浅村特許事務所 知財情報
2015年12月15日
イギリス スイス型クレームに係る特許を巡っての高等法院、判決へ
弊所で今年2月に配信させて頂いた、スイス型クレームに係る特許を巡っての訴訟の続報です。
【背景】
Warner-Lambert社は、薬剤「プレガバリン(登録商標名:Lyrica)」を3つの疾患(てんかん、不安障害、疼痛)の治療用処方薬として販売していました。前記3つの疾患のうち、てんかん・不安障害にかかる特許の存続期間は満了していますが、「疼痛」においては第2医薬用途にかかる特許(欧州特許第0934061号、second medical use patent)がなお存続しています。
ジェネリック医薬品会社であるActavis社は、疼痛を除く2つの疾患(てんかん・不安障害)の治療用に限定して、登録商標「Lecaent」の下でプレガバリンを販売しようとしたところ、Warner-Lambert社側に侵害を申し立てられました。
【判決】
高等裁判所裁判官、Arnold J氏は、「①該当特許は開示不十分により、部分的に無効である。また、②例え無効でないにしても、侵害の事実は無い。③Warner-Lambert社はActavis社及び薬剤師に対して、根拠のない脅迫をした。」との結論を下しました。
【概要】
上記特許のクレーム1のスイス型クレームは「疼痛を治療するための医薬組成物の調製のためのプレガバリン・・・の使用」と表記しており、この「ための」の解釈について「予測可能性テスト(foreseeability test)」に基づき判断されました。
すなわち、
- Actavis社がLecaentを疼痛への使用を意図した事実はない。
- 医師は疼痛に対し一般名で薬を処方するに留まり、ジェネリック薬剤の使用/不使用に至っては限定しない。よって、医師に使用意図はない。
- 薬剤師も同様に、通常一般名で処方されるため、プレガバリンがどの適応症に使用されるのかを把握していない。よって、仮に薬剤師がLecaentを処方したとしても、そこに使用意図があったとは見なされない。
- 患者は、処方された通りに薬剤を服用するのであり、侵害はしていない。
として「特許権侵害はない」との結論が導かれました。
【まとめ】
今回の判決により、特許権が既に満了している適応疾患(本ケースの場合はてんかん及び全般性不安障害)について、Skinny Label等を用い、特許権が存続している他の適応疾患(本ケースの場合は疼痛)にジェネリック薬が使用されないような対策が取られていれば、ジェネリック会社によるそれ以上の「更なる対策」は不要であるであることが示唆されました。
また、Arnold J氏は、特許製品市場と、特許切れ製品市場とを区別するための新しいシステム、例えば特許権が存在する適応症に処方する場合には薬のブランド名を、特許権が存在しない適応症に処方する場合には一般名を記載するなどのシステムの導入が必要だとも述べました。
スイス型クレームの効力範囲については不確かなところがあり、今後の欧州各国での裁判所の判断が注目されます。
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