2026年 8月20日
弁理士法人 浅村特許事務所
中国 中国商標法改正

浅村特許事務所
中国弁護士 鄭 欣佳
2027年 1月 1日から施行される改正商標法の主な改正点を条文ごとに整理し、各改正内容にコメントを付した記事です。
中国商標法改正
2026年 6月26日、改正商標法は全国人民代表大会常務委員会の審議を経て可決され、2027年 1月 1日から施行されます。
今回の改正は、1983年に商標法が施行されて以来5回目となり、現行法に対し大幅な改正がされています。
本記事は商標法の主な改正点を条文ごとに整理・列記し、各改正内容にコメントを付しました。
中国の商標法を理解するための有益な情報になることを期待します。
現行法に対し改正があった改正法の箇所を赤文字で表記しています。
第2条
この法律で「商標」とは、商品又は役務の出所を識別又は区別する標章であって、商品商標及び役務商標が含まれるものとする。
この法律において、商品商標に関する規定は、役務商標にも適用する。
この法律で商標について「使用」とは、商品、商品の包装若しくは容器、及び取引書類に商標を使用し、又は広告宣伝、展示及びその他の商業活動に商標を使用し、商品の出所を識別又は区別する行為をいう。
前項の使用には、インターネット等の情報ネットワークを通じて使用する行為が含まれるものとする。
コメント:
本条は商標の定義を明確にした上で、インターネットにおいての使用も商標の使用行為として認めることが明文化されました。
ネットの利用が不可欠である現代社会において、商標の使用に該当する行為を広く認めます。それゆえ、商標権者の権利行使が容易になり、不使用取消審判の立証負担も軽減されると考えられます。
第14条
文字、図形、アルファベット、数字、立体的標章、色彩の組合せ、音声、動き標章等、及び上記要素の結合が含まれ、自然人、法人又は非法人組織の商品を他人の商品と区別することができるいかなる標章は、商標として登録出願することができる。
コメント:
社会の変化に合わせて、商標の種類に「動き標章」を追加し、保護対象が拡大されました。
第15条
次に掲げる標章については、商標登録を受けることができず、使用してはならない。
(一)中国共産党の名称、党旗、党徽、勲章又は重要理論に関する成果若しくは歴史上の事件に関する象徴的な要素等と同一又は類似するもの。 ……
(八)欺瞞性を帯び、公衆に商品の品質、工芸、原料等の特徴又は産地について誤認を生じさせやすいもの。
(九)公序良俗に反し、又はその他の悪影響を及ぼすもの。
コメント:
第(一)項は、改正商標法で商標の登録を受けることができず、使用してはならない標章に、中国共産党の「名称等又は重要理論に関する成果若しくは歴史上の事件に関する象徴的な要素」を新たに追加し、国家及び政党の尊厳、社会利益に対する法的保障が強化されています。
第(八)項では、欺瞞性を帯び、公衆に誤認を生じさせやすいものに、品質、産地以外の「工芸」及び「原料」が明記されました。
長年にわたる実務上の審査基準を明文化したものと考えられます。
第19条
使用を目的とせず、明らかに通常の生産経営の必要を超える商標登録出願について、その登録は認められない。
欺瞞又はその他の不正な手段により商標登録出願をしてはならない。
コメント:
現行法では、「使用を目的としない悪意のある登録出願」と規定していましたが、「明らかに通常の生産経営の必要を超える商標登録出願」に変更されました。
「悪意」に対する判断基準を明らかにし、「明らかに通常の生産経営の必要を超える」と定められました。
出願人の規模、産業構造、商標の使用状況により総合的に判断すると考えられます。
商標の買い占めに対する規制と、防衛的な登録出願とのバランスが取られることを期待します。
第20条
商標登録出願に係る商標は、他人が同一の商品又は類似の商品において既に登録若しくは先行出願された商標と同一又は類似してはならない。
コメント:
現行法(第30条)の「初歩査定された商標」から「先行出願された商標」に変更されました。先願主義に対する強調と考えられます。
第36条
初歩査定を受け、公告された商標について、その公告日から2ヶ月以内に、先行商標権者、利害関係人が、この法律の第二十条乃至第二十二条、第二十三条第一項、第二十四条の規定に違反していると判断するとき、又は何人がこの法律の第十五条、第十六条第一項、第十七条乃至第十九条、第二十五条の規定に違反していると判断するときは、国務院商標管理部門に異議を申し立てることができる。公告期間内に異議申立がなかった場合、その登録は認められ、商標登録証が交付され公告される。
コメント:
初歩査定公告後の異議申立期間を現行法の「3ヶ月」から「2ヶ月」に短縮されました。
商標出願から登録までの期間が短縮され、より早く商標登録を受けることができ、出願人は安心してビジネスの展開に専念することができます。
一方、先行商標権者は、異議申立期間を徒過しないように、商標のウォッチングを頻繫に行い、証拠の整理なども迅速に完成させなければなりません。
第49条
商標権者が商標権の抹消登録を申請した場合、抹消公告日から1年以内に、国務院商標管理部門は、他人の同一又は類似の商品において、当該商標と同一又は類似する商標の登録出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
コメント:
現行法(第50条)には、登録商標が取り消され、無効宣告され、又は更新しない場合、取消日、無効宣告された日又は抹消日から1年以内に、当該商標と同一又は類似する商標の登録を認めない、とする出願登録禁止期間が設けられています。
新法では、1年の出願登録禁止期間を、商標権者自ら抹消登録を申請する場合のみ適用すると限定したため、その他の場合は1年の禁止期間を待たずに、直ちに同一又は類似する商標の登録出願が可能となり、登録される可能性があります。
第54条
商標登録出願人に次の各号に該当する悪意による商標登録出願行為があり、悪影響を生じさせたときは、商標法執行機関による警告が与えられ、併せて10万元以下の罰金を科すことができる。
(一)標章がこの法律の第十五条、第十六条第一項の規定に違反することを知っていたにもかかわらず、商標登録出願したこと。
(二)この法律の第十九条の規定に違反して商標登録出願をしたこと。
(三)この法律の第二十一条、第二十二条、第二十四条の規定に故意に違反して商標登録出願をしたこと。
コメント:
新法の新設条文です。悪意による登録出願に対する規制を強化し、10万元以下の行政罰と警告と同時に科すことができるようになります。
悪意による登録出願として、使用・登録禁止条項の違反、地名又は特殊標章の登録出願及び使用、使用を目的としない登録出願、欺瞞又は不正な手段による登録出願などが挙げられています。
第55条
商標権者は、自ら商標を使用することができ、又は商標使用許諾契約の締結により、他人に自己が保有する登録商標の使用を許諾することができる。
許諾者は、被許諾者が当該登録商標を使用する商品の品質を管理監督しなければならない。被許諾者は、当該登録商標を使用する商品の品質を保証しなければならない。
被許諾者が品質保証義務を履行しないときは、許諾者は商標使用許諾契約を解除することができる。
許諾を受けて他人の登録商標を使用するときは、当該登録商標を使用する商品に被許諾者の名称及び商品の原産地を明記しなければならない。
他人に当該登録商標の使用を許諾するときは、許諾者は当該商標使用許諾を国務院商標管理部門に届出しなければならない。
国務院商標管理部門はそれを公告する。
商標使用許諾の届出が行われていなければ、善意の第三者に対抗することができない。
コメント:
現行法(第43条)は、許諾者が使用許諾の対象商標を使用する商品の品質を管理監督する義務があり、被許諾者が品質を保証する業務があると規定しています。
新法では、許諾者が品質保証義務を果たさない場合、許諾者が商標使用許諾契約を解除することができるという新しい条項が設けられました。
新設された条項により、粗悪品に自社の商標を付することを阻止することができ、許諾者は自社商標に対する統括力が向上する一方、解除権は許諾者の主観的な判断で一方的に行使することができるため、使用許諾契約の安定性が影響され、取引に不利になる可能性も否めません。
解除権について、行使条件等に関する更なる詳しい規定を期待します。
第56条
公衆に誤認させる方法で登録商標を使用したときは、商標法執行機関は、期間を定めて是正を命じ、違法経営額が5万元以上のときは、違法経営額5倍以下の罰金を科すことができる。
違法経営額がなく、又は違法経営額が5万元未満のときは、25万元以下の罰金を科すことができる。
期間を過ぎても是正措置を講じないときは、国務院商標管理部門はその登録商標を取り消す。
コメント:
新法に新設された登録商標の不正使用に関する条文です。
登録商標を誤認を生ずる方法で使用したときは、法執行機関が期間を定めて是正を命じると同時に、違法経営額により罰金を科すことができます。
その上、是正命令を無視し、措置を講じない場合、国務院商標管理部門は職権により登録商標を取り消すことができます。
登録商標の不正使用に対する厳格な規制として考えられます。
第57条
商標権者が登録商標の使用をする際、無断で登録商標、登録者の名義、住所、その他の登録事項を変更したときは、商標法執行機関は、期間を定めて是正を命じる。
期間が過ぎても是正措置を講じないときは、5万元以下の罰金を科す。情状が重大なときは、国務院商標管理部門はその登録商標を取り消す。
登録商標が指定商品の普通名称となり、又は正当な理由なく継続して3年以上使用していないときは、何人も、国務院商標管理部門に当該登録商標の取消を請求することができる。
国務院商標管理部門は、請求を受理した日から9ヶ月以内に決定をしなければならない。
特別な事情があり、その期間の延長が必要なときは、国務院商標管理部門の責任者の許可を得て、3ヶ月の期間を延長することができる。
登録商標が前項に規定する状況に該当するときは、国務院商標管理部門は当該登録商標を取消すことができる。詳しくは国務院商標管理部門が規定する。
コメント:
新設された第3項により、国務院商標管理部門は、3年不使用取消の権限が付与され、職権により継続して3年以上使用していない登録商標を取り消すことができるようになりました。
従来の請求のみで不使用登録商標を取り消すことができる制度と比べ、商標権者により適切な商標管理を求めています。
特に防護目的で登録商標を保有する企業は、継続的に商標を使用した証拠を保存する必要があると考えられます。
また、無断で登録商標の情報を変更し、法執行機関が命じた是正を所定期間内にしない場合、5万元以下の罰金を科すことができる規定も追加されました。
無断の情報変更に対するより厳格な規制と考えられます。
第73条
登録商標に、この商品の通用名称、図形、規格、若しくは商品の種類、性質、品質、主要原材料、機能、用途、重量、数量、価値、地理的出所及びその他の特徴を直接に表示するもの、又は地名を含むときは、登録商標専用権者は、他人の正当な使用を禁止することができない。
登録商標に立体標章、色彩の組合せ、音声及び動き標章等が含まれ、登録商標が商品自体の性質によって生じ、技術的効果を得るために必要であり、又は商品に実質的な価値を有させるための形状、色彩の組合せ、音声及び動的効果等であるときは、登録商標専用権者は、他人の正当な使用を禁止することができない。
提供する商品の用途、適用対象、使用場面等の情報を示し、又は真の出所を表示するためのみ関連する登録商標を使用するときは、登録商標専用権者は他人の正当な使用を禁止することができない。
ただし、混同を生ずるおそれがある場合には、この限りでない。
商標権者が商標登録出願をする前に、他人が既に同一又は類似の商品において、商標権者より先に登録商標と同一又は類似し、かつ一定の影響力を有する商標を使用しているときは、登録商標専用権者は、当該使用者が元の使用範囲において当該商標を引き続き使用することを禁止することができない。
ただし、使用者に適切な区別をするための標章を付け加えるよう要請することができる。
コメント:
商標権の効力が及ばない範囲を明文上において拡大し、正当な使用に該当する行為が充実されました。
第三項は新たに設けられた条項で、商品を説明するための情報を使用する場合、混同を生ずるおそれがない限り商標の正当な使用に該当し、商標権の効力は及びません。
会社に対する表示の制限が一層減少し、より自由に商品の説明を行うことができると考えられます。
第77条
登録商標専用権の侵害による損害賠償額は、権利者がその侵害により受けた実際の損失の額又は侵害した者が侵害の行為により受けた利益の額により算定する。
権利者の損失又は侵害した者が受けた利益を確認することが困難なときは、その商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額の倍数を参照して合理的に算定する。
故意に登録商標専用権を侵害し、情状が重大なときは、上記の方法により算定された金額の1倍以上5倍以下の賠償額を認定することができる。…………
コメント:
現行法において、商標専用権の侵害による損害賠償額は、
① 権利者が受けた損失の額;
② 侵害した者が受けた利益の額;
③ 商標使用料の倍数
の順番により算定されます。
新法では、その順番について調整が行なわれました。
権利者は、まず「①権利者が受けた損失の額」又は「②権利者が受けた損失の額」から損害額を算定する基準を選び、立証し、算定を行います。
いずれにしても算定が難しい場合、次は使用料の倍数を参照し、合理的に算定を行うことになります。
権利者にある程度の選択権を与えていると考えられます。
第81条
人民法院は、悪意による通謀、基本的事実を一方的に捏造することに関する訴訟の提起に対し、法に基づき処罰する。
相手方当事者がその訴訟により損害を受けた場合、訴訟を提起した者は法に基づき民事責任を負わなければならない。
コメント:
通謀、一方的に基本的事実を捏造する行為のような事由を列挙し、悪意による訴訟提起の判断基準が明確にされました。
その上で、訴訟の相手方が当該訴訟により損害を受けた場合には、訴訟を提起した者は民事責任を負うという条項を新設し、不当訴訟を厳格に規制する姿勢を見ることができます。