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中国 「商標権侵害判断基準」の理解及び適用Ⅳ

2023年 4月27日
浅村特許事務所


中国 「商標権侵害判断基準」の理解及び適用Ⅳ


 

   

浅村特許事務所
中国弁護士   鄭 欣佳

 
 中国知識産権局が公表した「商標権侵害判断基準」の逐条解説から重要な内容をいくつかピックアップして紹介します。
 今回は第四回目、最終回です。

 

「商標権侵害判断基準」の理解及び適用Ⅳ  

 2022年 8月12日、中国知識産権局は「商標権侵害判断基準」の逐条解説 ―「商標権侵害判断基準」の理解及び適用 ― を公表しました。具体事例・判例等を用いて、商標権侵害判断基準」の各条文を解説しています。    
 今回は、最終回として、第三回に続き、逐条解説の中から重要な内容をいくつかピックアップして、ご紹介いたします。
 

 

第26条 景品の商標権侵害

 商品を販売する時に付けた景品が登録商標の専用使用権を侵害した場合は、商標法第57条第3項により商標権侵害となります。    
 この条文は商品の販売に伴う景品の提供が販売行為に該当することを規定しています。

 景品が名目上無料であるにもかかわらず、消費者は事業者が販売した商品を購入しないと景品を受け取ることができないため、景品は販売の一部となっています。したがって、景品の提供は、営利を目的として、実質上、事業者に利益をもたらすことができる商品の売買行為です。

 実務上、懸賞によるマーケティングを行う方法があります。すなわち、販売促進イベントにおいて、くじ等の偶然性のある方法を用い、景品の有無及び優劣を決定する方法です。その時、提供する景品が登録商標の専用権を侵害する場合、本条の規定を適用することができます。

 一つの例を挙げます。   

 河南省济源市スポーツくじセンターはスクラッチくじの業績を上げるため、コンサルティング会社の提案を受け、48000元のスクラッチくじを購入する人に景品として自転車を贈るイベントを企画しました。景品としての自転車には、 商標が付いていました。管轄行政庁の調査が始まったとき、9台の自転車はすでに贈られていました。 商標は巨大机械工业股份有限公司(ジャイアント・マニュファクチャリング)が12類、自転車等の商品において登録した商標です。巨大机械工业股份有限公司に確認したところ、济源市スポーツくじセンターへのライセンスは存在しないため、 商標付きの自転車を景品とすることが、商標法57条3項の商標権を侵害する行為と認定され、10万元の罰金が科されました。
  

第30条 主催者・運営者責任

 市場開設者、展示会主催者、カウンター貸与者、電子商取引プラットフォーム等の運営者が管理義務を怠り、場内の経営者、出展者等が商標権侵害をしていることを知り、または知るべきでありながら、それを止めなかった場合、もしくは侵害を知らなかったが、管轄行政庁または商標権者が、発効した行政文書または司法文書をもって、侵害の事実を知らせた後、その侵害を止めるために必要な措置をとらなかった場合、商標法第57条第6項に規定する商標権侵害行為に該当します。
   
 この条文は、市場開設者、展示会主催者、カウンター貸与者、電子商取引プラットフォーム等の運営者が管理義務を怠り、侵害行為の継続を助け、または黙認した場合の法的結果を規定しています。

 運営者の行為が商標権侵害に該当するかどうかを判断するとき、運営者が、市場、展示会、ショッピングモール、プラットフォームにおいて取引者が販売する商品や提供するサービスに商標登録証書やライセンスなどの書類に対する審査や登記、取引者が実際に販売・提供する商品やサービスが申告した商品やサービスと一致しているかについて、サンプリング検査、巡回検査等による確認、知的財産保護の内容が契約書等に明記してあるかなど、合理的にデューデリジェンスを行ったかどうかを判断しなければなりません。
   

 注意すべき点が一つあります。管轄行政庁または商標権者からの通知や告知は、運営者が商標権侵害を知り、または知るべきであると認定される唯一の方法ではありません。
 取引者が侵害情報を店舗、陳列ケース、カウンター、オンラインホームページなどで目立つように掲載している場合も、運営者が知り、または知るべきであると認定することができます。運営者が侵害行為に無関心又は見て見ぬふりをし、取引者の侵害行為を放置する場合、本条に定める事情に該当すると認定され、商標法第57条第6項の商標権侵害行為となります。
   


一つの例を挙げます。
   

 衣念(上海)服飾貿易有限公司(以下、「衣念社」といいます。)は、商標権者の許諾を得て、登録商標第1545520号「 」及び登録商標第1326011号「 」の独占的使用権を取得しました。衣念社は、浙江淘宝网络有限公司(以下、「タオバオ社」といいます。)の開設したタオバオプラットフォーム及びそのプラットフォーム内でオンライン店舗を経営している杜氏が、自社の商標権を侵害する商品を販売しているため、自社の商標権を侵害すると考え、訴訟を提起しました。 
  
 裁判所において、衣念社が杜氏の侵害品掲載に対し、2009年9月末から11月の間だけでも、タオバオ社に対し7回の苦情を申し立てたことが判明しました。衣念社から苦情を受けたタオバオ社は、速やかに侵害情報を削除しました。ただし、タオバオの「ユーザー行動管理規則」によると、侵害情報を掲載した経営者は、状況に応じて警告、商品情報の掲載制限、アカウントの凍結などを受けるはずですが、タオバオ社は杜氏に対して懲罰的措置をとりませんでした。同社は、杜氏が侵害品を繰り返し掲載していることを認識していながら、管理規則を厳格に履行せず、杜氏にネットサービスを提供し、侵害品の販売を容易にしたことから、侵害行為の援助に該当し、法律に従って連帯して賠償責任を負うべきであるとしました。


第32条 先に取得した合法的権利の保護

 商標権侵害事件を処理する際に、先に取得した合法的権利を保護しなければいけません。意匠権や著作権に基づき、他人の登録商標専用使用権を否定する抗弁を行う際、登録商標の出願日が意匠の出願日よりも前である場合、または著作物の創作完了日より前である証拠がある場合、管轄行政庁は商標権侵害を調査・処理することができます。
   
 この条文は、商標権が意匠権、または著作権と競合するときの対処原則及び保護時期の比較基準を示しています。    
 商標と意匠の出願日に基づいて保護対象を決めるのは、商標出願日が意匠出願日より前であることは、客観的には、意匠出願人が先に出願された商標を模倣・複製する可能性を生じさせ、ひいては意匠の新規性を喪失する可能性があるためです。    
 著作権と商標権の抵触について、著作権の保護対象が著作物に該当するか否か、関係者が著作権者又は著作権を主張する権利を有する他の利害関係者であるか否か、関係者が著作物に接触したか又は接触の可能性があるか否か、商標が著作物と同一又は実質的に類似しているか否か等の判断を伴うため、取扱いはより複雑です。
 したがって、本条第2項は、商標の出願日が著作物の完成日に先立つ場合についてのみ、規定します。他の状況が含まれる場合には、その具体的な事情に即して処理されなければなりません。
 
  
 一つの例を挙げます。
 
  
 2002年 5月 8日、商標権者は指定商品「味付け醤油、食塩等」において、第30類第3168447号の商標出願をし、2003年 6月21日に登録されました。管轄行政庁は、当事者は「刘老根」の文字が入った豆味噌を市場で販売していることを発見しました。調査したところ、当事者はすでに「刘老根」の文字が入った商品の外包装を著作権登録していたことが判明しました。著作物の創作完了は2003年2月であり,登録は2004年 9月でした。
 
  
 裁判では、著作権登録されている「刘老根」の豆味噌商品の外包装が、登録された「刘老根」の商標専用使用権に対抗できるかどうかが争点となりました。

 当事者の著作物は、商標登録出願日の後に完成したものです。さらに、当事者は商標権者と同じ県におり、ともに調味料の製造販売を業とし、同業者であり、先行商標権を合理的に回避することができたはずです。当事者の意図と使用態様から見ると、善意かつ適正な方法で著作権を行使したとは言い難いと判断できます。「刘老根」文字の顕著な使用は、商品の出所を識別する効果を有し、商標の使用となります。豆味噌は食塩、醬油の類似商品です。豆味噌の包装に目立つように「刘老根」文字を使用することは、「刘老根」登録商標と同一であり、商品の出所について関連する公衆の間に混乱を生じさせる可能性があることから、商標権侵害行為に該当します。
 

  
第33条 商標の先使用

 商標法第59条第3項に規定する「一定の影響力を有する商標」とは、国内で先に使用されていて、一定の範囲内で関連する公衆に知られている未登録商標です。   

 一定の影響力を有する商標の認定は、商標の継続使用期間、販売量、売上高、広告プロモーション等を総合的に考慮して行う必要があります。    

以下の場合、本来の使用範囲での継続使用とはみなされない:
(一) 商標が使用される特定の商品又は役務を追加すること;
(二) 商標の図形、文字、色彩、構造、書き方などの変更等。他人の登録商標と区別する目的で行われる変更を除く;
(三) 本来の使用範囲を超えるその他の事情;

 この条文の目的は、商標登録・商標権取得制度を害することなく、商標登録者と商標の先使用権者の利益のバランスを図り、既に市場で一定の影響力を有する未登録商標の先使用権者の権利と利益を保護することです。
 一定の影響力を有する商標の定義として、2つの要件を満たさないといけません。

 第1に、使用の地域的範囲が国内であること;
 第2に、一定の範囲内の公衆に知られていること
 です。

 「一定の範囲内」には、主に一定の地域的範囲と一定の産業の範囲が含まれます。
 「関連する公衆」には、商標の使用によって表示される商品又はサービスの種類に関連する消費者、前述の商品を生産、又はサービスを提供する他の事業者、並びに販売者及び流通経路に関与する関係者が含まれます。関連する公衆の判断にあたっては、商品又はサービスの性質、種類及び価格等の要素がその注目度に与える影響を考慮する必要があります。

 一般に、通常の大衆消費財(衣料品、食品など)に関する商標は、一般消費者に主に考慮され、より専門的な商品(大型機械など)については、関連分野の専門家に主に考慮されることになります。
 一定の影響力を有する商標の判断基準は、高すぎるものであってはなりません。先使用権者が、先行商標が一定の期間、一定の地域で継続的に使用されていること、商品・サービスの販売数や広告、関連する公衆の間でのれんを築いてきたことを証明することができれば、通常、この商標は一定の影響力を有すると判断されるべきです。

 先使用権者は、当初に使用した商標と同じ商品またはサービスにのみ同じ商標を使用することができ、類似商品またはサービス、類似商標に拡張することはできません。先使用の抗弁は、先使用権者にのみ適用されます。先使用権者以外の者は、先使用権者の同意の有無にかかわらず、商標法第59条第3項に基づく非侵害の抗弁を行う権利を有しません。

  一つの例を挙げます。

 2009年 9月21日、重慶市合川区桃片(注:胡桃入りの薄切り落雁)管理協会は、第30類「合川桃片」地域団体商標第7711726号を出願し、2010年 3月28日に登録されました。2013年、商標権者は、管轄行政庁に対し、绵阳市飞利达食品有限公司(以下、「飞利达社」といいます。)が製造販売する桃片の包装に無許可で「合川桃片」の文字を使用し、「合川桃片」商標の専用使用権を侵害したと訴えました。

 調査の結果、飞利达社は、2006年8月30日に設立され、主に菓子、ケーキ、魚などの食品の製造、加工、販売を行う企業であることが判明しました。飞利达社は、2007年から自社が生産・販売していた桃片の包装に「合川桃片」の文字を目立つように表示しており、2008年の汶川地震で生産が停止し、2011年に再開しました。会社は先使用に基づいて、当初の範囲内で使用を継続する権利を有していると主張しました。

 管轄行政庁は、当事者の先使用の抗弁が成立していないと判断しました。

 その理由は2つあります。
 まず、飞利达社は2006年に設立されましたが、商標権者が「合川桃片」商標の出願を行う前、すなわち2009年 9月21日以前に、「合川桃片」商標を桃片商品において商標として使用していたことを十分に証明できません。
 また、飞利达社は善意により商標を使用していませんでした。重慶市合川地域の桃片は、独特の生産方法と味・風味を持ち、その製品の品質と評判は、その生産地の人的要因と自然と密接な関係があります。合川地域全体の桃片の年間生産量は数千トンに達し、地元の特産物として全国的に販売され、多くの賞を受賞し、消費者の間に大きな影響力を有します。飞利达社の製品は、合川地域で生産されたものではなく、合川桃片の本質的な品質及び人的要因を有しておらず、「合川桃片」を商標として、自らの桃片の外箱に目立つように表示し、「重慶特産、百年風味」等の言葉を使用したことから、商品の出所を消費者に混乱させようとする意図があり、善意による使用行為とはいえないと判断しました。

 最後に、団体商標として登録された地理的表示や証明商標として登録された地理的表示は、ある地域の自然的または人的要因によってのみ形成されるものであり、団体商標や証明商標として登録されることは、商標としての保護の確認になります。商標法第16条第1項「商品の地理的表示を含む商標は、当該商品が当該表示に示された地域に由来するものでなく、公衆を誤認させるときは、その登録をせず、かつその使用を禁止する」の規定により、商品が地理的表示の条件を満たさない場合、団体商標または証明商標の出願前に使用されていたとしても、その地理的表示の使用は禁止されます。

注釈ː


 ① 商標法第59条第3項:商標登録者が商標登録を出願する前に、他人が既に同一又は類似の商品について、商標登録者よりも先に、登録商標と同一又は類似し、かつ一定の影響を有する商標を使用しているときは、登録商標専用権者は、当該使用者が元の使用範囲において当該商標を引き続き使用することを禁止する権利を有しない。ただし、適切な区別用標章を加えるよう要請することができる。

 ② 商標法において「関連する公衆」とは、商標に表記されたある種の商品又は役務に関連する消費者及び前述の商品又は役務の営業販売と密接な関係を有するその他の事業者をいう(最高人民法院による商標民事紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈、第8条)。