住所:東京都千代田区大手町1-5-1 大手町ファーストスクエア ウエストタワー17F
TEL:03-6840-1536(代表)

中国 電動立ち乗り車特許の無効審判(無効宣告請求)

2024年 2月27日
浅村特許事務所


中国 電動立ち乗り車特許の無効審判(無効宣告請求)


 

   

浅村特許事務所
中国弁護士   鄭 欣佳

 

 特許の分割出願が行われた後、分割出願が原出願の記載範囲を超える理由により無効とされた事案を紹介します。


電動立ち乗り車特許の無効審判(無効宣告請求)

 今回は特許の分割出願が行われた後、登録された分割出願が無効とされた事案を紹介します。

 

 分割出願が行われたのは、「電動立ち乗り車」に関する発明(以下、「原出願」という)です。特許権者は浙江騎客ロボット科技有限公司であり、無効請求人は浙江九華進出口有限公司、万院安及び王彬です。

 無効審判の請求がされたのは、原出願が登録された後に提出された6個の分割出願の一つ(以下、「分割出願」・「本件出願」という)です。分割出願は原出願に基づき、明細書に多くの修正が行われたため、無効審判請求人の一人がその保護を求める技術方案が原出願の記載範囲を超えていることを理由にして無効審判の請求を行いました。国家知識産権局はその請求に理由があると認め、特許を全て無効とする審決を下しました。

 

 無効審判の審理内容

1.記載範囲を超えることの認定
 本件出願は、左右の車体が互いに回転できる両輪電動立ち乗り車であり、出願公開されました。

(図形。出典:特許公報)

 

 国家知識産権局に指摘された原出願の明細書と分割出願の明細書との相違点は、以下の通りです。

原出願の明細書

分割出願の明細書

底蓋3及び天蓋1が固定される。実際の応用において、天蓋1及び底蓋3がねじでとめる。本発明の天蓋1、内蓋2及び底蓋3は、本発明の電動立ち乗り車100の枠組みが共に形成される。天蓋1及び底蓋3が共にとめられた後、内蓋2は、車体の内部に覆われ、外に現れない。電動立ち乗り車100が作動状態になった場合、底蓋3 が最底部に位置する。

底蓋3及び天蓋1が固定される。実際の応用において、天蓋1及び底蓋3がねじでとめる。本発明の天蓋1、支持蓋及び底蓋3は、本発明の電動立ち乗り車100の枠組みが共に形成される。電動立ち乗り車100が作動状態になった場合、底蓋3 が最底部に位置する。天蓋は主に装飾と被覆の役割を果たす。他の実施態様において、支持蓋及び天蓋が一体成形することができ、耐荷重、装飾、被覆の役割を同時に果たす。

内蓋2は、天蓋1と底蓋3との間に固定される。

支持蓋2は、天蓋1と底蓋3との間に固定される。

内蓋2の材料がアルミニウム合金であることが好ましいので、強度がもっと優れ、構造がもっと強固である。天蓋1及び底蓋3の材料がプラスチックであるので、車体の重さを軽減できるとともに、車体の外観に吹き付け、着色などの工程を便利に行うことができ、防汚、防水の役割を果たす。

支持蓋は、一体成形、溶接、リベット留め、ファスナー止め等により形成することができる。前記支持蓋の形状は限定されず、剛性の板構造、剛性のシャフト、剛性のフレーム、剛性のシェルなどであってもよい…支持蓋は、金属製、硬質プラスチック製、複合強化材料製、その他剛性支持特性を有する材料製であってもよい。

(①:分割出願の明細書には原出願の明細書の「内蓋」を「支持蓋」にしています。)

 

(図形。出典:特許公報)

 

 従って、原出願で公開された電動立ち乗り車は三層構造により構成されます。内蓋の材料がアルミニウム合金であることが好まれ、天蓋1及び底蓋3の材料がプラスチックです。内蓋は、内部が覆われ、外に現れません。    
 それに対し、分割出願の明細書には、支持蓋及び天蓋が一体成形することができる実施例を出し、実質二層構造である電動立ち乗り車も含まれます。これは原出願が公開した三層構造の案の範囲を超えています。
   
 請求項を確認すると、分割出願の請求項1には「第一支持蓋は上部と一体成形され、また第一天蓋と固定連結され、第二支持蓋は上部と一体成形され、または第二天蓋と固定接続される」という記載があります。これは、原出願の記載範囲を超えています。
「一体成形」の方法についても、原出願は天蓋と内蓋は独立したパーツであり、それぞれの好ましい材料も異なります。原出願の明細書及び請求項には、両者が一体成形できるような技術情報が提供されていません。
「固定連結」の方法については、原出願が公開した案 には、内蓋が立ち乗り車の骨格として車輪に連結され、天蓋と底蓋が内蓋を取り囲んでネジで固定されています。

 原出願には内蓋と天蓋と固定連結されていることが開示されておらず、原出願において天蓋が内蓋の上に固定するのは底蓋との連結によって実現する必要があります。分割出願の請求項1には、底蓋の記載をしておらず、天蓋が支持蓋と固定的に連結されることを直接的に制限しており、実質的に原出願の技術方案を変更しています。


 請求項2~10の技術方案は、いずれも請求項1の上記変更の範囲を超える技術的特徴を含むため、専利法実施規則第49条第1項②の規定に適合しません。    

 請求項11も主に請求項1と同じ理由で、原出願の保護範囲を超える技術的特徴を含むと思われ、無効とされました。

「専利法実施細則」および「専利審査指南」の分割出願に関する規定によると、分割出願を行うきっかけについて、出願人は単一性を満たしていないという審査意見に基づいて分割出願を行うこともでき、出願人自らの意思に基づいて分割出願を行うこともできます。また、分割出願の期限について、特許査定の通知を受領した日から2ヶ月以内、拒絶査定通知を受領した日から3ヶ月以内、不服審判、不服審判の審決を受領した日から3カ月以内、及び審決取消訴訟の期間中に行うことができます。分割出願の内容について、分割出願の種類は原出願の種類と同一でなければならず、分割出願の内容は原出願に記載された範囲を超えるものであってはなりません。

 上記の規定によると、中国の専利制度は、分割出願及び期間制限の要件が比較的緩く、実際には分割出願を利用して同じような内容の専利出願を繰り返すことにより審査資源の浪費を招き、保護範囲を変更し、あるいは拡大することにより、公共の信頼を損なう出願人が存在します。そのため、分割出願が原出願で記載された技術範囲を超えているか否かを審査する際の審査官の判断基準は、比較的厳しくなっています。

 分割出願が原出願の技術範囲を超えていると判断する可能性を低くするため、出願人または代理人は、原出願の請求項に保護を求める可能がある全ての技術方案を記載することがよいと思われます。


  注:

② 専利法実施規則第49条第1項:本細則第四十八条の規定に基づいて提出される分割出願は、元の出願日を維持することができ、優先権を有するものについては、優先権日を維持することが出来るが、元の出願に記載された範囲を超えてはならない。