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中国 商標審査審理指南の施行

2022年 1月 5日
浅村特許事務所


中国 商標審査審理指南の施行


 

   
浅村特許事務所
中国弁護士   鄭 欣佳 訳

 

「商標審査審理指南」は2022年1月1日から施行されました。
実務において注目されるようなテーマを紹介させていただきます。

 

 「商標審査審理指南」(以下、「指南」といいます。)は国家知識産権局により2021年11月16日に公表され、2022年1月1日から施行されました。「商標審査及び審理基準」は同時に廃止されました。
 「指南」は2016年版の「商標審査及び審理基準」に基づき、近年の理論及び実務を踏まえ、業務指南・内部規程に統括されて制定されました。

 「指南」は上編・下編により構成されています。上編は「商標審査及び審理基準」には記載がされていなかった「方式審査と事務手続き」であり、5部25章からなります。下編は審査と審判に関する内容を統合し、各種商標の審査基準、不正登録などの特別事案の審査が含まれ、19章からなります。

 今回は、下編から実務において注目されるようなテーマを下記にまとめて紹介いたします。

 

一.  使用を目的としない悪意のある商標登録出願の審査  

商標法第4条に「使用を目的としない悪意のある商標登録出願は拒絶しなければならない」とする規定を新設した。

 「指南」は、「使用を目的としない悪意のある商標登録出願」であるかどうかを判断するときの考慮要素を明確にした。出願人の基本情報、出願人が提出した商標出願の全体的な状況等が考慮要素とされている。

 また、「指南」には「使用を目的としない悪意のある商標登録出願」に該当する9つの典型例が挙げられた。

 

 1.商標出願の数が明らかに出願人の正常な経営に必要な量を超え、使用の意図が欠け、商標出願の秩序を乱すこと;

 2.他人の高い知名度・顕著性を有する先行商標を大量に複製、模倣、剽窃し、商標出願の秩序を乱すこと;

 3.同一主体の高い知名度・顕著性を有する特定商標を繰り返して複製、模倣、剽窃し、商標出願の秩序を乱すこと;

 4.他人の商号、商号の略語、オンラインストア名称、影響力がある商品名称、ドメイン、包装、ロゴ 、他人の知名度が高く、識別力があるキャッチフレーズ、意匠など標章と同一又は類似する商標を大量に出願すること;

 5.有名人の氏名、著名な作品またはキャラクター名、もしくは他人の著名であり、識別力がある美術作品等と同一又は類似する商標を大量に出願すること;

 6.地名、観光スポット、有名な景観、建築物の名称と同一又は類似する商標を大量に出願すること;

 7.指定商品・役務の普通名称、業界用語、直接記載された商品の品質、原料、機能、重量、数量等の顕著性が欠ける標章を大量に出願すること;

 8.大量に商標を出願し、大量に他人に商標を譲渡した上、譲渡された相手が分散されていて、商標出願の秩序を乱すこと;

 9.不正利益を得るため、大量の商標を販売し、商標の先使用権の持ち主、若しくはその他の人に強制的に協力を求め、高額な譲渡代金、ライセンス料、若しくは損害賠償を強要すること。

 なお「指南」は、防衛目的により同一又は類似商標を出願すること、及び将来の業務のため適量に商標を出願することは、「使用を目的としない悪意のある商標登録出願」として認定しない。

 

二.商標として使用してはならない標章の審査

 商標法第10条には商標として使用してはならない標章が挙げられ、「指南」では列挙された標章の詳しい審査基準を明確にした。

 その中、第(七)項の「欺瞞性を帯び、公衆に商品の品質等の特徴又は産地について誤認を生じさせやすいもの」の判断基準に、標章が有名人の肖像と同一又は類似することが追加され、第(八)項の「社会主義の道徳、風習を害し、又はその他の悪影響を及ぼすもの」の判断基準に、民族・種族の尊厳を損なう標章、突発公共事件と同一又は類似する標章、国の重要なプロジェクトの名称と同一又は類似する標章等が追加された。

 例えば、


三.顕著な特徴に欠ける標章の審査

 商標法第11条には、商標として登録することができない標章が挙げられた。

「指南」は、第(三)項「その他の顕著な特徴に欠けるもの」に、いくつの事例を追加した。

  例えば、
 

 1.日常用語

 

 2.出願人(自然人を除く)名称全称のみのもの

 

   図形等があり、全体的に顕著性があるものを除く

 
 3.インターネットの流行語及び流行スタンプ

 

 4.日常に使われている記号

 

 

 5.祝日の名称

 

 6.名言、知名度が高い古詩

 
 また、「指南」は「使用により顕著な特徴を有する標章」の判断基準を、「国内関連公衆の認識を基準とする」から「関連公衆の認識を基準とする」に変更した。

 さらに、「商標が顕著な特徴がない文字と図形により構成される場合」の審査基準も変更された。商標は単独の文字と単独のほかの要素によって構成される場合、文字部分が顕著な特徴がないと見なされると、商標全体が顕著な特徴がないと認定される。

 例えば、

 (指定役務:レストラン。满汉全席は盛大な宴の例で、途中で出し物を見たりしながら、数日間かけて100種類を越える料理を順に食べる場合もあったといわれる。)


四.同一商標・類似商標の審査

 「指南」には、商標登録審査時に、商標の同一・類似を判断する考慮要素は商標自体のみであり、他の手続き(無効、異議申立て等)の時に、「先行商標の顕著性」、「先行商標の知名度」、「関連公衆の注意力」及び「商標出願人の意図」等も考慮要素にしなければならないという、新たな判断基準が規定されている。

 また、図形商標の類似を判断するときに、現行の「商標が一定の知名度又は強い顕著性を持つ他人の先行図形商標を完全に含むものであって……類似商標と判断される。」という判断基準の「完全に」三文字が削除され、保護範囲の拡大が図られた。

 

五.3D商標の審査

 「指南」によると、商品自体の3D形状または商品包装・容器の 3D形状が、設計を通じて独特な視覚的効果を有していても、そのオリジナルティに基づいて商標としての顕著性を有すると当然のように認定されるものではない。長期にわたって使用されたことにより、指定商品の出所を表示する識別力がある商標のみが顕著性があると認定される。

 例えば、



六.色彩の組合せ商標の審査

 「指南」は、色彩の組合せ商標の保護対象は、特定の方法により使用される色彩の組合せ自体であり、商標の形状、商標に含まれる文字、図形等の要素は色彩の組合せ商標には含まれないことを初めて明確にした。

 その上、色彩の組合せ商標は通常、顕著性を有さないが、長期にわたって幅広く使用され、出願人との繋がりを有することにより、商品・役務の出所を識別する機能を備えて初めて、顕著性を得たと認定される。 

 

七.団体商標・証明商標の審査

 「指南」は、団体商標・証明商標が顕著性を有するか否かを判断するとき、商標自体の観念・称呼・外観以外の、商標の指定商品・役務、関連公衆の認知習慣、所属業界の実際使用状況なども併せて考慮し、案件別に判断すべきであると強調した。

 また、地理的表示である団体商標と証明商標の禁止条項、同一・類似の審査基準、顕著な特徴の審査基準が新設された。

 商標には地理的表示が含まれるが、かかる商品は該地理的表示で表示される地域からのものではなく公衆を誤認させる場合、当該商標の登録と使用が禁止される。

 地理的表示である団体商標・証明商標と普通商標との類否を判断する場合であって、当該商標が後願商標であり、普通商標が先願商標である場合には、当該商標の知名度・顕著性・関連公衆の認知などの要素を考慮し、関連公衆に誤認・混同させ難いものであれば、類似商標ではないと認定される。例えば、地理的表示である団体商標・証明商標「BA+商品名称」は、先願の普通商標「AB」と類似ではない。

 さらに、外国人・外国企業が地理的表示である団体商標・証明商標を出願する場合、出願人は当該地理的表示が出願人の所在国において保護を受ける証明を提出しなければならないと規定されている。

 

八.馳名(著名)商標の審査

 「指南」は、馳名商標を認定するための証拠を更新した。非伝統的な経営方式により形成した販売情報、非伝統的なメディアによる宣伝も証拠として使えるようになった。

 

九.他人の先行権利の侵害に関する審査

 「指南」は、地理的表示を新たな先行権利として追加した。
 また、「その他の保護すべき適法先行権益」部分を追加し、作品の名称、作品のキャラクター名称が先行権益として保護されることを明確にした。

 例えば、

 


十.他人が既に使用している一定の影響力を有する商標の抜け駆け登録に関する審査

 「指南」は、他人が既に使用している一定の影響力を有する商標を判断する際の要件を、従来の「中国で既に先行使用されており、一定の範囲内の関連公衆に知られている」から、「中国において一定の範囲内の関連公衆に知られている」に変更した。

 

十一.登録商標取消案件の審理

 「指南」は、登録商標の「継続して 3年間不使用」を判断する際、インターネット上における当該商標の使用も商標を使用したことを証明する証拠であると規定した。