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中国 専利法実施細則改正 2024年 1月20日 施行

2024年 1月17日
 弁理士法人 浅村特許事務所


中国 専利法実施細則改正 2024年 1月20日 施行


 



中国の国家知識産権局は、中華人民共和国専利法実施細則の第4回改正版を公表しました。
この改正は2024年1月20日に施行されます。

今回の改正は以下を目的としています。

 1. 専利取得を容易とすべく、専利出願制度の改善を図る

 2. 電子形式を書面とみなす。これに伴う電子形式による各種書類の提出及び送達に関する関連規定の整備

 3. 一定期間内の優先権回復請求、優先権主張の追加・改正、先願の出願書類の援用による専利請求の範囲、明細書又はその一部内容につき追加提出を行う際の条件及び手続きの明確化

 4. 部分意匠の出願書類における要件の明確化

 5. 新規性喪失の例外に該当する要件の緩和

 

改正概要

手続的要件

1.電子出願の扱いの変更(実施細則第2条)

 電子形式で発行された庁発行の各種書類の送達日における15日の郵送期間加算(郵送猶予期間)規定が廃止され、電子形式の各種書類が電子システムに記録された日が送達日となります(実施細則第4条)。そのため、電子形式書類の場合、手続きの迅速化が求められます。
 郵送書類の場合は、15日間の郵送期間加算がされます。

 なお、2024年 1月20日以降は、電子出願については電子形式の各種書類が電子システムに記録された日が送達日とみなされます。

 

2.専利代理機構に専利出願等を委託する場合の手続緩和措置(実施細則第18条)(専利法第18条)

 外国企業等(在外者)が専利出願をする場合には、原則、専利代理機構に代行を委託する必要がありますが、以下の手続は、専利代理機構に代行を委託することなく、出願人又は専利権者が自ら手続きを行うことができるようになりました。

   ① 優先権主張を申請する場合であって、優先権主張の基礎となる先の専利出願の書類副本を提出する手続

   ② 手数料の納付手続

   ③ 国務院専利行政部門が規定するその他の業務

経過措置

 2024年 1月20日以降、出願人等が在外者であっても、直接上記について手続きを行うことができます。

 

3.専利請求の範囲、明細書の記載ミス等に関する救済措置(実施細則第45条)

 提出ミスや記載漏れのあった専利請求の範囲や明細書(明細書に添付の図面を含む)の救済措置として、優先権主張し援用の形で対処できるようにするものです。

 発明又は実用新案専利出願において、専利請求の範囲や明細書又は専利請求の範囲や明細書の一部の内容が欠けたり誤ったりしている場合、出願人が専利出願の際に優先権の主張をすることにより、その出願日から2月以内に又は国務院専利行政部門から指定された期限内であれば、先の出願書面の援用という形で専利請求の範囲や明細書を追加提出することができます。
 該追加提出の書面が関連規定を満たす場合、先に提出された出願書面の提出日を出願日となります。

 なお、以下に該当する場合には、本実施細則は適用されません。

  ・分割出願
  ・本実施細則第6条第2項(不可抗力事由以外の場合の権利回復)における期限遅延の救済措置
  ・本実施細則第36条(優先権の回復)及び第37条(優先権の追加、訂正)の規定に該当する場合


4.優先権

(1)優先権主張期間徒過の救済(優先権の回復) (実施細則第36条)

出願人が国務院専利行政部門に対し、優先期間満了(基礎出願が日本の場合12月)までに外国出願を基礎として、中国において優先権主張を伴う発明又は実用新専利出願をすることができなかった場合であっても、正当な理由があれば、出願人は優先権主張期間の満了日から2月以内に優先権の回復を請求することができます。優先権期間徒過の場合の救済規定です。

なお、この規定は発明専利出願及び実用新案専利出願に限り適用され、意匠専利出願には適用されません。

経過措置

2024年 1月20日以降は、優先権期限の満了日から2月以内であれば優先権の回復を行うことができます。  
また、既に優先権の主張を行っている場合であって、優先日から16月又は出願日から4月以内であれば願書について優先権を追加または補正することができます。
ただし、PCT国内移行の出願にかかる優先権の回復は、国内移行日から2月経過する日が2024年1月20日以降である必要があります。

(2)優先権の追加又は訂正 (実施細則第37条)

発明又は実用新案専利出願の出願人が優先権を主張した場合、最先の優先日から16月以内又は出願日から4月以内に、願書において優先権主張の追加又は訂正を請求することができます。

専利出願時の優先権主張手続きにミスがあった場合の救済規定です。但し、優先権主張の追加又は訂正請求は、専利出願時に少なくとも一つの優先権主張がされていることが前提となります。
従って、優先権主張がなされなかった場合には、優先権の追加又は訂正をすることはできません。

なお、この優先権の追加又は訂正の救済措置は、発明専利出願及び実用新案専利出願に限られ、意匠専利出願には適用されません。

(3) PCT出願における優先権回復機会の付与(実施細則第128条)

PCT出願は優先期間満了日から2月以内に優先権の回復請求した場合には、実施細則第36条による回復請求がされたものとみなされます。

国際段階において出願人が優先権回復請求を提出しなかったか、又は、提出はしたが受理官庁が承認しなかった場合は、正当な理由があれば、出願人が国内段階移行日から2月以内に優先権回復請求を国務院専利行政部門に提出することができます。

特許協力条約(PCT)規則26の2.3(留保規定)の適用を解除したものです。

5.遅延審査対象の拡大 (実施細則第56条)

 出願人は実用新案専利出願についても遅延審査請求を提出することができる旨が規定されました。

 施行前は、発明、意匠に限られていた遅延審査の対象が、実用新案にも拡張されました。

 また、遅延審査請求の取下げ規定が削除されたため、施行前には認められなかった遅延審査請求の取下げが、発明、実用新案、意匠の各専利出願で可能となりました。

 

6.要約書(実施細則第26条、第121条)

(1)特許又は実用新案専利出願は、願書において明細書の図面を要約図面として指定することが明確になりました。
したがって、要約書図面を別途提出することはできません(実施細則第26条)。

(2)要約書図面における様式要件が細則から削除され、かつ従来300字を超えてはならないとしていた文字数制限もなくなりました(実施細則第26条)。

(3)PCT出願において中国に国内移行する際に、要約書図面を指定することになりました。要約書図面の提出は不要です。また、中国語でされた国際出願の場合に要求されていた、要約書と要約書図面の副本の提出も不要となりました(実施細則第121条)。

7.国外に専利出願できる制限の強化 (秘密保持審査)(実施細則第9条)

 国務院専利行政部門は、本実施細則第8条の規定に基づいて提出された秘密保持審査の請求に、国家安全と重大利益に関わる可能性があり秘密保持をする必要があると認めた場合は、秘密保持審査の請求日から2月以内に、出願人に秘密保持審査通知を発行しなければなりません(複雑な場合はさらに2月延長が可能)。
 秘密保持審査通知の発行期限が明確になりました。

 また、出願人が期限内に秘密保持審査通知書又は審査決定を受け取っていない場合、国外に専利出願できる、とする規定が削除されました。

 さらに、国務院専利行政部門は秘密保持審査を行う場合、秘密保持の必要性があるか否かにつき、請求提出日から4月以内(複雑な場合はさらに2月延長が可能)に決定を下したうえ、出願人に通知しなければならないこととされ、秘密保持すべきか否かの判断が必ずされることになりました。

8.期限徒過の救済(権利の回復請求)(実施細則第6条)

 専利法に規定した期限、指定した期限を徒過し権利を喪失した場合であっても、期間徒過の通知を受領した日から2月以内(復審請求期間)に、国務院専利行政部門に権利の回復を請求することができました。

 さらに、この復審請求期間内に権利の回復請求ができなかった場合であっても、復審請求期間満了日から2月以内に国務院専利行政部門に権利の回復を請求することができるようになりました。       

 従来から上記運用がされていましたが、本実施細則で明確にされました。

9.復審手続における前置審査制度(旧実施細則第62条 削除)

 国務院専利行政部門の元審査部門における審査官が、復審手続において前置審査を行わなければならないとする要件が削除されました。そのため、元の審査官とは別の審査官が前置審査を行うことができます。

 なお現在、元審査部門ではなく、専門部門又は選任人員により前置審査を行う検討が進められています。

10.復審手続の審査  (実施細則第67条)

 審査において、国務院専利行政部門が「専利出願に、明らかに専利法及び本細則の関連規定に違反するその他のことが存在する」かにつき、審査することが追記されました。
 国務院専利行政部門に、職権審査の権限を付与したものです。    

経過措置
 2024年 1月20日以降は、出願日にかかわらず、復審において拒絶査定に示されていない他の拒絶理由、無効理由について審査することができます。

11.専利期限補償制度(専利法第42条)

(1)発明専利権存続期限の補償 (PTA)

発明専利出願日から4年が経過し、かつ、実体審査請求日から3年が経過した後に発明専利権が付与された場合、国務院専利行政部門は、発明専利権者の請求により発明専利付与過程における不合理的な遅延について、発明専利権存続期限の補償(PTA)を与えます。

専利権者は、国務院専利行政部門に対して専利権利付与公告日から3月以内に専利権期限補償の請求を提出しなければなりません(専利法第42条第2項)。
 

  ① 専利権存続期間の補償期間の計算(実施細則第78条)
計算方法が実施細則第78条に詳細に規定されました。また、発明内容が同じ実用新案と発明専利出願が同日になされた場合、実施細則第42条の適用が無いことが明確になりました。

  ② 出願人による不合理的遅延理由の明確化(実施細則第79条)
 1)所定期限内に国務院専利行政部門から発行される通知に応答しなかった
 2)遅延審査を請求する
 3)本実施細則第45条に規定する事由による遅延
 4)その他の出願人による不合理的な遅延

(2)専利期限補償制度(PTE) 新薬に係る規定 (実施細則第80条~実施細則第84条)

新薬の販売承認審査時間の補償のため、中国で販売承認が得られた新薬関連特許について、国務院特許行政部門は特許権者の請求に応じて特許権の存続期間の補償を与えます。

補償期間は5年を超えず、新薬販売承認後の特許権の合計存続期間は14年を超えないもの、とされています(専利法第42条第3項)。

実施細則により、専利期限補償制度(PTE)は、新薬においても適用されることが明確になりました。
 

  ① 新薬専利における薬品の種類及び専利タイプ (実施細則第80条)
新薬専利における存続期間補償を適用する薬品の種類(医薬品有効成分(API))及び専利タイプ(新薬製品専利、製造方法専利、医薬用途専利)が明確になりました。

  ② 時期的、手続的要件 (実施細則第81条)
新薬に係る発明専利権において期限補償を与えることを請求する場合の時期的、手続き的要件が明確化されました。 時期的要件としては以下の3要件を満たしたうえで、当該新薬の中国における販売許可がされた日から3月以内に国務院専利行政部門に提出しなければなりません。

 1)当該新薬において複数の専利が同時に存在する場合、専利権者はそのうちの一つの専利しか専利期限補償を請求することができない。

 2)一つの専利が同時に複数の新薬に係る場合、当該専利について専利権期限補償請求を一つの新薬にしか提出することができない。

 3)当該専利が有効期限内にあり、かつ、新薬に係る発明専利期限補償を受けていない。

  ③ 薬品専利専用権の補償期限(実施細則第82条)
補償期限は、当該専利出願日から当該新薬の中国における販売許可がされた日までの間の日数から5年を引いた日数となります。

  ④ 専利権期限の補償期間の専利保護範囲等(実施細則第83条)
新薬に係る発明専利における専利権期限の補償期間の専利保護範囲は、当該新薬及びその許可された適応症に関わる技術案に限るものとし、保護範囲内において専利権者が享有する権利、及び、負う義務は、専利権期限補償前と同様となります。

  ⑤ 補償付与の決定等 (実施細則第84条)
国務院専利行政部門は、補償条件を満たすと判断した場合は、期限補償を与える旨の決定をし、登記及び公告を行います。
一方、補償条件が満たされていないと判断した場合は、期限補償を与えない旨の決定を下し、請求を提出した専利権者にその旨を通知します。

12.分割出願の手続要件の緩和(実施細則第49条)

 分割出願の願書には、分割前の元の出願書面の出願番号及び出願日を記載することとなり、その結果、副本の提出は不要となりました。

 また、元の出願が優先権主張を伴う場合、分割出願では元出願の優先権書類の副本の提出も不要となりました。

経過措置
 分割出願の出願日が2024年 1月20日以降の場合、元出願の副本及び元出願の優先権証明書の副本の提出が不要となります。

13.無効宣告後、維持される専利請求の範囲の公告(実施細則第73条)

 無効宣告請求の審査において、発明又は実用新案専利の専利権者はその専利請求の範囲を補正することができますが、元の専利の保護範囲を拡大する補正をすることはできません。

 国務院専利行政部門が補正後の請求の範囲に基づいて専利権の有効性を維持するか、または専利権の一部の無効を宣告する決定を下した場合、補正後の請求の範囲を公告しなければならない旨が追加されました。


14.開放許諾制度(オープンライセンス制度)(新設)(新専利法第50条、第51条)(実施細則第85条~第88条、第100条)

 専利権者が第三者に専用権を開放する旨の声明を行い、希望する第三者にライセンス交渉を行うことができるとする制度であり、専利権の取引と有効活用を促進することを目的として新設されました。

 実施細則第85条~第88条に手続きが、また、違反した場合の罰則規定が実施細則第100条に規定されています。

(1)開放許諾実施の声明時期 (実施細則第85条)

専利権者が自主的にその専利においてする開放許諾の実施を行う旨の声明は、専利権付与公告後に行わなければなりません。

(2)開放許諾声明の記載事項 (実施細則第85条)

  ① 専利番号

  ② 専利権者の氏名又は名称

  ③ 専利許諾使用料の支払方式、基準

  ④ 専利許諾の期限

  ⑤ その他の明確にすべき事項

開放許諾声明の内容は正確、明確なものでなければならず、明らかな商業的宣伝用語を用いることはできません。

(3)開放許諾できない場合 (実施細則第86条)

下記のいずれかに該当する場合、専利権者は開放許諾をすることができません。

  ① 独占又は排他的許諾が、設定されている有効期間内の場合

  ② 本実施細則第103条、第104条に規定する権利に関する手続きが中止になった場合

  ③ 年金納付が遅滞している場合

  ④ 専利権に質権が設定されている場合において、質権者の許諾を得ていない場合

  ⑤ その他、専利権の有効な実施を妨げる場合

(4)ライセンス締結の届出 (実施細則第87条)

開放許諾によって専利実施ライセンスを締結した場合、専利権者又はライセンシーのいずれかが、ライセンス締結を証明することができる書面を国務院専利行政部門に届出なければなりません。

(5)不誠実な行為の禁止等 (実施細則第88条)

専利権者は、虚偽の資料を提供したり、事実を隠蔽するなどの手段により、開放許諾声明を行ってはならず、開放許諾実施期間内に年金の減免を受けてはなりません。

(6)不誠実な行為に対する警告・罰金 (実施細則第100条)

出願人又は専利権者が本実施細則第88条の規定に違反した場合は、県レベル以上の専利執法責任部門が警告を発し、10万元以下の罰金を科すことができます。

 

15.権利侵害に対する行政機関の取締権限の拡大(新専利法70条)

(1)地級市(地方行政単位)、自治州、盟、地区及び直轄市の区人民政府の専利事務部門が専利紛争を処理し、調停することができる(実施細則第95条)。
区の専利事務部門が処理できることとなり、取締りの権限範囲が拡大されました。

(2)同一の専利権の侵害事件は、併合して処理することができる。

(3)同一の専利権の侵害事件が地域を超えて発生した場合、上位行政機関により一括して処理をするよう要請することができる。

(4)専利法第70条にいう「中国全国に重大な影響を及ぼす」専利権の侵害案件は、国家知識財産権局が取り扱うことができる。

「中国全国に重大な影響を及ぼす」とは、具体的には以下の場合をいう(実施細則第96条)。

   ① 重大な公共利益に係る場合

   ② 業界の発展に重大な影響を及ぼす場合

   ③ 省、自治区、直轄市を超え、地域横断的な重大な事件である場合

   ④ その他、重大な影響を及ぼす可能性があると国務院専利行政部門が認定した場合

 

16.訴訟中止(実施細則第103条)

 国務院専利行政部門は、当事者が提出した中止請求の理由が明らかに成り立たないと判断した場合、該当する手続きを中止しなくてもよいとする細則が、追加されました。

 悪質な中止請求を防止するためです。

 

実体的要件

 1.信義誠実原則の規定を追加(実施細則第11条 新規追加)(新専利法第20条)

 新たに、信義誠実の原則規定が導入されました。不正な出願の削減、専利の質向上を目的としたものです。

(1)専利出願する者は、信義誠実原則を順守しなければならない。各種の専利出願を提出する際に、真実の発明創造の活動に基づくようにしなければならず、虚偽の行為をしてはならない(実施細則第11条)。

(2)予備審査において、発明専利出願、実用新案専利出願及び意匠専利出願のいずれの場合も、信義誠実の原則を具備しているかの要件を審査し、これに違反した場合、拒絶査定となる(実施細則第50条)。

(3)発明専利出願の実体審査(専利法第38条)においても信義誠実の原則の要件が加えられました(実施細則第59条)

(4)信義誠実の原則に違反した場合、専利無効理由となる(実施細則第69条)。

(5)出願人又は専利権者が本実施細則の規定に違反した場合、県レベル以上の専利執法責任部門が警告を発し、10 万元以下の罰金を科すことができる(実施細則第100条)。

 経過措置
2024年 1月20日以降、信義則違反は、拒絶理由、無効理由として審査されます。

 2.新規性喪失の例外規定(実施細則第33条)

(1)新規性喪失の例外が適用される国際博覧会の認定対象の拡大

「国務院の関連主管部門が承認した国際組織が開催する学術会議又は技術会議」が、新規性喪失の例外適用がされる国際博覧会として認められます。  

そのため、欧州電気通信標準化機構(ETSI)や国際電気通信連合(ITU)等の標準化団体の主催する会議が、新規性喪失例外規定の適用範囲に含まれる可能性があります。

(2)新規性喪失証明書面の要件緩和

新規性を喪失したことを証明する書面は、国際博覧会又は学術会議、技術会議の主催者が発行したものでなければならない、とする規定が削除されました。

新規性を喪失した旨の証明書類を提出する際の出願人の負担が、大幅に緩和されました。

 3.PCT国際出願(実施細則第132条)

 専利法第13条にいう「公布日」は、PCT国際出願においては、国際公布日の他、国務院専利行政部門による公布日(国家公布日)も追加されました。 
 したがって、国際公布日より国家公布日が先の場合、国家公布日が適用されます。

 4.「遺伝資源」の定義拡大(実施細則第29条)

 専利法第5条にいう遺伝資源とは、「人体、動物、植物又は微生物等に由来し、遺伝機能単位を有し、かつ現実又は潜在的な価値を備える素材及びこのような素材を利用して生成した遺伝情報を指す」と規定されました。

 「このような素材を利用して生成した遺伝情報を指す」の箇所が追加されたことにより、遺伝物質から生成した物質であっても、遺伝資源と同様の扱いとなります。

 5.職務発明(専利法第15条)

(1)財産的インセンティブを与える手段の提供(実施細則第92条)

職務発明をした専利権者に対し、財産的に発明のインセンティブを与える手段(会社の株式(エクイティ)、ストックオプション、配当等)を提供できるようになりました。

(2)職務発明の奨励金の引上げ(実施細則第93条)  

奨励および報酬の方式および金額について、発明者又は設計者と確約しておらず、かつ、法律に基づいて制定されたその内規に規定を設けていない場合、発明者又は設計者に支給しなければならない報奨金額が引き上げられました。

  ① 発明専利の最低報奨金額
  3,000 元から 4,000 元に引上げられました。

  ② 実用新案又は意匠専利の最低報奨金額
  1,000 元から 1,500 元に引上げられました。

(3)合理的な報酬支給義務 (実施細則第94条)

専利権者が報酬方式、金額を確約していない場合であって、かつ、法律に基づいて制定されたその内規に規定が設けられていない場合は、*「中華人民共和国科学技術成果の実用化促進に関する法律」の規定に従い、発明者又は設計者に合理的な報酬を支給しなければならないことになりました。

  *中華人民共和国科学技術成果の実用化促進に関する法律

  第44条

科学技術成果の実用化後、科学技術成果の完成単位は、科学技術成果の完成、実用化に重要な貢献をした人員に奨励と報酬を支給しなければならない。

科学技術成果の完成単位は、奨励及び報酬の方式、金額及び期限について、規定を設けるか又は科学技術人員と確約することができる。

単位は、関連規定を制定する場合、該単位の科学 技術人員の意見を十分に聴取し、該単位にて関連規定を開示しなければならない。

  第45条

科学技術成果の完成単位は、奨励及び報酬の方式、金額及び期限について、規定を設けていないか、又は科学技術人員と確約していない場合、科学技術成果の完成、実用化に重要な貢献をした科学技術人員に、下記の基準に従って奨励と報酬を支給しなければならない。

 

(1)該職務科学技術成果を他人に譲渡または実施許諾した場合、該科学技術成果の譲渡による純収入または実施許諾による純収入から50%以上の割合分を拠出する。

(2)投資として該職務科学技術成果を利用した場合、該科学技術成果が形成した株又は出資比率から50%以上の割合分を拠出する。

(3)該職務科学技術成果を独自で実施し又は他人と協力して実施した場合、実用化を実施して生産成功した後の連続して3〜5年において、毎年、該科学技術成果の実施による営業利益から5%以上の割合分を拠出しなければならない。

国により設立される研究開発機関、高等教育機関が規定する又は科学技術人員と確約する奨励と報酬の方式及び金額は、前項第1号~第3号に規定された基準に合致しなければならない。  

国有企業および事業単位が科学技術成果の完成、実用化に重要な貢献をした人員に本法の規定に従って支給する奨励および報酬の支出は、当該年度の当該単位の賃金総額に算入される。

但し、それは、当該年度の当該単位の賃金総額の制限を受けず、当該単位の賃金総額の基礎額 に算入されない。

 6.コンピュータ関連発明

 コンピュータプログラム自体に発明の適格性が認められます。したがって、コンピュータプログラムを媒体に組み込む必要がなくなり、例えばオンラインのソフトウェアも保護対象となります。


実用新案制度・意匠制度

 1.実用新案専利出願、意匠専利出願の予備審査の対象に進歩性(創造性)を追加(実施細則第50条)

 実用新案および意匠の専利出願に対して予備審査が行われますが、予備審査の対象に新たに進歩性(創作性)の要件が加えることが明確になりました。

(1)実用新案の予備審査の審査範囲は専利法第22条全体に及ぶ、と改定されました。従って、第22条新規性(第2項)、創造性(第3項)、実用性(第4項)まで審査対象が及びます。

(2)意匠の予備審査の審査範囲は、専利法第23条第1項に加え、第23条第2項「従来の設計又は従来の設計特徴の組み合わせと比べて、明らかな相違点があるべきである」(進歩性に相当)にも及びます。

 2.専利権評価報告書

 実用新案専利又は意匠専利における専利権利侵害紛争の場合、人民法院又は専利業務管理部門は、専利権者、利害関係者又は被疑侵害者に対して専利権侵害紛争を審理し、処理するための証拠として、国務院専利行政部門が関連の実用新案又は意匠について検索、分析、評価を行ったうえで作成した専利権評価報告書を提出するよう要求することができます(専利法第66条第2項)。

(1)専利権評価報告書の作成を依頼できる者(実施細則第62条)

 専利権者、利害関係人の他、さらに被疑侵害者も専利権評価報告書の作成を依頼できるようになりました。
 改定草案においては、作成依頼者の限定はされていませんでしたが、上記の三者に限定されました。
 

 

(2)作成請求時期の追加

 ① 専利権登記手続きを行う際にも請求ができるようになりました(実施細則第62条)。

 ② 出願人が専利権登記手続きを行う際に専利権評価報告書の作成を請求した場合、国務院専利行政部門は、権利付与公告日から2月以内に専利権評価報告書を作成しなければならないことが規定されました(実施細則第63条)。

 

意匠制度

 1.部分意匠制度(新規追加)

 部分意匠制度が正式に導入されました。そのため、実施細則で部分意匠の専利出願要件が明確にされています。

(1)部分意匠専利を出願する場合、製品全体の図面を提出したうえ、破線と実線の組み合わせ又はその他の方法で保護を求める内容をはっきりと表さなければならない(実施細則第30条)。

(2)部分意匠専利出願をする場合、既に製品全体の図面の中で破線と実線の組み合わせの方法で表示されている場合を除き、「簡単な説明」において保護を求める部分を明記しなければならない (実施細則第31条) 。

(3)製品の表面上の模様、又は模様と色の組合せのみで構成される意匠は、部分意匠と認めない。

(4)製品において独立した領域を形成していない場合や相対的な単位を構成していない場合は、部分意匠と認めない。

(5)同一の製品において互いに関連のない2以上の部分意匠であって、機能又は設計において関連し、かつ、特定の視覚効果がある場合、一意匠として出願することができる。

(6)セット製品には、部分意匠が含まれてはならない。

(7)元の出願が部分意匠の場合、製品の全体又は他の部分について分割出願をすることはできない。

 

 2.グラフィカル・ユーザ・インターフェース(GUI:Graphical User Interface)意匠出願

(1)全体意匠専利出願及び部分意匠専利出願をすることができる。

(2)GUI出願を全体意匠として出願する場合、図面に少なくともGUIを有している面のハードウェア製品を表示する必要はない。
ハードウェア製品を表示しない場合、主題に「電子機器」等のキーワードを含めなければならない。

(3)GUI製品を部分意匠として出願する場合、GUI意匠の正面図を提出しなければならないが、ハードウェア製品を表示する必要はない。ハードウェア製品を表示しない場合、主題に「電子機器」等のキーワードを含めなければならない。

(4)GUIの一部を部分意匠として出願する場合、意匠の主題に保護される部分を記載しなければならない。

(5)動画のGUI出願の場合、必要に応じて国際知識財産局(CNIPA)は、出願人にGUIの動画ファイルの提出を求めることができる。

3.意匠の国内優先権における基礎出願範囲拡大(実施細則第35条)

 意匠専利出願の優先権の基礎となる出願は、意匠専利出願だけでなく、図面に記載されたデザインが同一の場合は、発明又は実用新案を基礎出願として意匠専利出願をすることができます。

 なお、意匠専利出願の出願人が国内優先権を主張する場合であって、発明又は実用新案専利出願を国内優先権の基礎とすることを主張した場合、その先願は取下げ擬制とはなりません。

 4.意匠の国際出願制度であるハーグ協定の適用の明確化(実施細則第136条)

(1)ハーグ協定に基づいて国際登録日が決定され、中国が指定された意匠国際出願は、国務院専利行政部門に提出された意匠専利出願とみなされ、当該国際登録日は専利法第28条にいう出願日とみなされます(実施細則第137条)。

(2)国務院専利行政部門は、出願が国際事務局により公布された後に意匠国際出願に対する審査を行い、その審査の結果を国際事務局に通知します (実施細則第138条) 。

(3)優先権主張 (実施細則第139条)
国際事務局が公布した意匠国際出願に1つ又は複数の優先権が含まれている場合、専利法第30条に規定する書面による声明(意匠につき専利優先権を主張する声明)を提出したものとみなされます。
意匠国際出願の出願人が優先権を主張する場合は、意匠国際出願が公布された日から3月以内に先の出願書類の副本を提出しなければなりません。

(4)新規性喪失の例外における関連証明書類の提出義務(実施細則第140条)
意匠国際出願に係る意匠は、専利法第24 条第(二)号又は第(三)号*に掲げる事情に該当する場合、意匠国際出願を提出する際に声明し、意匠国際出願が公布された日から2月以内に 本実施細則第33条第3項に規定する関連証明書類を提出しなければなりません。

 *専利法第24条 
 (二)中国政府が主催する又は認める国際展示会で初めて展示された場合                 
 (三)規定の学術会議、又は技術会議上で初めて発表された場合

(5)分割出願
 意匠国際出願に2以上の意匠が含まれる場合、出願人は意匠国際出願が公布された日から2月以内に国務院専利行政部門に分割出願し、手数料を納付することができます (実施細則第141条) 。

(6)国際事務局が公布した意匠国際出願に設計要点説明書が含まれている場合、本実施細則第31条に基づいて簡単な説明を提出したものとみなされます (実施細則第142条)。

(7)国際意匠出願における意匠専利権 (実施細則第143条)       
意匠国際出願に拒絶理由が発見されなかった場合、国務院専利行政部門が保護を与える決定をし、国際事務局に通知します。
国務院専利行政部門は保護を与える決定を下した後に公告を行い、意匠専利権は公告の日から発効します。

(8)国際事務局で権利変更手続きを行った場合の対応 (実施細則第144条)       
国際事務局で権利変更手続きを行った場合、出願人は国務院専利行政部門に関連証明資料を提供しなければなりません。

経過措置

 遡及しないことが原則で、遡及する場合が例外となります。

改正後の専利法が適用
2024年 1月20日以降(当日を含む。以下同じ。)に出願した専利出願及びそれに基づく専利権

改正前の専利法が適用
2024年 1月20日前(当日を含まない)に出願日した専利出願及びそれに基づく専利権