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【中国】 中国国家知識産権局指導事例2号 ― 商標権侵害品販売者の免責条項について [2021年10月25日]

2021年10月25日
浅村特許事務所


【中国】中国国家知識産権局指導事例2号 ― 商標権侵害品販売者の免責条項について


   
浅村特許事務所
中国弁護士   鄭 欣佳 訳

 

2020年の行政執行指導事例で、株式会社アシックスの登録商標に関する権利侵害事件です。 侵害品の販売者は侵害品であることを「知らなかった」ことを理由にして、責任の免除を主張することに対し、当局の判断はどうなりますでしょうか。
その日本語訳です。

 

指導事例2 ― 商標権侵害品販売者の免責条項について

一.  背景 

 「中華人民共和国商標法」(以下、「商標法」という)第60条第2項には、登録商標専用権侵害商品であることを知らずに販売し、当該商品を合法的に取得したことを証明でき、かつ提供者について説明できるとき、工商行政管理部門は、販売の停止を命じなければならないことが規定されています。
 当該内容は販売者免責条項と呼ばれ、2013年商標法改正時に追加されました。この改正は、販売者を通して製造者を追跡し、製造者に権利侵害の責任を負わせることにより、製造の源流から侵害を阻止することを目的として行われました。
 この規定により、販売者は、以下3つの要件を同時に満たした場合には、権利侵害に対する行政責任が免除されます
   1.販売した商品が登録商標専用権を侵害していることを知らなかったこと;

   2.販売者が商品を合法的に入手したことを証明できること;

   3.商品の提供者を説明できること。

 

 TRIP協定第47条には、「加盟国は、司法当局が、侵害の重大さとの均衡を失しない限度で、侵害者に対し、侵害物品又は侵害サービスの生産又は流通に関与した第三者を特定する事項及び侵害物品又は侵害サービスの流通経路を権利者に通報するよう命じる権限を有することを定めることができる。」と規定されています。即ちTRIPS協定は、侵害品の販売者に、侵害品を製造・販売した侵害者の身元を司法当局に知らせることを義務付けています。
 しかし、この条文には、侵害品販売者の主観的な過失と責任の判断基準については、明記がされていません。
 現行商標法は、「知らなかった」ことを販売者の責任を免除する条件としています。即ち、販売すること自体が既に権利侵害となっていますが、一定の要件を満たせば販売者の行政責任と民事責任が免除されます。

 

 2020年5月28日に採択された「中華人民共和国民法典」(以下、「民法典」という)には、「知っていた」を「知り得るべき」と並べて使用しています。つまり、「知り得るべき」が「知っていた」の範囲に属し、「知らなかった」ではないことを明らかにしています。
 例えば、民法典第149条は、「第三者が詐欺行為を行い,一方に真実の意思に反する状況で行わせた民事法律行為につき,相手方が当該詐欺行為を知り又は知り得るべきときは,詐欺を受けた者は,人民法院又は仲裁機関に取消を請求する権利を有する。」と規定されています。また、第167条は、「代理事項が違法であることを知り,若しくは知り得るべきにもかかわらず,代理人が代理行為を行ったとき,又は代理人の代理行為が違法であることを知り,若しくは知り得るべきにもかかわらず,被代理人が反対の表示を行わなかったときは,被代理人と代理人は連帯責任を負わなければならない。」と規定されています。
 民法典の文脈で読むと、「知っていた」には「知っていた」と「知り得るべき」の意味が含まれています。このため、国家知識産権局が2020年6月15日に公表した「商標権侵害判断基準」では、「当事者が知っていた、または知るべきだったと認められる状況」は「知らなかった」には該当しないことを明確にしています。
 以上により、商標法において「知らなかった」とは、実際には知らなかったし、知り得るべきではないことであり、「知っていた」や「知っておくべき」は、「知らなかった」ではないと理解することができます。

 

二.  「知らなかった」を判断する時の考慮要素

 販売者が、実際に販売した商品が登録商標の専用権を侵害していることを知らなかったかどうかは、販売者の主観的な精神活動であり、抽象的なものです。販売者が「実際に知らなかった、且つ、知り得るべきではなかった」かどうかの判断は、以下の要素を考慮して、事案の具体的な状況、客観的な事実、関連する証拠に基づいて行うことができます。

1. 商品の購入価格及び購入ルート

 販売者は、購入価格が類似商品の市場価格よりも著しく低い商品について、より重い精査責任を負います。
 商品価格は、商品の品質、知名度、マーケティング戦略など様々な要素によって影響され変動しますが、購入価格が類似商品の通常市場価格よりも著しく低い場合には、一般的に販売者は合理的な精査努力を怠っていたと判断することができます。
 また、販売者は、正規のルートから商品を購入しなければなりません。すなわち、販売者が購入ルートを決める際に、供給者の身元を確認する必要があります。
供給者不明の商品を販売した場合、「知らずに販売した」という要件には該当しません。

 

2. 商品の特別な性質

 食品、医薬品、健康食品、花火、化学製品、アルコールなどの商品は、命に関わるもののため、生産、輸送、販売の各段階において特別な規制を受けています。
 販売者が関連規定に違反して合理的な精査責任を果たさなかった場合、「知らずに販売した」という要件が満たされたとは言えません。

 

3. 当該商標の知名度

 商標の知名度が高ければ高いほど、市場での影響力は大きくなります。特に著名商標の場合、販売者が当該商品と商標を知る可能性が高くなり、精査責任も重くなります。

 

4. 販売者の状況

 大規模で財力があり、長期的に事業を行っており、法人格を有する販売者は、購入・販売する商品が他人の登録商標の専用権を侵害する可能性があるかどうかを判断するための優位性、能力、資源を有しており、より重い精査責任を負っています。

 例えば、総代理店及び上級代理店は、小売業者と比べると、より重い精査責任を負っています。

 

5.その他の要素

 例えば、以下の要素が考慮されます。

 ・販売者が類似する紛争のため商標権利者と民事訴訟を行い、人民法院に商標権侵害と認定された場合;
 ・同じ商品を販売したことより行政執行機関の調査を受け、その後も侵害品の販売を継続した場合;
 ・販売者が関連ブランドの代理店をしていた場合;
 ・販売者または利害関係者が同一または類似する商標を出願し、法律に基づいて拒絶された場合;
 ・総代理店または上級代理店が司法機関や行政機関により、販売行為が商標権侵害していることが判明された場合。

  ……

三.  事例

 今回の事例の当事者(侵害者)は北京宏源利得商贸有限公司であり、商標権者は株式会社爱世克私(株式会社アシックス)です。当事者は卸売業者泉州艾诗克诗体育用品有限公司と加盟契約を結ぶ、「亚瑟斯虎」ブランドのスポーツシューズの販売代理を行っています。

 当該スポーツシューズの舌革には “ ” という標章が付けられていて、商標権者の第6936142 号登録商標 “” と類似し;一部のシューズの外側には “ ”  “” または “”  “” のような変形した “井” 文字が付けられていて、商標権者の第5875805号登録商標 “” 等と類似しています。

 当事者は本件ブランド靴が侵害品であることを知らなかったため、商標法第60条第2項により責任を免れるべきであると主張しました。

 しかし、商標権者の「Tiger」等の商標は長年の使用により、知名度の高い商標です。当事者は、長期にわたって靴類の販売を従事している大規模企業として、衣服・履物分野において知名度が高い商標権者の商品・商標を知り得るべきでした。
 また、企業登録情報を比較してみると、当事者の株主の一人は卸売業者、泉州艾诗克诗体育用品有限公司の株主でもあり、卸売業者は当事者の事業活動に直接関与しています。 この卸売業者は、商標権者の登録商標に類似した商標を出願し、管轄の商標局に拒絶されたことが判明しました。
 
 この卸売業者は、商標権者の登録商標に類似した商標を出願し、管轄の商標局に拒絶されたことが判明しました。

 以上をまとめると、商品の供給者は当該商品が商標権者の権益を侵害している疑いがあることを実際に知っており、また、当事者(侵害者)と供給者(卸売業者)は重要な利害関係を有する関連会社でした。当事者は当該商品に商標権侵害の疑いがあることを実際に知っていた、または知るべきであったにもかかわらず、供給者と販売代理店契約を締結し、当該商品を大規模に販売しました。
 北京市工商行政管理局豊台支局は、当事者が意図的に法律違反をし、また、違反の事実が十分に立証されており、違反が重大であることを示しました。

 当局は、商標法第60条第2項に基づき、当事者に侵害行為の即時停止を命じ、侵害品履物6,687足を没収し、違法に得た額の5倍にあたる最高罰金額55,773,500人民元(約9億8900万円)を科しました。

 

四. その他の詳細 

 本事例では、「合法的に取得した」と「提供者について説明できる」の判断についても言及しました。
 「合法的に取得した」要件について、「商標法実施条例」第79条では、販売者が商品を自ら合法的に取得したことを証明できる状況を細分化しています。
 実務上、販売者は、増値税専用発票、購入発票、仕入契約書、売上リスト、受領リスト、支払証憑、供給証明などの証拠を提出するのが一般的です。
 
販売者が提供者から商品を購入したことを証明するために提出する証拠は、原則として、発票等に記録された商品、商標、タイプ、価格、時間等の情報が、係る案件の商品、商標、タイプ、価格、時間等の情報と一致する必要があります。すなわち、合法的に入手したとみなされるためには、当該商品と提供者からの商品が対応しており、整合性が取れている必要があると考えられます。
 「提供者について説明できる」要件について、「商標権侵害判断基準」第28条では、商標法第60条第2項に規定する「提供者について説明できる」とは、被疑侵害者が自ら提供者の名称、住所、連絡先等の正確な情報を提供することを意味していると規定しています。被疑侵害者が虚偽または事実確認のできない情報を提供し、提供者が見つからない場合は、「提供者について説明できる」とはみなされません。
 この規定により、「提供者について説明できる」には、正確な情報や手がかりが求められます。
 
本事例では、販売者は、販売者免責条項の「合法的に取得した」と「提供者について説明できる」の2つの要件は満たしていましたが、「知らなかった」の要件を満たしていなかったために、侵害の行政責任を免れることができませんでした。

 



注釈:

① 現行商標法(2019年商標法)は当該条文について改正がありません。
② 現行商標法第64条第2項により、登録商標専用権の侵害商品であることを知らずに販売したときは、当該商品を合法的に取得したことを証明でき、かつ提供者について説明できる場合に限り、民事賠償責任も免除することができます。
③ 増値税発票は、税務局が増値税(消費税に相当)を徴収するために利用する証憑です。インボイス、請求書です。