権者はフェリング国際製薬(スイス)有限公司であり、請求人は正大天晴薬業集団股份公司です。
請求人はジェネリック医薬品の製薬会社として、先発医薬品メーカーに対する特許チャレンジとなっています。
本件も個別化医療に関する案件です。
個別化医療とは、患者の個体差によって疾病の予防及び治療法を調整することです。
現在の主要な研究の方向性は、ある疾病の発生要因、患者がある治療法に対する反応などに基づき、患者を類型化し、類型化した結果により治療法を選ぶ・変更することです。
従って、疾病に対する正確的な分類(類型確認)及びその進行に対する正確的な評価(進行確認)も個別化医療の方法を確認する時の大事な要素となっていて、個別化医療の研究内容と一つとなっています。
本件は疾病の類型確認及び進行確認の医薬品用途発明であり、スイスタイプクレームにより作成されました。
無効審判中に、請求項が訂正され、訂正後の請求項は下記の通りとなっています。
【請求項1】
対象の転移期前立腺癌の治療剤を製造するための、デガレリクスの使用。デガレリクスを初回用量160~320mgで投与し、及びその後は維持用量60~160mgで20~36日ごとに1回投与する。
対象の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)の基準値(治療前)は150IU/L以上である。
【請求項2】
デガレリクスを、初回用量約240mgで投与し、及びその後は維持用量約80mで約28日ごとに1回投与するための、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記対象の血清アルカリホスファターゼの基準値(治療前)が約160IU/L以上の、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記対象の血清アルカリホスファターゼの基準値が200IU/L以上の、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
治療の第60日から第364日の間の期間の、前記対象の血清アルカリホスファターゼ値が、前記基準値(S-ALP)より少なくとも50IU/L以上減少する、請求項1の使用。
【請求項6】
治療の第364日から第450日の間の期間の、前記対象の血清アルカリホスファターゼ 値が、前記基準値(S-ALP)より約50IU/L以上減少する、請求項1の使用。
【請求項7】
治療の第112日から第364日の間の期間の、前記対象の血清アルカリホスファターゼ 値が、前記基準値(S-ALP)より約90IU/L以上減少する、請求項1の使用。
【請求項8】
前記対象のヘモグロビン(Hb)値が130g/L以下である、請求項1の使用。
【請求項9】
前記対象の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)の基準値が300IU/L以上である、請求項1の使用。
【請求項10】
治療の第112日から第364日の間の期間の、前記対象の血清アルカリホスファターゼ値が、前記基準値(S-ALP)より約160IU/L以上減少する、請求項7に記載の使用。
【請求項11】
治療の第112日から第364日の間の期間の、前記対象の血清アルカリホスファターゼ値が、前記基準値(S-ALP)より約160IU/L以上減少する、請求項8に記載の使用。
【請求項12】
前記対象は、50ng/mL以上のPSA値を有する、請求項1に記載の使用。
【請求項13】
治療の第112日から第364日の間の期間において、前記対象の血清アルカリホスファターゼ値が、前記基準値(S-ALP)より、約60IU/L以上減少する、請求項12の使用。
「専利審査指南」の規定によると、医薬用途発明の新規性を審査する際に、投与対象、投与方式、経路、用量及び時間間隔等の使用に関連する特徴が製薬過程に対して限定作用を有するかを考慮しなければなりません。
投薬の過程にのみ現れる相違点によっては、当該用途は新規性を有しません。
それに対して、請求項に治療する対象を限定することにより、適応症が異なり、新たな適応症が生じた場合には、製薬過程に対して限定作用を有し、新規性を有します。
スイスタイプクレーム特許として、生理指標を特定することにより薬の投与対象を細分化する場合、疾病の発生要因、臨床症状、治療効果などの情報に基づき、当業者は当該生理指標が臨床上に薬の投与の参考になるかどうかを判断しなければなりません。
投与の参考になる場合、当該生理指標が発明の保護範囲に実質的に影響を与えていると思われます。
このような特許の進歩性を判断する際に、特許と最も近い先行技術との相違点は当該生理指標を指定することにより投与対象を細分化する場合、特許の明細書に基づき、当業者が容易に想到することができたか否かで、進歩性の判断を行います。
本件特許に最も近い先行技術(証拠1)との相違点は、請求項1には対象の転移期前立腺癌被験者の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)の基準値(治療前)が150IU/L以上という制限があることに対して、証拠1は全段階の前立腺癌患者を対象としていて、治療前の血清アルカリホスファターゼの基準値を明確に公開していません。
特許権者は、発明が実際に解決しようとする技術的課題について、請求項1には「転移期前立腺癌」及び「治療前の血清アルカリホスファターゼの基準値」という2つの制限があり、実際に骨転移の前立腺癌患者に限定することとなり、すなわち「適応症の下位サブグループ」であり、新たな医療用途となると主張しました。
それに対して、合議体は、属する技術分野にはこのような共通認識は存在する証拠が足りないと判断しました。
すなわち、S-ALPの基準値により、前立腺癌を分類することができ、S-ALPの基準値が150IU/L、200IU/L、300IU/Lの前立腺癌は新たな前立腺癌のサブグループを証明できる証拠は存在しません。
逆に、健康な人、又はほかの疾患に罹る患者のS-ALPの基準値も、150IU/L、160IU/L、もしくは200IU/L以上になる可能性があります。
従って、S-ALPの基準値は、前立腺癌を分類する単一の指標にすることができません。
証拠1は、デガレリクスが転移期前立腺癌患者を含め、全段階の前立腺癌患者に有効であり、97.2%の患者はデガレリクスの治療に応答しました。
その中、20%前後は転移期前立腺癌患者です。
そのため、当業者はデガレリクスで異なる生理指標を有する転移期前立腺癌患者の治療に使用する動機があります。
技術的効果から考えても、特許権者はS-ALPの基準値だけに基づきデガレリクスの有効性を説明しましたが、疾患の進展を評価する指標は多種であり、その治療効果は単一の指標により評価するのは難しく、証拠1に公開された内容により、当業者もそれを容易に想到できます。
従って、本件特許は進歩性がないと判断され、すべての請求項を無効にする審決が下されました。
生理指標を特定することにより、新たな適応症を生じさせ、医薬用途発明特許の新規性及び進歩性を確立しようとする場合、その生理指標は新たに適応症を分類させるため、属する技術分野において一般に認識されているか否か、また当業者の容易想到性を考慮しなければなりません。