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オーストラリア 連邦控訴裁判所の間接侵害に関する判示

浅村特許事務所 知財情報 
 2014年10月18日


オーストラリア 連邦控訴裁判所の間接侵害に関する判示


【要約】

連邦控訴裁判所は、ワーナーランバート事件において、複数の用途(適応症)を有する医薬品に関し、特許においてクレームされた適応症とは異なる適応症に限定して医薬品登録を受ける、所謂スキニ・ラベリングの手段を採ることによっては、たとえ、その限定された適応症に対して使用することを推薦する通知書を添付したとしても、その医薬品の供給行為は間接侵害となる可能性がある、と特許権者にとって有利な判断を示し、中間的差止めの請求を認めた。

 

2014年5月19日、Warner-Lambert Company LLC v Apotex Pty Ltd [2014] FCAFC 59事件について満場一致で下された判決において、連邦控訴裁判所は、治療方法の特許においてクレームされた適応症とは異なる適応症に対してARTG登録(オーストラリア医薬品登録:Australian Register of Therapeutic Goods)を受けるという所謂スキニ・ラベリング (skinny labelling)の手段は、たとえ、ARTG登録された適応症に限定された用途を推薦する、医師及び薬剤師に向けた暫定的な通知書(pro forma letter)が添付されている場合であっても、必ずしも「供給」行為が特許権の間接侵害であるとの認定を回避できないことを明確にした。

連邦控訴裁判所は、供給される医薬品が特許においてクレームされた用途に使用されると「信じる理由」を供給者が有している、と証拠により示唆される場合には、特許権の間接侵害を回避することはできないと判示し、特許法(1990年)117条(2)(b)の規定が先発医薬品製造業者にとって強力な手段になり得ることを認めた。

 

[1] 特許法117(2)(b)

117条(2)(b)は、何人かによる製品の使用が特許を侵害することになる場合、当該製品が一般的な市販品 (staple commercial product) ではなく、供給者が、その者がその使用にあてるであろうと信じる理由を有する場合には、その供給者からその者への当該製品の供給は、前記供給者による特許権の侵害となる、と規定している。

 

Patents Act 1990 Section 117

Infringement by supply of products

(1) If the use of a product by a person would infringe a patent, the supply of that product by one person to another is an infringement of the patent by the supplier unless the supplier is the patentee or licensee of the patent.

(2) A reference in subsection (1) to the use of a product by a person is a reference to:

(a) if the product is capable of only one reasonable use, having regard to its nature or design –that use; or

(b) if the product is not a staple commercial product—any use of the product, if the supplier had reason to believe that the person would put it to that use; or

(c) in any case—the use of the product in accordance with any instructions for the use of the product, or any inducement to use the product, given to the person by the supplier or contained in an advertisement published by or with the authority of the supplier.

 

[2] 前審(第一審)の概要

ワーナーランバートは、豪州第714980号特許の特許権者であり、当該特許は、プレガバリンを包含する化学式で特定される化合物を有効成分とする痛みの治療に関する。

アポテックス社は、神経因性疼痛の治療(神経因性疼痛)及び部分発作を伴う成人の補助療法(発作適応症)に限定された、活性成分としてプレガバリンを含有する種々の医薬品に対するARTG登録を取得した。その後、アポテックス社は、その登録及び製品情報を補正して、発作適応症に対する登録に限定した。

前審では、アポテックス社によってプレガバリンが一般的な市販品 (staple commercial product) であることが示されていないこと、並びに成人の神経因性疼痛の治療にプレガバリン含有製品をアポテックス社が供給するのを止めさせる中間的差止めにアポテックス社が異論を唱えないこと認めた上で、裁判官は、発作適応症に対するプレガバリンの供給を差し止めることを認めなかった。その際、裁判官は、プレガバリンが117条(2)(b)の規定が意味する範囲内で神経因性疼痛の治療のために処方され、且つ使用されるであろうと「信じる理由」についてprima facie caseが確立されるのに必要なレベルにまで達していないと判示した。

 

[3] 連邦控訴裁判所判決

連邦控訴裁判所は、以下のように認定して前審の判決を覆した。

(1) ワーナーランバートの主張によるprima facie caseの程度を評価する際、前審の裁判官は、発作適応症に関するマーケットが実際には存在せず、且つアポテックス社による限定されたARTG登録及び暫定的な通知書にもかかわらず、医者及び薬剤師は神経因性疼痛についてはラベリングしていないアポテックス社による生物学的同等性を有する医薬品を処方する可能性が高い、とのワーナーランバート社からの証拠を適切に評価しなかった点において誤っている。

(2) 両当事者の比較考量によれば、前審の裁判官が認定したよりも、より強くprima facie caseに結び付けられ、ワーナーランバートに有利な判断がされるものとする。

 

最終的に、連邦控訴裁判所は、中間差止めの範囲を、プレガバリンを含む全てのアポテックス社の製品にまで及ぼした。

 

 

 


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