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日本 意見書から見る色彩のみからなる商標の審査基準

2022年 8月16日
浅村特許事務所


日本 意見書から見る色彩のみからなる商標の審査基準


 

   

浅村特許事務所
中国弁護士   鄭 欣佳

 

意見書から見る色彩のみからなる商標の審査基準

――チキンラーメンの色のみ商標

 

一.  9件目の色彩のみからなる商標の登録  

 2022年 3月25日、日清食品ホールディングス株式会社(以下、「出願人」といいます。)が出願人となる色彩のみからなる商標(以下、「色彩商標」といいます。)が登録されました(登録6534071)。指定商品は、即席めんです。これは色彩商標の9件目の登録例となります。 

 

 

 

 経過情報から見ると、出願中、審査官から2回拒絶理由通知書が出され、2回審査官通知(その他の通知)が出されました。通知書の回答として、出願人は4回意見書を提出しています。
 今回は出願人が提出した主要の意見書から、色彩商標の審査基準を見ていきたいと思います。

 

二.拒絶理由

 特許庁が最初に出した拒絶理由は:
 「……商品又は商品の包装に使用される色彩は、色彩を組み合わせたものも含め、多くの場合、商品の魅力向上等のために選択されるものであって、商品の出所を表示し自他商品を識別するための標識として認識し得ないものです。
 そうしますと、本願商標を、この商標登録出願に係る指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、商品又は商品の包装に通常使用される又は使用され得る色彩を表したものと認識するにとどまり、本願商標は、単に商品の特徴を普通に用いられる方法で表示するにすぎないものと判断するのが相当です。」

 従って、拒絶理由条文は第3条第1項第3号となっています。

 

三.意見書

 出願人は上記の拒絶理由に対して、①商標登録出願に係る商標(以下、「本願商標」といいます。)②出願人及び「チキンラーメン」③本願商標は使用により既に識別力を獲得していること――三つの部分により構成された意見書を提出しました。

 本願商標について、出願人は本願商標の色彩及び組み合わせの割合を詳しく説明した上、本願商標の独創性を指摘しました。
 出願人及び「チキンラーメン」について、「チキンラーメン」は即席麺の商標として極めて著名なものであり、出願人の事業において重要な地位を占めていることが述べられ、即席麵において銘柄の想起率が高いという調査結果も引用されました。
 使用により既に識別力を獲得していることについて、商品を指定した場合の想起率は80%以上であり、商品を指定しない場合の想起率も60%を超過したアンケート調査の結果が主に引用され、テレビ番組・新聞広告等の宣伝広告活動、受賞歴、関連書籍、支援活動・グッズ・お祭り等の即席麵以外の本願商標の使用実績がある旨も主張しました。

 

四.結論

 色彩は商標やデザインによく使われる要素であるため、識別力を獲得しにくく、公益の観点から見ても独占することが難しいため、商標法第3条1項3号に該当することが多くなります。そのため、登録が認められるためには、第3条2項の適用が必須となります。具体的には、需要者に周知であるとするアンケート調査結果の提出がポイントです。
 また、色彩を半永久的に独占することに鑑み、指定商品・指定役務は自他商品役務の識別性があるとする商品役務に限定され、広く指定することは認められません。

 さらに、色彩自体および色彩の組み合わせの割合は、矛盾なく正確に記載することが求められます。 
 登録例から見ると、登録された色彩商標は主に使用により需要者において十分な識別力を獲得しており、かつ、色の組み合わせからなるものに現時点において限定されています。
 意見書が提出され、幾度の補正を経て、本願商標は登録されました。

 これに対し、2022年 6月に不服審判の審決で下記の色彩商標は登録することができませんでした。

 

(商標)

 当該商標の出願人は「クリスチャン ルブタン」というフランス会社であり、商標の説明は「女性用ハイヒール靴の靴底部分に付した赤色」でした。
   
 不服審判中に、出願人は同じようにアンケート調査の結果を提示しましたが、ブランドを自由回答形式で想起、回答した割合は、43.35%であって、自由回答に選択式回答を合わせると、ブランドを想起、回答した割合は、53.99%でした。ブランドを認知できる回答者は50%に満たない程度であって、残りの半数以上は本件ブランドとの関係を想起できていないと判断され、需要者の間において広く認識されるに至っているとまでは認められませんでした。    
 また、当該商標と同様の特徴を備え、靴底を赤色に彩色した商品(靴)が多数の事業者により製造、販売されている取引の実情もあります。そのため、当該商標のような単一の色彩のみからなる商標について特定人に排他独占的な使用を認めることは、公益上(独占適応性)の観点から支障があると判断されました。
   
 なお、このレッドソールの色彩商標は海外においては広く登録されています。
 日本における単色での商標登録出願は数件ありますが、登録は現時点で0件のままですので、登録には非常に高いハードルがあると認識すべきです。

 従って、色彩商標を出願する際に、単一の色彩の出願を避け、アンケート調査により高い識別力を獲得していることを証明することが登録できるポイントではないかと考えられます。