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EU CJEU予備判決(特許)

浅村特許事務所 知財情報 
 2015年3月20日


EU CJEU予備判決(特許)


 

 

[EUCJEU予備判決(特許)]

CJEUは、医薬品について適用されるSpecific Mechanism(特別機構)について、①特許権者等には並行輸入企図者からの事前の通知に対して反対の意思表示をする義務はないが、②当該意思表示前の輸入に係る損害については賠償を受けることができず、また、③当該事前の通知において輸入企図者が明確であれば、輸入企図者自ら当該事前の通知をする必要はなく、更に、④当該事前の通知は、特許権者等に対して行わなければならない、と解釈した。

 

事件の概要

EU域内における商品の自由な流通の例外として、医薬品については特別機構が設けられている。この特別機構の解釈について、CJEUは、英国の控訴院(Merck Canada社等がSigma社に対して起こした特許権侵害訴訟事件の控訴審)から4つの質問を付託され、本予備判決において回答した(EU機能条約(TFEU)第267条)。

特別機構(the 2003 Act of Accession)によると、特許出願時に医薬品を特許対象としていないEU加盟国(ポーランド(2004年5月1日EU加盟))から、特許を取得しているEU加盟国(英国)へ医薬品を並行輸入する場合、特許権者等は、当該医薬品の並行輸入を輸入国(英国)において阻止することができる。

特別機構は、第1パラグラフにおいて、特許権者等は当該並行輸入を阻止できると規定し、第2パラグラフにおいて、並行輸入を企図している者は、並行輸入前に特許保護を受ける者に事前の通知を行い、輸入国の関係当局に対して輸入申請する際、その旨(事前の通知)を証明しなければならないと規定している。

当該侵害訴訟事件において、Merck Canada社は、問題の医薬品(商品名:シングレア、有効成分:モンテルカストナトリウム)に係る特許(EP(UK) No.480717)及びSPC (supplementary protection certificate) (SPC/GB98/025)の所有者であった。しかし、当該事前の通知を受けたのは、Merck Sharp & Dohme社であり、当該通知に対して反対等の意思表示はしなかった。両社は、医薬品に係るメルクグループの会社である。

一方、当該事前の通知を行ったのは、Pharma XL社であり、実際に輸入を行ったのはSigma社であった。Pharma XL社は、Sigma社の関連会社である。

なお、当該特許の優先日は1990年10月12日、満了日は2011年10月10日であり、そのSPCの満了日は2013年2月24日であった。また、ポーランドにおいて、医薬品を特許対象とする改正法が発効したのは1993年4月15日であった。従って、当該特許の出願時、ポーランドにおいて医薬品は特許対象ではなく、侵害訴訟提起時(2011年6月10日)、特許は有効であった。

 

裁判所

CJEU(欧州連合司法裁判所)(小法廷)

予備判決を請求した裁判所

(質問を付託した裁判所)

イングランド・

ウェールズ控訴院

原告-被控訴人

(特許権者等)

Merck Canada Incと

Merck Sharp & Dohme Ltd

被告-控訴人

(並行輸入者等)

Sigma pharmaceuticals plc

事件番号

C-539/13

判決日

2015年2月12日

キーワード

EU新規加盟国 医薬品 並行輸入 消尽 Specific Mechanism
シングレア

予備判決の請求対象

(付託された質問)

特別機構の解釈

第1パラグラフの解釈

[1] 特許又はSPCの所有者又は受益者は、最初に、特別機構の第1パラグラフに基づく権利に依拠する意思表示をした場合にのみ、当該権利に依拠することができるか?(輸入に反対の意思表示をする必要があるか?)

[2] 当該回答がイエスの場合、

(1) 当該意思表示の方法は?

(2) 当該意思表示の前に生じた医薬品の加盟国への輸入又は加盟国における販売について、当該権利の主張は妨げられるか?

第2パラグラフの解釈

[3] 第2パラグラフに基づく特許又はSPCの所有者又は受益者に対する事前の通知は“誰が”行わなければならないか?

[4] 第2パラグラフに基づく事前の通知は“誰に”行わなければならないか?

回答

[1]の質問への回答

特許又はSPCの所有者又は受益者は、第1パラグラフに基づく権利に依拠することを主張する前に、通知を受けた輸入について、反対の意思表示をすることを、特別機構の第2パラグラフにより要求されていない、と解釈されなければならない。

[2]の質問への回答

当該所有者又は受益者が、第2パラグラフに示された1か月の待機期間内に、当該意思表示をしない場合、問題の医薬品の輸入を企図している者は、権限のある当局に当該医薬品の輸入(あるいは、輸入及び販売)に対する許可を合法的に申請することが可能である。

従って、結果的に、当該所有者又はその受益者は、反対の意思表示前に行われた当該医薬品の輸入及び販売については第1パラグラフに基づく権利に依拠することはできない。(並行輸入に反対の意思表示をする前の輸入/販売行為に基づく損害については賠償を受けることができない。)

[3]の質問への回答

第2パラグラフは、当該通知から輸入/販売企図者を明確に特定することができる場合は、当該輸入/販売企図者自ら通知する必要はないと解釈されなければならない。

[4]の質問への回答

第2パラグラフは、特許又はSPCの所有者又は受益者に対して通知する必要があると解釈されなければならない。(ここで、受益者とは、特許又はSPC所有者に対して法律によって与えられる権利を享受する者をいう。)

裁判官

M. Ile šič(裁判長)、A. Ó Caoimh、 C. Toader、 E. Jarašiunas、

C. G. Fernlund(報告担当裁判官)

法務官

N. Jääskinen

 

 

 

Specific Mechanism (Chapter 2 of Annex IV to the 2003 Act of Accession)

With regard to the Czech Republic, Estonia, Latvia, Lithuania, Hungary, Poland, Slovenia or Slovakia, the holder, or his beneficiary, of a patent or supplementary protection certificate for a pharmaceutical product filed in a Member State at a time when such protection could not be obtained in one of the abovementioned new Member States for that product, may rely on the rights granted by that patent or supplementary protection certificate (‘SPC’) in order to prevent the import and marketing of that product in the Member State or States where the product in question enjoys patent protection or supplementary protection, even if the product was put on the market in that new Member State for the first time by him or with his consent.

Any person intending to import or market a pharmaceutical product covered by the above paragraph in a Member State where the product enjoys patent or supplementary protection shall demonstrate to the competent authorities in the application regarding that import that one month’s prior notification has been given to the holder or beneficiary of such protection (‘the Specific Mechanism’).

 

CJEU

http://curia.europa.eu/juris/document/document.jsf?text=&docid=162241&pageIndex=0&doclang=EN&mode=req&dir=&occ=first&part=1&cid=31201

 

ANNEX IV (Act of Accession 2003)

http://ec.europa.eu/enlargement/archives/pdf/enlargement_process/future_prospects/negotiations/eu10_bulgaria_romania/treaty_2003/en/aa00031_re03_en.pdf

(開いて2頁目に“2. COMPANY LAW”があり、その中に“SPECIFIC MECHANISM”があります。)

 

EP0480717

http://worldwide.espacenet.com/publicationDetails/biblio?DB=EPODOC&II=0&ND=3&adjacent=true&locale=en_EP&FT=D&date=19920415&CC=EP&NR=0480717A1&KC=A1

 

SPC/GB98/025

https://www.ipo.gov.uk/p-find-spc-byspc-results.htm?number=SPC/GB98/025

 

UK Court of Appeal

http://martinhowe.co.uk/pubs/legal/merckvsigma_judgment_18april13.pdf