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イギリス 高等法院判決

浅村特許事務所 知財情報 
 2015年2月28日


イギリス 高等法院判決


[英国、高等法院判決]

複数の疾患の治療に効果のある薬剤について、その1つの疾患についてのみスイス型クレームに係る特許を有している場合に、薬剤師による当該薬剤の特許に係る疾患への配剤の禁止等の暫定的救済を求めた事案である。

裁判官は、スイス型クレームにおいて要求される主観的意図につき、①製造業者の、②特定の疾患を治療するために使用されるであろうとの意図である、と判示した。

 

事件の概要

Warner-Lambert社は、登録商標「Lyrica®」の下で薬剤プレガバリンを3つの疾患(癲癇、全般性不安障害、疼痛(特に、神経障害性疼痛))の治療用の処方薬として販売している。当該薬剤の特許権の存続期間は既に満了しているが、前記3つの疾患のうち、疼痛については第2医薬用途に係る特許(欧州特許(英国)第0934061号(スイス型クレーム))をなお所有している。

Actavis社(ジェネリック医薬品供給業者)は、法的権限を有する、疼痛を除く2つの疾患(癲癇及び全般性不安障害)の治療用に限定して(スキニ・ラベル)、登録商標Lecaent®の下でプレガバリンの販売承認を取得しようとした。

そこで、Warner-Lambert社は、上記販売により特許が侵害されるとして、差止めの仮処分を求めると共に、薬剤師に供給されたLecaent®の各包装に、当該製品が疼痛治療については承認されていないので、当該目的のために配剤してはいけない旨の通知を添付すること等、疼痛治療用に配剤されないための確実な手段を採る義務をActavis社に課す等の救済を求めた。

 

なお、処方箋には、通常、疾患名は記載されていないため、薬剤師は対象疾患を知らない。また、特許に係る疾患治療用としての配剤が禁止されていなければ、より安価なジェネリック薬を調剤することが予想される。更に、本件の場合、特許に係る疾患とそれ以外の疾患とで、投与計画に相違はない。

本判決においては、多岐に亘る検討がなされているが、以下に、スイス型クレームに関する中心的争点について紹介する。

 

裁判所

イングランド及びウェールズ高等法院(特許裁判所)

当事者

原告

Warner-Lambert Company, LLC

被告

Actavis Group PTC EHFら

事件番号

HC-2014-001795

判決日

2015年1月21日

関連条文及びキーワード

特許法第60条(1)(c) スイス型クレーム スキニ・ラベル 主観的意図 プレガバリン

審理対象

Actavis社がLecaent®を販売することによりWarner-Lambert社の特許を侵害することになるとして、差止めの仮処分等の救済を求めるWarner-Lambert社の申立て

結論

Actavis社がLecaent®を販売することによりWarner-Lambert社の特許を侵害することになる、とのWarner-Lambert社の主張について、審理すべき重要な問題は存在しない。

審理すべき重要な問題があるとしても、Warner-Lambert社が求める救済を認めないことによりWarner-Lambert社にもたらされる損害よりも、当該救済を認めることによりActavis社にもたらされる損害の方が大きいであろう。

理由

[1] クレーム1(スイス型クレーム)は、

「疼痛を治療するための医薬組成物調製のための[プレガバリン]・・・の使用」

と規定しており、主観的意図を要求している。(下線及び省略は幣所にて)

Lecaent®は当該方法を用いることにより直接得られるプロダクトであることに争いはない。

争点は、Actavis社(又は製造業者)によるプレガバリンの製造が当該クレームの範囲に入るかどうかである。これは、「疼痛を治療するための」の解釈に関係する。

即ち、争点は、Lecaent®が、疼痛治療を意図された医薬組成物調製のためにプレガバリンを使用して得られたプロダクトであるかどうかである。

これは、上記主観的意図が、誰の、どのような意図かに依る。

[2] (1) 誰の意図か。

スイス型クレームは、(得られる医薬組成物に対するクレームではなく、)製造方法のクレームであるから、(医薬組成物を扱う薬剤師ではなく、)製造業者を対象としている。

従って、当該主観的意図は、製造方法を実行する者の意図であり、本件ではActavis社(製造業者)の意図である。

(2) どのような意図か。

薬剤又は医薬組成物が特定の疾患を治療するために使用されるであろうという(製造業者側の)意図である。

[3] Warner-Lambert社の主張は、特許法第60条(1)(c)に基づいており、「疼痛を治療するための」というActavis社側の主観的意図についての申立てに基づいていない。

[4] 従って、特許法第60条(1)(c)に基づくWarner-Lambert社の主張には、審理すべき重要な問題は存在しない。

 

なお、Warner-Lambert社側は、主観的意図に係る申立てとするための申立理由の補正の意向を示した。

裁判官

Arnold

 

なお、EPO技術審判部の審決T1780/12(IPグローバル情報第237-5号参照)に示されたように、スイス型クレーム(目的限定プロセスクレーム)と、第2医薬用途クレーム(EPC2000)(目的限定プロダクトクレーム)とは、保護範囲が異なるので、スイス型クレームに係る本判決は、必ずしも第2医薬用途クレーム(EPC2000)には当てはまらない。

 

 

特許査定後の補正(Central limitation)が認められたクレーム1及び3(判決文より)

Claim 1. Use of [pregabalin] or a pharmaceutically acceptable salt thereof for the preparation of a pharmaceutical composition for treating pain.

Claim 3. Use according to Claim 1 wherein the pain is neuropathic pain.

(仮訳)

クレーム1:疼痛を治療するための医薬組成物調製のための[プレガバリン]又は薬学的に許容可能なその塩の使用。

クレーム3:前記疼痛が神経障害性疼痛である請求項1記載の使用。

 

スイス型クレーム:“疾患Yを治療するための薬剤(又は医薬組成物)製造のための物質Xの使用”

第2医薬用途クレーム(EPC2000):“疾患Yを治療するためのプロダクトX”

 

特許法第60条(侵害の意味)

Meaning of infringement

60.-(1) Subject to the provisions of this section, a person infringes a patent for an invention if, but only if, while the patent is in force, he does any of the following things in the United Kingdom in relation to the invention without the consent of the proprietor of the patent, that is to say –

(a) where the invention is a product, he makes, disposes of, offers to dispose of, uses or imports the product or keeps it whether for disposal or otherwise;

(b) where the invention is a process, he uses the process or he offers it for use in the United Kingdom when he knows, or it is obvious to a reasonable person in the circumstances, that its use there without the consent of the proprietor would be an infringement of the patent;

(c) where the invention is a process, he disposes of, offers to dispose of, uses or imports any product obtained directly by means of that process or keeps any such product whether for disposal or otherwise.

(2) Subject to the following provisions of this section, a person (other than the proprietor of the patent) also infringes a patent for an invention if, while the patent is in force and without the consent of the proprietor, he supplies or offers to supply in the United Kingdom a person other than a licensee or other person entitled to work the invention with any of the means, relating to an essential element of the invention, for putting the invention into effect when he knows, or it is obvious to a reasonable person in the circumstances, that those means are suitable for putting, and are intended to put, the invention into effect in the United Kingdom.

 

UK High Court

http://www.bailii.org/ew/cases/EWHC/Patents/2015/72.html

 


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