2025年12月22日
浅村特許事務所 知財情報
モルディブ 商標法 2026年11月11日 施行
モルディブにおいて、2025年11月11日に商標法(Law No. 19/2025)が官報にて公布されました。
商標法の施行日は、交付日から12か月後の2026年11月11日となります。
商標登録出願の準備期間のため、1年の期間が与えられています。
― Cautionary Notice に依存した旧制度から、国際基準の登録制度へ ―
モルディブでは、長年にわたり警告的告示(Cautionary Notice)による周知を中心とした非公式な商標保護制度が続いてきましたが、
この度、同国初となる正式な商標登録制度が採用され、国際基準に沿った正式な登録制度が導入されます。
この商標法では、実体審査手続、異議申立手続、並びに商標権侵害および模倣品対策に関する救済手段を導入しています。
1.商標法の概要
本法により、警告的告示(Cautionary Notice)による新聞広告を用いた商標権主張制度は廃止され、 新たに国際基準に整合した正式な商標保護制度が導入されます。
これにより、商標権が付与され、侵害や模倣品に対する法的執行が強化されます。
主な内容
• 出願、審査、異議申立て、更新の明確な手続を制定
• 民事・刑事の侵害救済措置
侵害・模倣対策のための強化された法的救済手段を整備
• 10年間の登録期間(更新により継続可能)
• 先願主義(first-to-file)の導入
• 証明商標・団体商標の導入
• 外国企業は投資許可なしで出願可能
2.モルディブ知的財産庁の設置
モルディブ知的財産庁(Maldives Intellectual Property Office:MIPO)が、2026年 1月に設立される予定です。
商標・特許・著作権を統括します。
3.商標の広義定義
「一の事業体の提供する商品又は役務を他の事業体のものと識別し得るいかなる標識」として商標を定義し、 氏名、文字、数字、図形的要素、記号、形状、パターンおよびその結合体を含まれます。
4.商標登録出願に必要な書類(法定要件)
以下は、商標法に明記されている出願時の必要書類・情報になります。
a. 出願人の氏名および住所
b. 出願人が外国人の場合
・その国籍
・他国に居住地を有する場合、その国名
・他国に産業・商業拠点を設置し事業を行っている場合、その国名
c. 出願人が法人の場合
・当該法人の法的性質
・登録国
・特定の地域における法に基づき登録されている場合、その地域名
d. 出願人の代理人を選任している場合
・その者の氏名および住所
e. 本法に基づく規則で定められる基準に適合する商標の図示(graphic representation)
f. 特定の種類の商標について規則で条件が定められている場合
・その条件を満たしている旨の記載
g. 商標の識別力ある特徴として色彩を特定したい場合
・その旨の記載
h. 翻訳文
・商標またはその要部に関する英語またはディベヒ語(Dhivehi)の翻訳
i. 商標の使用を予定する商品・役務の一覧(規則で定められる詳細を含む)
j. 登録料
k. 本法に基づく規則で定められるその他の情報または書類
※今後公布される規則にて、書類が追加される可能性があります。
5.優先権制度(パリ条約・展示会)
パリ条約または世界貿易機関(WTO)加盟国において商標登録出願を行った出願人は、 当該国での出願日から6か月以内であれば、同一商標、同一の指定商品又は役務につき、モルディブにおいて優先権主張をすることが可能となります。
ただし、モルディブは現時点ではパリ条約に加盟していない点に注意が必要です。
さらに、公式展示会または国際的に認められた公式展示会において、特定の商標を付した商品又は役務を展示した者が、本法に基づき当該商標の登録出願を行う場合、 公式展示会で最初に展示した日から6か月間、モルディブにおいて優先権を有します。
6.登録要件および拒絶理由
以下の場合には、登録官が出願を拒絶することができます。
• 商標に識別力がない場合
• 商品・役務の品質・効能等を直接的に表示する記述的標章である場合
• 公序、善良な風俗、またはイスラム的価値観に反する場合
• 既存の商標や周知商標と同一又は混同を生じさせる類似の標章である場合
ただし、当初識別力が欠けていたとしても、モルディブ国内における長期間の使用により 識別力を取得した商標については、登録が認められる例外規定が設けられています。
7.証明標章および団体標章に関する規定の整備
8.周知商標に対する保護の付与
9.出願開始時期および Cautionary Noticeの取扱い
商標登録出願は、2026年11月11日以降受理されます。
同日以降は、商標保護のためにCautionary Noticeに依拠する必要はなくなります。
ただし、それまでの期間(2026年11月10日まで)は、 周知を図る手段としてCautionary Noticeの警告掲載または再掲載を継続することが強く推奨されています。
10.保護の開始時期と遡及の有無
商標法による保護は、Cautionary Noticeの掲載日には遡及せず、
モルディブ知的財産庁(Maldives Intellectual Property Office)における正式な商標登録日から開始されます。
また、商標法に基づく商標登録出願に際し、最初のCautionary Noticeの写しの提出は必要ありません。
11.既存商標の再登録が必須 ― 2027年11月11日が期限
現行制度下で事実上保護されている商標については、
2026年11月11日〜2027年11月11日の12か月間に再登録することが必須となります。
この期間内に再登録しない場合、既存商標は失効・取消しとなります。
12.料金(オフィシャルフィー)について
商標法には登録料、政府手数料、その他の費用等の規定はなく、
商標法施行後6か月以内である2027年 5月までに公布される予定の下位規則(subordinate regulations)にて定められる予定です。
13.商標権の存続期間
商標登録日から10年間の商標権保護期間が付与され、以後10年毎の権利更新が可能です。
なお、更新に関し6か月の猶予期間が設けられます。
14.不使用取消
登録から5年経過後しても商標を不使用だった場合、取消しの対象となります。
15.異議申立制度
異議申立期間は公告日から3か月となります。
16.商標権侵害および模倣行為に対する民事上および刑事上の措置の導入
① 侵害
登録商標または周知・著名商標について、権利者の許諾なく使用する行為が侵害に該当する。
混同を生じさせるおそれのある類似標章の使用や、商標の識別力・名声を希釈化(ダイリューション)する行為も侵害行為として位置付けられる。
② 民事救済
商標権者は、差止請求、損害賠償請求、並びにその他の民事的救済(侵害行為の排除、再発防止措置等)を求めることができる。
③ 刑事罰
偽造行為は刑事犯罪となります。
有罪判決が確定した場合、偽造品及びその原材料・設備等について、補償なしで廃棄又は流通からの恒久的な除去が命じられることがあります。
17.国境措置(税関による取締り)の実施
18.模倣対策の強化 ― 国境措置・偽造品への罰則
国境措置および刑事罰が導入され、偽造行為に対する罰金は100,000~2,000,000モルディブ・ルフィア(MVR)とされています。
19.規則(手数料・細則)は 2027年 5月までに公布を予定
登録費用の他、手続詳細、証明要件などを定める下位規則(subordinate regulations)も、 2027年 5月までに公布される予定です。
