2023年 6月29日
浅村特許事務所 知財情報
日本 期間徒過の回復要件が緩和
2023年 4月 1日に施行された、期間徒過の回復要件の緩和について纏めました。
1.概要
期間徒過後の救済規定に係る回復要件が、「正当な理由があること」を求める法制から「故意によるものではないこと」に緩和されました。
なお、この場合、回復手数料(5.参照)の納付が必要となることに、ご留意ください。
【 経過措置 】
この度の回復要件の緩和は、2023年 4月 1日以降に手続期間を徒過した手続(手続の期間満了日の翌日が2023年 4月 1日以降の場合の手続)が対象となります。2023年 3月31日以前に手続期間を徒過した手続の回復は、今回の緩和措置前の「正当な理由があること」が要件となります。
したがって、期間末日が2023年 3月31日の場合であって期間徒過日が2023年 4月 1日の場合の回復要件は、今回緩和された「故意によるものではないこと」の基準が適用になります。
2.期間徒過の回復要件を緩和した理由
① 諸外国における権利の回復申請に対する許容率は90%以上となっているが、日本の許容率は10~20%程度と突出して低かったため、各国で権利化を図る場合には、日本のみ十分な救済が得られない事態が想定されること。
② 手続き面でも証拠書類の提出を必須としている点で、諸外国と比べ日本は厳しい運用であったこと。
そのため、期間徒過の回復要件認容率の向上、申請者の負担軽減、及び回復申請の予見性向上のため、期間徒過の回復要件を緩和しました。
3.緩和対象となる手続き
(1)外国語書面出願の翻訳文(特許法)
外国語書面出願において、外国語書面、外国語要約書面の翻訳文を所定の期間内に提出することができなかったことについて、故意でないと認められる場合には、一定の期間*内に限り翻訳文を提出できる(特36条の2⑥)。
*一定の期間:特36条の2⑤に規定による翻訳文を提出することができるようになった日から2月。
ただし、この期間の末日が特36条の2④に規定する期間の経過後1年を超えるときは、特36条の2④に規定する期間の経過後1年まで。
(2)外国語でされた国際特許出願の翻訳文(特許法、実用新案法)
外国語でされた国際特許出願において、明細書等の翻訳文、図面及び要約の翻訳文を所定の期間内に提出することができなかったことについて、故意でないと認められる場合には、一定の期間*内に限り翻訳文を提出できる(特184条の4④、実48条の4④)。
*一定の期間:特184条の4③(実48条の4④)に規定による明細書等翻訳文を提出することができるようになった日から2月。
ただし、この期間の末日が国内書面提出期間(or翻訳文提出特例期間)の経過後1年を超えるときは、国内書面提出期間(or翻訳文提出特例期間)の経過後1年まで。
(3)特許出願等に基づく優先権主張、パリ条約の例による優先権主張(特許法、実用新案法、意匠法)
優先権主張を伴う特許出願において、優先期間内に特許出願をすることができなかったことについて、故意でないと認められる場合には、一定の期間(2ヵ月)内に限り特許出願等に基づく優先権主張、パリ条約の例による優先権主張することができる(特41条①1,特43条の2①、特43条の3③、実8条①1、実11条①で準用する特43条の2①、特43条の3③、意15条①で準用する特43条の2①、特43条の3③)。
(4)特許出願審査の請求(特許法)
特許出願審査請求において、その請求期間内に請求をすることができなかったことについて、故意でないと認められる場合には、一定の期間*内に限り当該請求をすることができる(特48条の3⑤)。
*一定の期間:特48条の3①に規定による出願審査請求をすることができるようになった日から2月。
ただし、この期間の末日が特48条の3①に規定する期間の経過後1年を超えるときは、特48条の3①に規定する期間の経過後1年まで。
(5)特許料等の追納による特許権の回復(特許法、実用新案法、意匠法)
特許料等の追納において、所定期間内に当該追納をすることができなかったことについて、故意でないと認められる場合には、一定の期間*内に限り当該追納をすることができる(特112条の2①、実33条の2①、意44条の2①)。
*一定の期間:特112条④~⑥に規定する特許料及び割増特許料を納付(追納)することができるようになった日から2月。
ただし、この期間の末日が特112条①に規定する特許料を追納することができる期間の経過後1年を超えるときは、その期間の経過後1年。
(6)商標権等の回復要件の緩和(商標法)
① 商標権の回復
商標権の存続期間の満了前6月から満了の日までの期間内に商標権の存続期間の更新ができなかったことについて、故意でないと認められる場合には、一定期間*内に限りその申請をすることができる(商21条①)。
*一定の期間:商標権の存続期間の更新登録の申請をすることができるようになった日(商21条①)から2月。
ただし、この一定の期間の末日が商21条③の規定により更新登録の申請をすることができる期間の経過後6月を超えるときは、その期間の経過後6月。
② 後期分割登録料等の追納による商標権の回復
商標権の満了前5年を経過後6か月以内に後期分割登録料及び割増登録料を追納することができなかったことについて、故意でないと認められる場合には、一定の期間*内に限り後期分割登録料及び割増登録料を追納することができる(商41条の3①)。
*一定の期間:後期分割登録料(商41条の2⑤)及び割増登録料(商43条③)を納付することができるようになった日から2月。
ただし、この一定の期間の末日が、商41条の2⑤の規定により後期分割登録料を追納することができる期間の経過後6月を超えるときは、その期間の経過後6月。
③ 防護標章登録に基づく権利の存続期間の更新登録出願
防護標章登録に基づく権利の存続期間の満了前6月から満了日までの間に更新登録の出願をできなかったことについて、故意でないと認められる場合には、一定の期間*内に限り更新登録の出願をすることができる(商65条の3③)。
*一定の期間:防護標章登録に基づく権利の存続期間の更新登録の出願をすることができるようになった日(商65条の3①)から2月。
ただし、この一定の期間の末日が、商65条の3②に規定により更新登録の出願をすることができる期間の経過後6月を超えるときは、その期間の経過後6月。
④ 書換登録の申請
書換登録の申請期間内にその申請ができなかったことについて、故意でないと認められる場合には、一定の期間*内に限り書換登録の申請をすることができる(商附則3条③)。
*一定の期間:書換登録の申請をすることができるようになった日(商附則3条①)から2月。
ただし、この一定の期間の末日が商附則3条②に規定する期間の経過後6月を超えるときは、その期間の経過後6月。
(7)在外者の特許管理人の特例(特許法、実用新案法)
国際特許出願における特許管理人の選任の届出において、所定期間内に届出をすることができなかったことについて、故意でないと認められる場合には、一定の期間*内に限り当該届出をすることができる(特184条の11⑥、実48条の15②で準用する特184条の11⑥)。
*一定の期間:特184条の11④に規定による特許管理人の選任の届出をすることができるようになった日から2月。
ただし、この期間の末日が特184条の11④に規定する期間の経過後1年を超えるときは、特184条の11④に規定する期間の経過後1年。
4.回復理由書の提出期間(まとめ)
所定の手続期間内に手続をすることができなかったことが「故意によるものでない」ときは、期間徒過後の手続ができるようになった日から2月以内、かつ手続期間の経過後1年以内(商標に関しては6月以内)(救済手続期間)に、所定の期間内に行うことができなかった手続を行うとともに、回復理由書を提出します。
優先権の主張の場合の期間徒過手続き
優先権の主張を伴う出願をすべき期間の経過後2月以内に、その出願をする必要があります。
国際特許出願又は国際実用新案登録出願の優先権を主張し、指定官庁としての特許庁において優先権の回復をしようとする場合の回復理由書の提出期間
国内書面提出期間(翻訳文特例期間が適用される場合は、翻訳文提出特例期間)が満了する時の属する日後1月(国内書面提出期間内に出願審査の請求をした場合は、その請求の日から1月)以内です。
5.回復手続き
回復理由書の提出(様式36条の3)
手続をすることができなかった理由を記載した、回復理由書を提出します。
回復理由を証明する書面の提出
特許庁長官は、回復理由書に記載された事項について必要があると認めるときは、回復理由を証明する書面の提出を命ずることができます。
申出書の提出
手続をする者の責めに帰することができない理由(不責事由)による場合には、その旨及び不責事由の申出書(不責事由の理由を記載した書面)を回復理由書と同時に提出します。
なお、回復理由書に記載することにより、申出書の提出を省略することができます。
不責事由証明書面の提出
不責事由証明書面を申出書の提出から2ヵ月以内に提出します。ただし、特許庁長官がその必要がないと認めるときは提出する必要はありません。
6.回復手数料
回復理由書を提出する際に、回復手数料を納付しなければなりません。
(特別表(第195条関係)11、実別表(第54条関係)7、意別表(第67条関係)3、商別表(第76条関係)5)
1件の出願において複数の優先権主張について回復申請をする場合は、回復申請する優先権主張の件数分の手数料が必要となります。
6.1 回復手数料の免除のための手続き
手続期間内に手続をすることができなかった理由について不責事由があり、かつ、その事実を証明する書面により不責事由が確認できる場合は、回復手数料が免除されます。
不責事由による救済の申出をする場合、回復理由書の提出と同時に、上申書の【上申の内容】の欄に、当該手続をすることができなかった理由が不責事由に該当することを具体的かつ十分に記載して提出するか、 回復理由書の【回復の理由】の欄の次に【その他】の欄を設けて、当該理由を記載して提出します。
また、当該手続から2月以内に、記載した事実を裏付ける証拠書類の提出が必要です(上申書を提出)。
なお、不責事由を理由とする救済は、非常にハードルが高い(認められない)ことが多いので、ご留意ください。
7.特許協力条約に基づく国際出願に係る優先権の回復制度の要件の変更
特許協力条約に基づく国際出願に係る優先権の回復制度の要件についても、「故意によるものではないこと」に緩和されました。
国際特許出願又は国際実用新案登録出願について優先権の主張をしようとしたにもかかわらず優先期間内に国際出願をすることができなかった者は、優先期間の経過後2月以内に国際出願をしたときは、指定官庁としての特許庁に優先権の回復の請求をすることができる。
ただし、故意に優先期間内に国際出願をしなかったと認められる場合はこの限りではない(特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律施行規則第28条の3)。
手続きの詳細については、特許庁のサイト令和5年4月1日以降に優先期間を徒過した国際出願の優先権の回復(「故意ではない」基準)について)をご確認下さい。
8.新型コロナウイルス感染症により影響を受けた手続における不責事由による救済
「新型コロナウイルス感染症により影響を受けた手続における『その責めに帰することができない理由』、『正当な理由』、『故意によるものでないこと』による救済について」を参照ください。
9.救済が認められない事例
期間を徒過した理由が「故意に手続をしなかった」と判断され、救済が認められない可能性がある事例を以下に示します。
なお、以下の事例と一致しない場合に、救済が認容されることを保証するものではありません。
事例 1 期間徒過後の社内の方針転換
出願審査の請求手続
特許出願を行ったが、出願審査の請求期限までに出願審査の請求の要否を社内検討した結果、不要と判断した。 出願審査請求期間の徒過後、社内の方針転換により、出願審査の請求を行うこととしたため、回復理由書を提出した。
事例 2 現地代理人の支払い遅延
国内移行手続
海外の代理人(現地代理人)は海外出願人に日本国内への移行手続を案内するにあたり、出願人が従来から料金の支払いが遅れがちであるため、国内移行手続を指定国の代理人に依頼する条件として、依頼期限までに料金の事前支払いを行うことを明示して、電子メールで依頼した。
現地代理人は、出願人から、「国内移行手続をしない判断をした場合には、依頼期限までに料金の事前支払いをしない」旨の電子メールを受領した。
依頼期限までに料金支払いがなかったことから、翻訳文の提出を含む国内移行手続を指定国の代理人に依頼しなかった。
その後、出願人から、国内移行期限を徒過した後に国内移行手続を行う判断をしたため回復申請をしたい旨の連絡があり、料金の支払いがあったため、回復理由書を提出した。
事例 3 権利放棄決定後の他社からの照会
特許料納付手続
社内で特許権の必要性について検討をした結果、維持しない判断としたため特許料の納付、追納を行わなかった。
追納期限の徒過後、他社が消滅した特許権に関心を示したので、権利を維持するよう方針転換し、回復理由書を提出した。
事例 4 金銭的事情による経営判断
特許料納付手続
経営状況が厳しく、金融機関に融資の申し込みを行ったが融資を受けられなかった。 社員の雇用を優先するために特許権を維持しないと判断し、特許料の納付を行わなかった。
追納期限の徒過後、融資を受けられ経営状況が改善したので、特許権を維持するよう方針転換し、回復理由書を提出した。
事例 5 廃業後の後継者の就任による事業再開
商標権の更新手続
申請人(サービス業)は、商標権を有していたが、後継者がいないことから廃業することにした。
廃業するので商標権の更新登録申請は必要ないため、手続を行わなかった。
更新登録申請の手続期限の徒過後、後継者が就任することになり事業を継続することとなったため、回復理由書を提出した。
事例 6 共有者との調整不足による手続徒過
特許料納付手続
権利者AとBの二者共有の特許権について、二者間で権利維持について調整が難航し、結果的に特許権の維持を諦める判断をした。
追納期限の徒過後、AとBが特許権の維持について方針転換をし、納付手続等の委細合意に至ったため、回復理由書を提出した。
事例 7 納付書の不備にかかる指令に対応せず手続却下された場合
特許料納付手続
特許料の年金納付書の内容に不備があり補充指令を受けたが、権利維持の必要性がなくなったため補充手続を行わず、納付書が手続却下となった。
追納期限の徒過後、権利を維持したいと考えを改めたため、回復理由書を提出した。