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日本 2024年 1月 1日に施行した知財一括法 概要

2024年 1月22日
弁理士法人 浅村特許事務所


日本 2024年 1月 1日に施行した知財一括法 概要


 

 

 不正競争防止法等の一部を改正する法律(知財一括法)において、2024年 1月 1日に施行されたものを纏めました。

 


  特許法等 パリ優先権証明書のオンライン提出のための規定整備          
  意匠法  新規性喪失の例外適用の要件緩和
  商標法  Madrid e-Filing による商標の国際登録出願の手数料納付の見直し

1.特許法等 パリ優先権証明書のオンライン提出のための規定整備 (特許法43条②、実用新案法10条⑧、意匠法10条の2③、商標法10条③等)

パリ条約による優先権を主張して出願する際には、出願人又はその代理人(以下「出願人等」という。)は、優先権主張の基礎となる出願をした知財庁(第一庁)で発行された優先権証明書について、

① 原則、書面により原本を特許庁に提出します (特許法第43条②)

② *世界知的所有権機関のデジタルアクセスサービス(DAS)等を利用した電子的交換を行えば、これにより優先権証明書を特許庁に提出したものとみなされます(特許法第43条⑤)。

*世界知的所有権機関のデジタルアクセスサービス(DAS): DAS参加庁間で優先権証明書の電子的交換を可能とし、証明書書面の提出を不要とするサービスのこと

(なお、第一庁がDASに不参加の場合や、DASの対象外である商標登録出願の場合などで電子的交換ができない場合は、原則に従い、優先権主張証明書は書面による原本の提出に限られます。)

しかし、2024年 1月 1日以前は、第一庁が書面で発行した証明書を出願人等側で電子化したもの(写し) 及び第一庁が電子で発行した証明書そのものの提出は、法令上認められていませんでした。

そのため、今後急速に発展するデジタル社会への対応、行政手続の更なる利便性向上を目的として、特許等に関する優先権主張手続書面の電子申請を可能とする改正がなされました。
この改正により、書面で発行された優先権証明書を複写したもの、及び、電子的に提供された優先権に係る証明書類を書面出力したものを提出(優先権証明書のオンライン提出)する方法も、許容されます。

また、第一国の官庁が電子的に提供した優先権に係る証明書類も、受け入れることができます。

特許法第43条

2 前項の規定による優先権の主張をした者は、最初に出願をし、若しくはパリ条約第四条C(4)の規定により最初の出願とみなされた出願をし、若しくは同条A(2)の規定により最初に出願をしたものと認められたパリ条約の同盟国の認証がある出願の年月日を記載した書面、その出願の際の書類で明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲及び図面に相当するものの謄本又はこれらと同様な内容を有する公報若しくは証明書であってその同盟国の政府が発行したもの(電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。第5項及び第44条第4項において同じ。))により提供されたものを含む。)又はこれらの写し(以下この条において「優先権証明書類等」という。)を次の各号に掲げる日のうち最先の日から1年4月以内に特許庁長官に提出しなければならない。
① ~ ③ (略)

3 ~4 (略)

5 優先権証明書類等に記載されている事項を電磁的方法によりパリ条約の同盟国の政府又は工業所有権に関する国際機関との間で交換することができる場合として経済産業省令で定める場合において、第一項の規定による優先権の主張をした者が、第二項に規定する期間内に、出願の番号その他の当該事を交換するために必要な事項として経済産業省令で定める事項を記載した書面を特許庁長官に提出したときは、前二項の規定の適用については、優先権証明書類等を提出したものとみなす。

 

2.意匠法 新規性喪失の例外適用の要件緩和 (意匠法第4条③ 但書)

意匠の新規性喪失の例外規定の適用を受ける際に、出願意匠に関係する全ての公開事実を管理し把握することが難しく、出願から30日以内に全ての公開意匠に関する新規性の喪失例外適用証明書の提出が、出願人の大きな負担となっていました。

また、新規性喪失の例外適用証明書に記載した公開意匠が不十分であるとして、新規性喪失の例外適用を受けることができず、新規性を有さないことを理由として拒絶査定となることもありました。

そのため、意匠登録を受ける権利を有する者(権利の承継人を含む)の行為に起因して公開された意匠について、「最先の公開の日のいずれかの公開行為」についての証明書のみを特許庁に提出して公開行為を証明することにより、その公開の日以後に公開した同一又は類似の意匠についても新規性喪失の例外規定の適用を受けることができるよう、新規性喪失の例外要件を緩和したものです。

出願意匠に関係する全ての公開事実を管理し把握する必要がなく、出願から30日以内に最先の公開日の公開意匠に関する新規性の喪失例外適用証明書を提出すれば良く、また、 「最先の公開の日のいずれかの公開行為」を要件としたため、同日に2以上の公開行為があった場合、同日のいずれか一つの行為(同日の行為であって後の時間の行為でも可)について証明書を提出すれば良くなりました。

例えば、全国で同日に一斉に公開行為があった場合、同日の最先の公開行為時間を意識する必要はありません。

かかる法改正に伴い、出願人の立証負担が大幅に軽減されました。

具体的には、以下の要件を満たす意匠について、新規性喪失の例外規定が適用されます。

① 意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して、公知となった意匠であること(第4条②)
なお、発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報掲載により公知となった意匠は、従来と同様、新規性喪失の例外規定の適用がありません。

② 意匠登録出願の日から30日以内に提出した証明書により、証明した意匠の公開日の同日及び公開日以後に公開された意匠であること

③ 意匠登録出願の日から30日以内に提出した証明書により、証明した意匠と同一又は類似する意匠であること
証明書記載の意匠と非類似の意匠については、出願意匠との関係において創作非容易性等の要件の拒絶理由の根拠となる場合があるため、その場合別個の証明が必要となります。 

 

(出典:  意匠の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続について(出願前にデザインを公開した場合の手続について)| 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)

 

運用

① 証明書記載の意匠が最先の公開意匠であることについて特段の証明・宣誓等は不要

② 複数の公開事実についても、証明書の提出は可能であり、重複があっても特段の不利益は生じない

③ 審査・審判の過程で公開者が不明な意匠として拒絶理由等の根拠とされた場合も、その公開意匠が意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して公開されたものである場合は、新規性喪失の例外規定の適用要件を満たしている旨の主張・立証を行い、反論することができる

④ 証明書記載の意匠公開日よりも前の日に公開された意匠には、提出した証明書に基づく例外規定の適用はされない

⑤ 同一又は類似の複数の意匠が公開された場合、そのうちの一つを証明書に記載すれば足りる

意匠法第4条第3項 但書

ただし、同一又は類似の意匠について第3条1、2に該当するに至る起因となった意匠登録を受ける権利を有する者の二以上の行為があつたときは、その証明書の提出は、当該二以上の行為のうち、最先の日に行われたものの一の行為についてすれば足りる。

 

【特許庁のYouTubeチャンネル】
意匠犬と学ぼう!第3弾!法改正編 出願前にデザインを公開した場合の手続(新規性喪失の例外)〔意匠〕でも動画解説がされています。

(Youtube動画へのリンク)

 

3.商標法 Madrid e-Filing による商標の国際登録出願の手数料納付の見直し (商標法第68条の2⑤) 

我が国の出願人が、商標登録を各国で受けようとする場合には、マドリッド協定議定書に基づく商標の国際登録出願制度(国際登録出願制度)を利用することができます。

しかし、国際出願制度を利用して世界知的所有権機関(WIPO)の国際事務局に商標の国際登録出願をする場合、日本の特許庁に本国官庁手数料*¹を日本円で納付する一方、WIPOには基本手数料*²、個別手数料*³等をスイスフランで納付しなければならず納付先が別々となり、その手続が煩雑となっていました。

そのため、本国官庁手数料について他の手数料と一括してスイスフランによるWIPOへの支払いを可能とするため、国際登録出願をMadrid e-Filing*⁴で行う場合に限り、本国官庁手数料をWIPO国際事務局に納付する改正が行われました(商標法68条の2⑤*、工業所有権特例法8条等)。

 

 *¹ 本国官庁手数料   :本国官庁が本国認証等を行うための手数料

 *² 基本手数料     : WIPOが方式審査・国際登録をするための手数料

 *³ 個別手数料     :日本国特許庁等、指定国における審査料+10年分の登録料 

 *⁴ Madrid e-Filing   : WIPOが提供する商標の国際登録ためのオンライン出願サービス

 * 商標法第68条の2第5項(新設)
国際登録出願を電磁的方法(政令で定めるものを除く。)によりしようとする者は、実費を勘案して政令で定める額に相当する額を議定書第2条(1)に規定する国際事務局に納付しなければならない。

 

2024年 1月 1日以降の商標の国際登録出願は、本国官庁手数料9,000円に相当する額を、スイスフランで国際登録出願に係る他の手数料と共にWIPO国際事務局に納付します。

 

納付すべき手数料

Madrid e-Filing上で手数料が計算され、その確認をすることができます。

具体的な操作等は、Madrid e-Filingユーザーガイド(madrid_efiling_user_guide_jpo_2024.pdf)の「4.14 手数料計算」(P69)及び「4.17 手数料の支払」(P73)をご確認ください。

 

注意すべき点

■Madrid e-Filingによりなされた商標の国際登録出願については、本国官庁手数料を特許庁に納めることはできません。
電子現金納付した納付番号を記載した書面をMadrid e-Filingの「Attachments」画面から提出する方法も、利用することができません。

■ WIPOへの手数料、及び、本国官庁手数料9,000円の両方の納付が完了するまで、本国官庁は提出された国際登録出願の本国認証を行いません。

■ WIPOへの手数料の納付が完了しない場合、本国官庁はWIPOに出願を送付しません。

■ Madrid e-Filingサービスを提供するWIPO側又は利用する出願人等側における何らかの事情により同サービスが利用できなくなる事態に備えて優先権主張を伴う出願や欠陥通報に対する応答を行う場合などは、時間に余裕をもって行う必要があります。
同サービスの不具合が解消しない場合には、出願はMM2書面による提出に切り替えて手続を行う必要があります。
なおこの場合、本国官庁が出願を受理した日が、原則、国際登録日となります。

■Madrid e-Filingによる出願については、商標法第68条の3第3項に基づく国際事務局に送付した国際登録出願の願書の写しの送付はありません。
従って、Madrid e-Filing上で確認し、必要に応じてサマリーをダウンロードする必要があります。