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中国 2021年6月に施行される中国著作権法の解説

2021年 5月17日
浅村特許事務所


中国 2021年6月に施行される中国著作権法の解説


   浅村特許事務所 中国弁護士
鄭 欣佳

2021年6月に施行される中国著作権法について、日本の著作権法と適宜比較しながらご説明します。

中国著作権法の改正

 全国人民代表大会常任委員会は2020年11月11日に著作権法改正案を可決し、 新著作権法(以下、「新法」という。)は、2021年6月1日に施行されます。 
 今回の法改正は、2011年に国家版権局が専門家意見案を要請し、2012年に3つの改正案が公表され、2017年には関係者に意見が求められました。そして、2020年に最後の改正案が全国人民代表大会常務委員会に提出され可決されましたが、可決に至るまで9年という長い期間を要しました。
 
 前2回のWTOに加盟するための改正や、WTO裁定の要求に対応するための改正とは異なり、今回の著作権法改正には国外からの要請がありませんでした。今回の改正に至った主な目的は、社会の変化や技術の進歩に伴う著作物の取引形態や流通形態の変化、及び関係者からの著作権制度に対する要望を考慮したものです。

 今回の改正の対象は、著作物の定義、著作権集団管理団体、フェアユース、著作権保護等になります。以下、著作権法の改正につき、いくつかのポイントを挙げて解説します。
 
 日本の著作権法と比較することにより、中国の著作権制度に対する理解を深めて頂ければ幸いです。

改正1:著作物の定義

 新法第3条は、「本法にいう著作物とは、文学、美術及び科学分野において、独創性を有し、かつ一定の形式で表現可能な知的成果」という、概要的な説明に基づいて著作物を定義し、同条第6項の「映画的著作物及び映画の撮影に類似する方法で創作された著作物」の記載を「視聴覚的著作物」に改正し、同条第9項の包括条項「法律、行政法規に規定されるその他の著作物」の記載を「著作物の特徴に合ったその他の知的成果」に改正することで著作物の定義を拡大し、司法上に新型著作物を認定する法的根拠を提供した。

 この改正理由は、近年、様々な新しいタイプの創作物の登場が背景になっている。
 一つは、包括条項の適用に関するものである。
 
 これに関連する事件として、2018年に北京知的財産権法院で審理された音楽噴水著作権事件が挙げられる。
 
 この事件は、一審、二審ともに、音楽噴水は音楽、照明、色の変化などの点で独自の表現を形成しており、独創性を有していると判断した。しかし、現行法の包括条項「その他法令及び行政規則で定められた著作物」に基づけば、法令及び行政規則に記載する著作物として定められていない場合には、音楽噴水は新種類の著作物と認定されない。
 
 その結果、裁判所は、音楽噴水を美術作品として認定し、その著作権を保護した。

 一方、新法が適用される場合、裁判所は、第9項の包括条項である「著作物の特徴に合ったその他の知的成果」を直接援用することにより、音楽噴水の著作権を保護することができる。

 もう一つとしては、オンラインゲームの認定に関するものである。
・2014年 「楽動卓越」社と「崑崙楽享」社との間に起こったコンピュータソフトウェアの著作権所有権をめぐる争い。
 裁判所は、ゲームのキャラクターを美術作品と認定し、著作権法上の保護を認めた(1)

・2015年 「耀宇文化」社と「闘魚」社との間に起こった DOTA2ゲーム生放送をめぐる著作権・不正競争をめぐる争い。
 裁判所は、ゲームの試合画面が著作権法上の著作物ではないと判断した上で、被告が生放送するために試合画面を切り取る行為は著作権の観点から侵害として認めず(2)、その結果、不正競争防止法により生放送権を有する原告を保護した。

・2015年 「壮遊」社と「碩興」社との間のゲーム「ミラクルMU」の著作権・不正競争防止をめぐる争い。
 裁判所は、ゲーム全体のグラフィック、キャラクター名、シーン等は、独自のデザインを有し有形の形で複製することができると判断し、映画に類似する著作物として保護した(3)

・2018年 「天象インタラクティブ」社、「iQIYI」社、「カタツムリデジタル」社の間の「花千骨」と「太極パンダ」の著作権をめぐる争い。
 裁判所は、ゲームを映画に類似する作品として認めた上、ゲームの遊び方を保護した(4)

 以上に説明したように、オンラインゲームに関する裁判所の判断が異なるのは、訴訟の主張、事案の個体差に加えて、現行の著作権法に基づき著作物の種類を判断することに限界があることも理由の一つではないかと考えられる。ゲームグラフィックの構成やプロセスは、メーカーのオリジナル設定のほか、プレイヤーの操作にも大きく影響される。
 そのため、一貫したショットで感情・思想を表現する従来の映画に類似する作品とは異なり、既存の作品の種類に分類することが難しいため、裁判実務においても担当裁判官によって解釈が異なる。
 近年、オンラインゲームが「映画に類似する作品」として認定されるようになったのは、ゲーム著作権を保護するための一時しのぎとして捉えることができる。新法を適用する場合、裁判所は、著作物の種類にとらわれず、創作的な作品という前提であれば、直接に新型著作物として認めることもでき、【視聴覚著作物】に分類することもできる。
 今回、著作物の定義を変更することにより、ゲーム著作物は著作権法上の保護を受け易くなる。

 日本では、2001年の最高裁判決により、ゲームソフトを映画作品として扱うことがほぼ確定された。判決は終審判決であり、第一審判決のゲームソフトに対する認定はそれと真逆の結果となっていた(5)。日本の著作権法では、映画の著作物は、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含む」と定義されている。
 一審の東京地裁は、映画の著作物を通じて表現される思想や感情は、作品の中に一貫して表現される必要があり、またその表現を物に固定される必要もあると判断した。ゲームソフトは、映画に類似する視覚効果や音声効果によって作者の思考や感情を表現したものではなく、その表現を物に固定させるとはいえず、映画の著作物として認定できない、というものである。
 二審の東京高裁は、一審の判断を覆し、「思考や感情が作品中に一貫して表現される必要がある」という要件は、映画の著作物の構成要件には暗示されておらず、映画の効果で表現されること、物に固定されていること、著作物であることの三要件をそれぞれ満たしていれば映画の著作物として認められるべきである。ゲームソフトに表現された特定の画像が、ゲームの作者が予め作成・準備したものであり、ユーザーの行動によって選択・決定されることを著作物として表現されることを妨げるものではない、と判断した。
 最高裁は東京高裁の判決を支持し、ゲームソフトを映画の著作物扱う根拠を確定し、それをオンラインゲームにまで拡大する判断を行い、現在に至っている。

改正2 著作権管理団体の役割

 今回の改正では、第8条に規定する著作権管理団体に関する内容が大幅に追加された。
 具体的には、著作権管理団体が非営利の法人であることを強調しつつ、著作権者と関連する権利者の代わりに調停の当事者として活動することができる記載を加えている。また、管理組織の使用料徴収・分配義務を法律で定め、著作権管轄官庁が管理組織を監督する責任も明確にしている。これは、近年に頻発した著作権管理団体に関連した著作権紛争が、修正の理由だと考えられる。
 最も知られている著作権管理団体である中国音楽著作権協会(以下、「MCSC」という。)の例をご紹介する。
 2021年1月、MCSCのホームページに掲載された情報によると、2020年MCSCの年間ライセンス収入は約4億800万元であり、1,400万曲の音楽作品を管理している。しかし、関連報道(6)により、MCSCの著作権市場秩序を維持する役割には限界があった。そのため、著作権者が権利保護に関する問題を抱えた際に、すぐに MCSCに助けを求めないケースが多く、また、MCSC は様々な理由で著作権者の要請に応えられないケースも多いようである。
 このため、新法では、管理団体が自らの名義で著作権者の代わりに訴訟・仲裁を行うことができるとする記載に、さらに調停も行うことができる記載が追加された。かかる改正により、管理団体は権利者の権利を守るためのコストを削減することができ、管理団体の運営意欲も高まることが期待できる。使用料の徴収・分配が不明確で監督が行き届かない現状も、これに応じて改正された。
 日本において、中国のMCSCと同様な立場の最も代表的な著作権管理団体は、一般社団法人日本音楽著作権協会(以下、JASRAC」という。)である。JASRACは1939年に設立され、現在、国内のプロミュージシャンが制作した音楽作品の95%を管理している。
 JASRACは各テレビ・ラジオ局との間の「包括契約」が問題視され、2009年に公正取引委員会から不正競争防止法に違反する行為と判断され、排除措置(違反行為を行った企業に対して、違反行為を直ちに停止し、市場の秩序を回復するよう求める行政命令)を命じられた。しかし、公正取引委員会は、2012年にこの命令を取り消した。
 JASRACと競合する音楽の著作権管理会社の一つである(株)NexToneは、当該取消を不服として公正取引委員会を被告として訴訟を提起したが、2015年にJASRACが包括契約の内容を変更することで公正委員会の排除措置に従い、紛争は終結した。

 日本の業界では、統一された著作権管理組織の必要性について議論がされたことがある。
 情報量が急増し、セルフメディアが増加している現在、YouTubeへの動画アップロード数だけでも年間10億本を超えると推定される中、著作権を一元的に管理するワンストップ組織が存在することは、著作権者と利用者双方にとって便利であるし、社会全体が効率的に運営するにも有益であることは間違いないと思われる。しかし、過剰に市場シェアが独占されるという問題を回避するためには、管轄官庁が効果的に管理を行う必要がある。
 まだ改善の余地はあるが、JASRACの使用料の算出・配分方法、公表方法は参考に値する(7)。例えば、コンサートで演奏した曲の利用料について、チケットの価格、会場の座席数、曲数、公開公演の期間などから、ユーザーは公式サイトを利用して直接概ねの利用料を見積もることができる。また、著作権者などの権利者の配分比率の計算は、公式サイトから直接調べることができ、著作権者、利用者のいずれにおいても、収益・コストの計算が非常に便利になる。

 2020年10月、MCSCは、ホームページにAPPの形で使用料の配分明細を確認するサービスを開設した(8)。今後、統一著作権管理機関が著作権者や利用者に対して、より良いサービスを提供することが期待される。

改正3 放送権の内容

 新法第10条第11項では、著作権財産権の放送権が改正されている。具体的には、「無線方式によって著作物を公開放送又は伝達し、又は有線方式による伝達又は中継方法で公衆に対して著作物を伝達・放送」の記載が、「有線方式又は無線方式によって著作物を公開伝達」に改正された。

 この改正は、放送権の規制範囲に非対話型放送行為、いわゆるウェブ定時配信・同時配信を含めることで、放送権と情報インターネット伝達権の間にある現行法の空白を埋めることを目的としている。当該改正により、試合映像、スポーツ中継、音楽作品など、現在ウェブ定時配信・同時配信により侵害されている著作物を保護することができるようになる。
 現行法の枠組みでは、ウェブ定時配信・同時配信の権利侵害について、情報インターネット伝達権の侵害と認定される場合もあり、あるいは他の著作権の侵害と認定される場合、若しくは放送権の侵害と認定される場合もあって、現在司法実務では一貫した認定がなされていない状況である。以下、判例をご紹介する。

・寧波成功マルチメディア通信有限会社と北京時越ネット技術有限会社との間のテレビドラマ「奮闘」をめぐる情報インターネット伝達権紛争案件(9) 
 裁判所は、インターネット利用者が希望した際に著作物の一部がネットワークを通じて利用可能であることを条件として、著作物配信者の行為は、情報インターネット伝達権の定義である「公衆が自ら選定した時間、場所で著作物を入手させる」に該当すると判断した。

 法は、情報インターネット伝達権の行使を構成するために、著作物の全部または一部を公衆が好きな時に利用できるようにすることを要求していない。したがって、裁判所は、ウェブ定時配信は、原告の情報ネットワーク伝達の権利を侵害すると判断した。

 ・安楽映画会社と北京時越ネット技術有限会社等との間の映画「霍元甲」に関する著作権侵害紛争事件(10) 
 裁判所は、情報インターネット伝達権を用いて定時配信を保護する可能性を否定し、著作権法第10条第1項第17号の包括条項を用いて保護した上、その理由を詳しく説明している。

 著作権法の規定する情報インターネット伝達権は、対話型のネット伝達行為を規制する。
 つまりユーザーが、ある作品をいつ、どこで手に入れるかを、伝達する人のアレンジにより受動的に受け入れるだけではなく、能動的に選択できる。
 その後、2010年に北京高等法院は、「ネットワーク環境における著作権紛争事件の審理に関するいくつかの問題についてのガイダンス(一)(試行)規定」を発表している。この中で、この問題について、ネットワークサービスプロバイダーが事前に決められたスケジュールに従って、ネットワークを通じて著作物のオンライン再生を公衆に提供することは、情報ネットワーク伝達行為には当たらず、著作権法第10条第1項第17号を適用すべきであると結論付けた。

・CCTV国際とBaidu・Sohuとの間の『春節祭』をめぐる著作権侵害紛争(11) 
 第二審裁判所は、放送権を侵害していないとした第一審裁判所の認定を覆し、被告が『春節祭』のライブ放送を許可なく提供するという行為が、原告の放送権を侵害していると判断した。

 このように、裁判所において一貫性のない判断がされることにより権利保護に混乱が生じている現状は、新法の枠組みにより改善されることが期待される。

 日本の著作権法は、放送権と情報インターネット伝達権を公共放送権(日本語:公衆送信権)として組み合わせたもので、公衆への自動配信、無線放送、有線放送などが含まれ、定時配信・同時配信という形態も自然に含まれている。

改正4 賠償額

 新法第54条では、著作権侵害の賠償額は、権利者の実際の損失または侵害者の違法所得に応じて計算されると規定されている。
 実損や違法所得の計算が困難である場合、著作権の使用料を参考にして賠償を行うこととなる。権利侵害が故意かつ重大なものである場合、賠償額は上記の賠償額の1~5倍になることもある。
 今回の改正は、権利者の実損と侵害者の違法所得が確定できない場合、裁判所が50万元を上限として判決しなければならないという制限を撤廃するとともに、司法実務における著作権侵害賠償額の計算方法を変更するという流れを踏襲している。
 実は、「リトルイエローマン」画像をめぐるアメリカのユニバーサル社と千尺雪社、旺仔ドリンク社との間に起こった著作権侵害紛争において、第一審裁判所は、ユニバーサル社の「リトルイエローマン」画像使用料を参考し、現行法50万元の賠償額上限を超え、新法の考え方に沿ってユニバーサル社への請求賠償額510万元を全額認めている。他にも、100万元、数百万元を超える著作権損害賠償請求が容認された事例もある。

 日本の著作権法上の損害賠償額の決定は、(1)期待利益、(2)侵害者の収益、(3)得ることができたであろう使用料の3つの基準で行われており、新法と一致している。新法は、改正内容が国際ルールと部分的に調和したものとなっており、国際案件の解決に新たな新風をもたらしていることがわかる。

 

(1)参考案件:(2014)京民知初字第1号
(2)参考案件:(2015)浦民三(知)初字第191号
(3)参考案件:(2016)沪73民终190号
(4)参考案件:(2018)苏民终1054号
(5)参考案件:平成10年(ワ)第22568号
(6)https://ent.qq.com/zt2014/luantan43/index.htm
(7)https://www.jasrac.or.jp/info/create/calculation/simulation.html
       https://www.jasrac.or.jp/bunpai/rule1.html
(8)http://www.mcsc.com.cn/publicity/trends_663.html
(9)参考案件:(2008)海民初字第4015号
            (2008)一中民终字第5314号
(10)参考案件:(2008)二中民初第10396号
             (2009)高民终字第3034号
(11)参考案件:(2012)海民初字第20573号
             (2013)一中民终字第3142号