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中国 専利審査指南の改正

2025年12月26日
 弁理士法人 浅村特許事務所


中国 専利審査指南の改正


 



浅村特許事務所
中国弁護士   鄭 欣佳

 
 改正された専利審査指南から幾つかのテーマをピックアップして説明します。


             専利審査指南の改正 

 2025年11月10日に、国家知識産権局が「専利審査指南を改正する決定」を公表しました。
 改正された「専利審査指南」は2026年 1月 1日より施行されます 。

 今回の改正は、AI、ビッグデータに関する専利の審査基準、進歩性の審査、優先権などについて行われました。これからいくつかのテーマをピックアップして、説明致します。


一、AI、ビッグデータに関する専利

 1.「専利法」第5条第1項に基づく審査の追加
「専利法」第5条第1項には、法律と公序良俗違反、又は公共利益を妨害する発明創造に対しては、専利権を付与しないという規定があります。
改正は、AI、ビッグデータに関する専利の審査に上記の基準を付け加え、「個人情報保護法」等の法律、公序良俗に違反する発明には専利を付与しないことを明確にしました。

この審査基準に関して、2つの審査例が追加されました。

審査例1:
ビッグデータに基づくマットレスの販売支援システムに関する発明です。
当該システムは、顧客のマットレスに対する好みを把握し、販売を促進するため、ショッピングモールで撮影モジュールを設置し、顧客が知らないうちに、彼らの顔画像を取得、分析することにより、顧客の身元識別情報を取得する発明です。
このような販売促進を目的とする顔画像の収集、身元識別情報の分析は、公共安全のために必要なものではなく、また、出願書類にデータが適法なルートによって取得したこと(例えば、個別に顧客の同意を得たなど)が示されていないため、「個人情報保護法」に違反するとされ、専利の付与が認められません。

審査例2:
自動運転車の緊急場面に対する意思決定モデルの構築法に関する発明です。
その構築法は、歩行者の性別や年齢を障害物のデータとし、トレーニングされた意思決定モデルを通じて障害物を回避することができない場合に、保護する対象と衝突する対象を選別します。
当該技術方案は歩行者の性別、年齢により差別的な意思決定を行い、性別、年齢に対する社会的な偏見を助長し、社会秩序に対する公衆の信頼を損なう結果を招きかねず、公序良俗に反する発明とされ、専利の付与が認められません。

 2.AIに関する専利の明細書作成
AI専利の明細書を作成について、下記の規定が追加されました。

「人工知能モデルの構築又はトレーニングに係る場合、通常、モデルに必要なモジュール、 レイヤー又は接続関係、トレーニングに必要な手順、パラメータなどの詳細を明細書に明確に記載しなければならない。人工知能モデル又はアルゴリズムを特定の分野又はシーンに適用する場合、通常、当業者が明細書に記載される内容に従い、当該発明の解決手段を実現できるように、モデル又はアルゴリズムを特定の分野又はシーンとどのように組み込むのか、アルゴリズム又はモデルの入出力データをどのように設置し、その内在する相関関係を示すのかなどを明細書に明確に記載しなければならない。」
この規定は、アルゴリズム、モデルがブラックボックスのような特性を有し、内部構造及びメカニズムを直接に観察することができない特徴に対して、明細書に十分開示すべき要件を満たすため、追加されました。

この規定に併せて、以下の2つの審査例も追加されました。

審査例1:
顔特徴の生成に用いられる方法に関する発明です。 顔画像を生成する精度を向上するために、第1畳み込みニューラルネットワーク内では、顔画像の特徴領域を決定するための空間変換ネットワークを設けることができますが、明細書には、第1畳み込みニューラルネットワークにおける当該空間変換ネットワークの具体的な設定位置が記載されていません。
しかし、当業者は、空間変換ネットワークを全体として第1畳み込みニューラルネットワーク内の任意の位置に挿入し、画像の特徴領域を識別する能力に影響することはないと認識しているため、明細書への記載がなくとも、十分開示の要件を満たしていると判断されます。

審査例2:
生体情報に基づいてがんの発症を予測する方法に関する発明です。
解決しようとする技術的課題は、悪性腫瘍の予測精度を向上することです。
その仕組みは、トレーニングされた悪性腫瘍強化スクリーニングモデルを通じて、血液検査、顔画像特徴などをスクリーニングモデルに入力し、悪性腫瘍罹患する可能性を予測する数値を得ることです。
ただし明細書には、どのような血液検査の項目及び顔画像の特徴が予測の精度に関連性するかについての記載がなく、当業者もこれを確認することができません。
このような明細書は、十分開示の要件を満たしていないと判断されます。

二、 ビットストリームに関する発明の審査

 1.請求項が単なるビットストリームのみに係る場合
当該請求項は専利法第25 条第1項第2号に定める知的活動の規則と方法に該当し、専利の保護対象に該当しません。
例えば、「ビットストリームであって、構文要素A、構文要素B、……を含むことを特徴とするビットストリーム」の記載は、専利の保護対象に該当しません。

 2.記憶・伝送に関するビットストリームの請求項の記載
記憶方法、伝送方法に関するビットストリームの請求項に、ビデオ符号化方法を実行する手順を記載しなければならず、ビデオ符号化方法により生成したビットストリームの記憶、伝送もしなければなりません。
下記の記載例が示されました:  
「ビットストリームを記憶する方法であって、請求項1に記載のビデオ符号化方法を実行してビットストリームを生成し、前記ビットストリームを記憶することを特徴とするビットストリームを記憶する方法 。   
ビットストリームを伝送する方法であって、請求項1に記載のビデオ符号化方法を実行してビットストリームを生成し、前記ビットストリームを伝送することを特徴とするビットストリームを伝送する方法。」

 3.ビットストリームを記憶するコンピュータ可読記憶媒体の請求項の記載
ビットストリームを記憶するコンピュータ可読記憶媒体の請求項には、「媒体+コンピュータプログラム/命令+ビットストリーム+プロセッサがプログラム/命令を実行し、ビデオ符号化方法によりビットストリームを生成する」のような記載をしなければなりません。
下記の記載例が示されました:
「コンピュータが読み取り可能な記憶媒体であって、その上にはコンピュータプログラム命令及びビットストリームが記憶されており、当該コンピュータプログラム命令がプロセッサにより実行される時に請求項1に記載のビデオ符号化方法により前記ビットストリームが生成されることを特徴とするコンピュータが読み取り可能な記憶媒体。」

三、専利の同日出願の対応

同一の発明について、特許出願と実用新案登録出願が同日にされた場合は、同日出願した理由を説明しなければなりません。
説明がない場合、特許権は付与されません。
説明した場合であって発明に拒絶理由がない場合には、出願人に既に権利を取得した実用新案権を放棄することを通知します。
出願人が実用新案権を放棄しない場合には、特許権は付与されません。
期限を過ぎても応答しない場合には、特許出願が取り下げたものとみなされます。

四、無効審判

 1.無効審判の提出が請求人の真の意思表示ではない場合、受理されません。
2.補正文書の提出 補正を行う場合、全文の差し替え頁及び補正対照表を提出しなければなりません。
  同一の無効審判において複数の補正文書を提出した場合、最後に提出された補正文書に準じて審理が行われます。

五、分割出願の優先権主張

 分割出願の原出願に対し優先権を主張したにもかかわらず、分割出願時に当該優先権を主張していない場合には、分割出願において当該優先権は主張されていないものとみなされます。

六、発明者の適格

 発明者は自然人でなければならず、AIは発明者として認められません。