浅村特許事務所 知財情報
2014年8月25日
カナダ 連邦裁判所、有用性を裏付ける根拠は、用途発明についてのみ必要であると判示
【要約】 「保証された有用性」を裏付けるために、「事実的根拠及び確実な理由付けの道筋」を示す開示要件は、既知の化合物に対する新規な用途をクレームする特許の場合にのみ必要であると判示した。 アストラゼネカ社の胃酸関連疾患の治療に使用される単一のエナンチオマーからなる化合物による治療効果が、従来から使用されてきたラセミ体からなる化合物の場合よりも有効であるとする改良された治療効果が十分には開示されていないとして、(新規性及び進歩性は認められたものの、)治療効果の改良(有用性)については、実証されておらず、且つ確実な予測の開示もないと認定され、有用性の欠如により無効であると判示された。 |
連邦裁判所は、2014年7月2日、AstraZeneca Canada Inc. v. Apotex Inc.事件において、特許が既知の化合物に対する新規な用途をクレームする場合にのみ、有用性の確実な予測を裏付けるものとして、事実的根拠及び確実な理由付けの道筋の開示が必要であると判示した(2014 FC 638)。
本事件では、新規性及び進歩性は認定されたものの、改良された治療効果について、有用性の確実な予測が開示されていないと認定され、有用性の欠如により無効とされた。
事件の概要
アストラゼネカ社は、オメプラゾール(ラセミ体)の(-)-エナンチオマーであるエソメプラゾール(光学純度99.8%以上)の塩をクレームしているカナダ特許第2,139,653号の所有者である。これは、逆流性食道炎を含む胃酸が関係する疾患を治療するために有効に使用され、プロトンポンプ阻害剤(PPI)として販売された(商品名ネキシウム®)。なお、ラセミ体であるオメプラゾールは、当該特許出願時に、有効なPPIであるとして当業者に知られていた。
一方、アポテックス社は、アストラゼネカ社のエソメプラゾールのマグネシウム塩よりなる後発医薬品の製造を開始した。
なお、アストラゼネカ社は、PM(NOC)規則(特許医薬品製造・販売許可規則(Patented Medicines (Notice of Compliance) Regulations)に基づく先の手続によっては、アポテックス社による当該後発医薬品の販売を禁止することができなかったため、アポテックス社は、当該後発医薬品の販売が可能となっていた。
そこで、アストラゼネカ社は、アポテックス社による販売に対して、損害賠償を求めて、連邦裁判所に、侵害訴訟を提起した。
これに対抗して、アポテックス社は、反訴を提起して、当該特許の無効を主張した。
連邦裁判所は、当該特許における保証された有用性は、「当該化合物によって、個体間の変動がより低減される等の改良された治療効果がもたらされる」ことであると解釈した。
そして、連邦裁判所は、3つの人の肝臓及び6つの血漿再分析に関するアストラゼネカ社の研究データによっては、全患者母集団に対する治療効果の予測を裏付けるための十分な事実的根拠が提供されたとは言えないことを根拠に、保証された有用性が確実には予測されていないと認定し、有用性の欠如を理由に、特許は無効であると判示した。
連邦裁判所は、用途発明における事件においては、有用性は特許の独占権と引き換えに提供される唯一のものであるため、特許における事実的な根拠及び確実な理由付けの道筋を「適切に開示する」という要件は、新規な用途の確実な有用性の予測に対してのみ適用されることを明確にした。
連邦裁判所は、審理において、Apotex Inc. v. Wellcome Foundation Ltd., 2002 SCC 77及びSanofi-Aventis v. Apotex Inc, 2013 FCA 186、並びに、特許法第2条(有用性の要件)及び第27条(3)(開示要件))に依拠した。
なお、本事件は、上級審で更に審理される可能性がある。
第2条(定義) — 「発明」とは、新規かつ有用な技術、方法、機械、製造物若しくは合成物、又は技術、方法、機械、製造物若しくは合成物の新規かつ有用な改良をいう。 — |
第27条(3)(特許出願) — 明細書 (3) 発明の明細書には、 (a) その発明及び発明者が考えたその作用又は用途について正確かつ十分に記載し、 (b) その発明が属するか又は極めて密接に関係する技術若しくは科学分野における熟練者が、それを製造し、組立てし、調合し又は使用することができる程度に、完全、明瞭、簡潔かつ正確な用語で、方法においては各種の工程について、また機械、製造物又は合成物においてはそれを組立てし、製造し、合成し若しくは使用する方法について明確に記載し、 (c) 機械の場合は、機械の原理及び発明者がその原理の応用として考える最良の実施態様について説明し、また (d) 方法の場合は、その発明を他の発明から区別することができるように、もしあれば、種々の工程の必要な順序について説明しなければならない。 |
連邦裁判所の判決
https://www.canlii.org/en/ca/fct/doc/2014/2014fc638/2014fc638.pdf
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