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中国 中国国家知識産権局指導事例1号 他社登録商標をネット検索のキーワードとして利用することが商標侵害になるか

2021年 9月21日
浅村特許事務所


中国 中国国家知識産権局指導事例1号
他社登録商標をネット検索のキーワードとして利用することが商標侵害になるか


   
浅村特許事務所
中国弁護士   鄭 欣佳 訳



2020年の行政執行指導事例で、「邓白氏」(ダン&ブラッドストリート)登録商標の権利侵害事件です。
その日本語訳です。

 

中国国家知識産権局指導事例1号
他社登録商標をネット検索のキーワードとして利用することが商標侵害になるか

中国国家知識産権局より

 2021年 4月 1日

 2019年11月15日、上海章元情報技術有限公司のダン&ブラッドストリート社の登録商標をネット検索キーワードとして利用する行為が、商標の使用にあたると判断されたため、この行為の当事者は上海市崇明区市場監督管理局の行政処罰を受けました(以下、「本事例」 という)。


 本事例はインターネット環境における商標使用の定義及び商標権侵害の要件を考えるとき、一つの参考となると思います。


 2013年に改正された中国商標法(以下、「商標法」 という。)の第四十八条には “この法律で商標の使用とは、商品、商品の包装若しくは容器及び商品取引書類上に商標を用いること、又は広告宣伝、展示及びその他の商業活動中に商標を用いることにより、商品の出所を識別するための行為をいう。”という、商標の使用を定義した規定が設けられました。
 この規定は、商標の使用が商品やサービスの出所を特定するためのものであることを明確にし、商業活動における商標の性質をさらに強調しています。


 近年、行政執行の実務において、「商標の使用」 を 「混同を生ずるおそれ」 の判断から切り離して、「商標の使用」 を単独の権利侵害判断要件としています。これにより、「混同を生ずるおそれ」 の判断基準が緩くなるリスクを軽減し、公衆と権利者の利益のバランスをとることができます。一方、「混同を生ずるおそれ」 の判断の複雑さを避けることもできます。一部の案件を 「混同を生ずるおそれ」 の判断から外すことで、限られた行政資源を有効に利用することができます。

 これに基づき、国家知識産権局が2020年6月15日に発表した 「商標権侵害の判断基準」 の第三条一項に、”商標権侵害が構成されているかどうかを判断するためには、一般的に、主張された侵害行為が商標法の意味における商標の使用を構成しているかどうかを判断する必要がある ” と規定されています。

 インターネット環境において、関連標章の使用が商標法上の商標の使用に含まれるか否かを判断するのは困難です。本件は、その判断の事例の一つとして挙げられます。

 本事例の焦点は、インターネットのキーワード検索で他人の登録商標と同一または類似の文字を使用することが、商標の使用にあたるかどうかということでした。

 キーワード検索において、他人の登録商標と同一または類似の文字を使用する際には、通常、2つの状況があります。一つは、検索エンジンのキーワードセクションで他人の登録商標と同一または類似の文字を使用することです。その際、文字はキーワードの宣伝のみに使用され、検索結果には表示されることがない、すなわち、内部使用となります。もう一つは、キーワードセクションに加えて、検索結果ページのリンクのタイトルにも文字が目立つように表示されることです。すなわち、外部使用となります。本事例は2つ目の状況に該当します。

 ウェブユーザーは、関連情報を見つけるために、検索エンジンにキーワードを入力します。キーワード検索後に表示された検索結果は、通常、キーワードに関連していると考えられます。特に、検索結果ページのタイトルのようなところにキーワードが大きく表示された場合、その関連性が強まり、ウェブユーザーは当該キーワードが特定の商品・サービスと関連しており、当該リンクにはキーワードと同一または類似の商標で表される商品と関わっていると連想するようになります。このことにより、検索エンジンにキーワードを入力して使用する行為から、商品・サービスの出所を特定する機能が生じます。
 従って、前記の外部使用は、内部使用より商品・サービスの出所を特定する効果があると考えられ、商標の使用とみなすことが適当です。


 本事例において当事者は、商標権者であるDUN & BRADSTREET INTERNATIONAL LTDの商標 「邓白氏」 と同じ文字を検索キーワードとして使用し、検索結果ページのリンクのタイトルやリンク先ページで、商標権者の登録商標 「邓白氏」 に類似した文字を目立つように表示していました。ウェブユーザーにとって、商標使用の効果は視覚的に感知できるものです。上記の行為は、商標に含まれる情報を関連公衆に伝達し、関連公衆に商標とそれが指し示す特定サービスとを容易に関連付けさせ、特定サービスの提供者に対応させ、サービスの出所を識別する機能を果たすものであり、これは商標の使用ということができます。

 本事例では、インターネット環境において 「混同を生ずるおそれ」 の判断も取り上げています。TRIPS協定第十六条第一項に 「登録された商標の権利者は、その承諾を得ていないすべての第三者が、当該登録された商標に係る商品又はサービスと同一又は類似の商品又はサービスについて同一又は類似の標識を商業上使用することの結果として混同を生じさせるおそれがある場合には、その使用を防止する排他的権利を有する。同一の商品又はサービスについて同一の標識を使用する場合は、混同を生じさせるおそれがある場合であると推定される。」 という規定があります。
 従って、「混同を生じさせるおそれ」 は、商標権侵害を判断する時に必要な要素であると考えられます。


 現行商標法の規定はTRIPS協定に沿って、 第五十七条第(一)項と第(二)項の商標権侵害を区別し、「2つの同一」(同一の商品またはサービスに対する同一の商標の使用)ではない場合に「混同を生じさせるおそれがある」という規定を追加しました。

 即ち、同一の商品・サービスに他人の登録商標と同一の商標を使用する場合、「混同を生じさせるおそれがある」 という要件は要求されていないのですが、同一の商品・サービスに他人の登録商標に類似する商標を使用する場合、若しくは類似の商品・サービスに他人の登録商標と同一または類似する商標を使用する場合には、「混同を生じさせるおそれがある」 という要件が明らかに要求されています。

 「商標権侵害の判断基準」 は、「混同を生じさせるおそれがある」 に2つの状況を含めています。一つは、関連商品またはサービスが登録商標権者によって生産または提供されていると関連公衆に信じさせるのに十分な状況であり、もう一つは、関連商品またはサービスの提供者が登録商標権者と投資、ライセンス、フランチャイズまたは協力関係にあると関連公衆に信じさせるのに十分な状況です。 「十分」 というのは、「混同を生じさせるおそれ」 が、実際に混同したことまでは要件とせず、混同の可能性だけが必要であることを示唆しています。
 本事例では、8社の企業がインターネット検索により、当事者の商標使用状況から、当事者が商標権者であるDUN & BRADSTREET INTERNATIONAL LTDに認可されたライセンス関係にあると誤認し、当事者にDUNS(ダンズ)ナンバーの申請を依頼しました。処罰を受けるまでに、当事者は上記8社から代理料金で合計17,991万人民元を受け取っていました。


  従って、当事者が権利者の登録商標に類似する商標を同一のサービスに使用することは、関連する公衆に権利者の提供するサービスを混同させる可能性があるだけでなく、実際に混同を引き起こすこともあり、確実に 「混同を生じさせるおそれがある」 と考えられます。結論として、商標権侵害行為が認められました。


注釈:
 ① 現行商標法は2019年11月1日から施行されました。当該事例の判断が下されたのは11月15日であったので、
  2013年4月に改正された商標法が適用されたと考えられます。第四十八条について、2019年に改正後の内容は
   2013年の内容と変わりありません。


 ② 第五十七条 次の各号に掲げる行為のいずれかに該当するときは、登録商標専用権を侵害する。
  (一)商標登録者の許諾を得ずに、同一の商品にその登録商標と同一の商標を使用すること。
  (二)商標登録者の許諾を得ずに、同一の商品にその登録商標と類似の商標を使用し、又は類似の商品に
     その登録商標と同一若しくは類似の商標を使用し、容易に混同を生じさせること。


 ③ DUNS(ダンズ)ナンバー:アメリカのダンアンドブラッドストリート(D&B)が管理している、企業コードの
  付与管理システム、並びに同システムによって各企業に付与された企業コードの名称です。
  文書によってはD-U-N-SあるいはDUNSと表記することもあります。