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イギリス 特許法が改正され、特許権の効力が及ばない範囲が拡大された

浅村特許事務所 知財情報 
 2014年10月25日


英国 特許法が改正され、特許権の効力が及ばない範囲が拡大された


 

【要約】

特許法が改正され、特許権の侵害を構成しない行為として第60(5)(b)に規定される発明主題に関する実験目的のためになされる行為の範囲が拡大された。

これにより、英国内外の規制当局に対して、販売承認取得のためのデータを提供するために行われる「医薬品評価」を目的とする実施(特許品の使用)等についても、「実験目的での使用の例外」の範囲に含まれることになった。

 

[1] 改正の概要を紹介する。

2014年(特許法)改正令により、特許法第60条が改正され(第60条(6C)の後に、新たに(6D)~(6G)が加入された。下記参照。)、2014年10月1日に発効した。

この改正は、主に、臨床試験の実施に関わる企業及び個人、あるいは医薬の医療技術評価のための情報を提供するために実施を行う企業及び個人に影響を及ぼす。

本改正により、特許法第60条(5)(b)における試験又は研究目的による使用の例外の範囲が拡大された。

これにより、企業は、ある薬品に販売承認を付与してもよいかどうかを判断する規制当局に対して情報を提供するために、試験又はその他の行為を行う場合に、特許品を使用することが可能になった。

更に、企業は、医療技術評価のための情報を供給するために行われる試験又はその他の行為において、特許品を使用することが可能となった。

なお、本改正に遡及効はなく、2014年10月1日以降に行われる行為のみが、本改正による特許権の効力が及ばない範囲に入ることになる。

以下、具体的に紹介する。

(1)「医薬品評価(medical product assessment)」の意味

本改正により、追加された第60条(6E)に、「医薬品評価」の意味が定義されている。

この定義によると、「医薬品評価」には、①規制当局により求められる情報を提供するために行われる試験又はその他の行為(例えば、臨床試験等)が含まれることになる。

更に、②政府又は公的団体が、ある医薬品を、医療を提供する際に使用してもいいかどうかを評価(例えば、医療技術評価等)可能とするために行われる試験又はその他の行為も含まれることになる。

規制団体(①)の例としては、医薬品及び医療品規制庁(MHRA)及び欧州医薬品庁(EMA)を挙げることができ、また、ある新しい医薬を、医療を提供する際に使用してもよいかどうかを評価する団体(②)の例としては、英国国立医療技術評価機構(NICE)を挙げることができる。

(2) 本改正には、ある医薬品に対して外国で承認を取得するために行われる実施が含まれるか?

含まれる。また、実施の目的が医薬品評価である場合には、改正令に定義されているように、改正の範囲内に含まれる。

(3) どのような行為が、本改正による新しい例外(特許権の効力が及ばない範囲)に含まれることになるのか?

特許侵害に対する新しい例外の正確な範囲は裁判所の判決によることになるが、以下の行為は例外の範囲に含まれると考えられる。

① 英国又は英国以外の国における規制当局に対して新しい医薬品に関するデータを提供するために行われる行為

② 医療技術評価を行う英国又は英国以外の国における団体に対して新しい医薬品に関するデータを提供するために行われる行為

③ 英国又は英国以外の国における規制要件に適合させるための承認後の研究

④ ある医薬品に関して英国又は英国以外の国における許可について補正するために行われる行為

⑤ 既存の医薬品に対する新しい適応症についての英国又は英国以外の国における許可を取得するために行われる行為

⑥ 英国又は英国以外の国の規制団体により要求されるあらゆる試験又は研究

⑦ 後続品(ジェネリック医薬品)又はバイオ後続品(バイオシミラー)のEUにおける完全な許可を取得する目的のために行われる行為(例えば、ボーラー条項の例外(第60条(5)(i)参照)によって免除される簡易手続が使用されない場合)。

⑧ 後続品又はバイオ後続品の医療技術評価に関連する行為

⑨ 後続品又はバイオ後続品に対するEU域外における規制当局の許可を取得するためのデータを供給するために行われる行為

(4) 本改正には、製品において特許医薬を商業的に使用する行為が含まれるか?

本改正により加入された新しい規定は、販売、商業的供給、又は販売若しくは供給のための製造等の商業的行為にまで拡張されない。製品の販売又は商業的供給が可能となるためには、特許所有者とライセンス又はその他の契約を締結することが必要である。

(5) 本改正には、特許医薬を対照薬として使用することが含まれるか?

含まれる。医薬品評価において特許医薬を対照薬として使用することは、改正令に規定されているように、本改正に含まれる。

(6) 本改正には、配合剤が含まれるか?

配合剤に関する医薬品評価は、新しい規定の範囲に含まれる。新しい規定には、特許薬がその配合剤の一部である場合が含まれる。

 

[2] FAQを紹介する。

(1) 医療機器評価は、本改正に含まれるか?

本改正は、医薬品評価に関連する行為についてのみ適用される。人用医薬品は指令2001/83/ECに定義されており、動物用医薬品は指令2001/82/ECに定義されている。

医療機器がこれらの定義のいずれにも含まれず、各々の指令に基づいて許可を得る必要がない場合、本改正の範囲には含まれないことになるであろう。

(2) 新しい医薬品の薬物送達システムの評価は、本改正に含まれるか?

本改正は、指令2001/83/ECに定義されるような人用医薬品又は指令2001/82/ECに定義されるような動物用医薬品にのみ適用される。

薬の薬物送達システムがこれらの定義のいずれの範囲にも含まれず、各々の指令に基づいて許可を得る必要がない場合は、本改正に含まれないことになるであろう。

(3) 植物防疫剤は、本改正に含まれるか?

本改正は、指令2001/83/ECに定義されるような人用医薬品評価又は指令2001/82/ECに定義されるような動物用医薬品評価にのみ適用される。従って、植物防疫剤評価に関連する行為は、本改正には含まれない。

(4) 医薬品評価においてリサーチツールを使用することは、特許侵害の責任を免れるか?

リサーチツールは薬物療法の一部をなすことがあり、リサーチツールを医薬品評価の目的において、又はそのために使用する場合、リサーチツールの使用は、本改正に含まれる。しかし、リサーチツールの使用は、改正令において定義された特定の行為についてのみ特許侵害の責任を免れるに過ぎないから、医薬品が一旦商業化されると、リサーチツールを使用するためには、ライセンス契約が必要になるであろう。上記[1](4)の「本改正には、製品において特許医薬を商業的に使用する行為が含まれるか?」を参考のこと。

(5) 初期段階のリサーチは含まれるか?

初期段階のリサーチは、改正前の研究目的での使用の例外の下で、特許侵害の責任を免れていたようである。しかし、初期段階の実施が改正令における定義の範囲に含まれる場合、その実施は本改正により特許侵害の責任を免れることになるであろう。

(6) 医薬品評価において特許品を使用するためにはライセンスが必要となるか?

実施しようとする行為が改正令における「医薬品評価」の定義に含まれる場合、特許品を使用するためにライセンスを取得する必要はない。

 

Meaning of infringement

60 (1)

(6C) —

(6D) For the purposes of subsection (5)(b), anything done in or for the purposes of a medicinal product assessment which would otherwise constitute an infringement of a patent for an invention is to be regarded as done for experimental purposes relating to the subject-matter of the invention.

(6E) In subsection (6D), “medicinal product assessment” means any testing, course of testing or other activity undertaken with a view to providing data for any of the following purposes—

(a) obtaining or varying an authorisation to sell or supply, or offer to sell or supply, a medicinal product (whether in the United Kingdom or elsewhere);

(b) complying with any regulatory requirement imposed (whether  in the United Kingdom or elsewhere) in relation to such an authorisation;

(c) enabling a government or public authority (whether in the United Kingdom or elsewhere), or a person (whether in the United Kingdom or elsewhere) with functions of—

(i) providing health care on behalf of such a government or public authority, or

(ii) providing advice to, or on behalf of, such a government or public authority about the provision of health care,

to carry out an assessment of suitability of a medicinal product for human use for the purpose of determining whether to use it, or recommend its use, in the provision of health care.

(6F) In subsection (6E) and this subsection—

“medicinal product” means a medicinal product for human use or a veterinary medicinal product;

“medicinal product for human use” has the meaning given by article 1 of Directive 2001/83/EC(2);

“veterinary medicinal product” has the meaning given by article 1 of Directive 2001/82/EC(3).

(6G) Nothing in subsections (6D) to (6F) is to be read as affecting the application of subsection (5)(b) in relation to any act of a kind not falling within subsection (6D).

(7) —

 

 

 


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